岸田文雄首相は、2027年度(今から5年後)の防衛費と関連経費の合計を、国内総生産(GDP)比で2%にするための「財源確保措置」を年内に決めるよう指示した。従来の防衛予算は5兆円余りであり、GDP比は0.96%になる。GDP比2%であれば、11兆円程度となり、現状から見ると1年に5兆円以上の増額となる。岸田首相はこの「財源確保措置」を原則として「増税」で賄うように指示した。
この議論は2つの問題に分けて考える必要がある。一つは果たして防衛費が11兆円程度(GDP比2%)の増額が必要かどうかであり、二つ目はその費用の財源をどうするのか(増税か国債発行か)ということだ。どちらも大きな問題なので慎重に賛成、反対双方の立場から慎重に検討する必要がある。日本は、戦後70年以上国の防衛をアメリカに頼って、ひたすら経済に集中し、戦争からの国の再建を進めてきた。この戦略は吉田茂首相によって始められたが、日本の戦後著しい復興を成し遂げる原動力になった。しかし、その結果、日本の国民は、国の防衛に対して否定的あるいは無関心となったのである※。防衛予算は戦後一貫してGDP比1%以内に抑えられた。
防衛省資料
防衛予算の内容についてはあまり議論されず、ひたすら1%以内であれば良しとしたのである。今回の防衛費の増額は、ウクライナに対するロシアの侵略によって、NATO諸国が防衛費の増額を行い、アメリカも日本に対して同様の要請をしたことによる。自衛隊内部からの予算の増額要請は過去にあったのだろうが、今回の場合は外部からの影響によるものだ。従って、なぜ防衛費を5兆円余り、従来の2倍に増やすのかについての議論は今のところ明らかではない。これは本末転倒であり、まず、何をなぜ増やす必要があるのかについて真面目な議論が必要だ。しかし、いつも通り政府は議論を行うことに対して消極的である。例えば、自衛隊員の給与あるいは生活設備は今のままでよいのか、あるいは、装備の入れ替えが必要なのかなどの「地味な」議論は一切ない。ひたすら、「反撃能力」を高めるためにミサイルが必要などの「派手な」議論が先行している。敵基地を攻撃する「反撃能力」を問題にするなら、ウクライナに見られるように、ミサイルや空爆などの空中戦で被害を受けたら降伏する国民かどうかが問題となるだろう。従って、まず、増額の中身を示し、その内容についての議論を活発にする必要がある。また、外部からの攻撃とはどの様な場合を想定して、その場合、なにが今と比べて必要なのかについて示す必要がある。
第二の論点である、どのような財源で、予算の5兆円余りの増額を賄うかについては、中身の議論よりやや遅れても良いが、現在の日本の財政状態からは、捻出が難しいことは想像できるだろう。ただ、一部からは、防衛費増額への対処を「国債の発行」によれば良いとの意見もあるようだ。これは、戦前の政府が行った、軍事費の国債による調達(戦争末期には予算の80%が軍事費でその大半が国債発行)ことを想起させる。本来国を守ることは徴兵制が原則で、兵役は国民の義務であると思われた時期もあった。現在も徴兵制を取っている国も多い。日本の自衛隊は職業軍人(自衛隊は志願性)によってまかなわれている。この費用を国民が負担するのは、徴兵制度と対比されるべきものであり、自ら戦う代わりに費用を負担することになるのだ。従って、防衛費の増額を現在の国民が負担せず、将来につけを回して、国債で賄うようなことを行うべきではない。
今回、防衛費増額あるいはその財源問題が提起されたのは好ましいことである。憲法改正論議と同様に、国民的な議論を十分に行い、日本の方向を決めるべきであると思われる。提議された課題は一方的に良いことはなく、どちらを取っても良い点と悪い点が併存していることを前提としているので、国民がどちらを選ぶのかが問題となるのである。
※ケネス・B・パイル;アメリカの世紀と日本
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