人口減少が激しい日本にとって、成長の3大要素である①労働力、②資本、③生産性の、①が欠けて、②を躊躇っている状態では、経済力を維持するためには③の生産性向上に賭けるしかない。しかし、個別の事業でなく、国全体としての生産性の向上とは、効率の悪い産業から効率の良い産業への切り替えを意味する。もちろん、ボーモルの言う「コスト病」※を無視しようというわけではない。これら生産性を上げようがない分野、例えば、音楽その他の芸術、教育、多くの対人サービスなどで、無理に生産性を上げる必要はない。しかし、これらを除く数多くの分野では、産業構造の転換、つまり、人の移動が起こらなければならない。日本では、「解雇規制」のために、このような移動が妨げられている。
「解雇規制」の緩和も大切だが、企業の一般職重視の考えも改める必要がある。一般職重視とは、管理職に上がるためには(給与が上がるためには)、多くの職種を経験することが必要であるとの考えだ。同時に管理職は、専門職よりも給与が高いという常識も改める必要がある。管理職は、「マネジメント」という専門的な技術を発揮する一種の専門職である考えを持たなければならない。そうすると、職種階層は少なくなり、専門職の価値は高くなるだろう。
それとともに、教育では普通科教育至上主義を改めることも大切だ。普通科教育は記憶と計算を能力の第一に据えているが、人の能力は記憶力や計算能力が全てではない。普通科教育にすべての人が集中する必要もないのである。いわゆる職人(庭師、大工、調理師などの技術者を含む)や専門職(情報技術者、医師、看護師、介護士、保育士、教師など)は、人間の生活に活気や潤いを与え、携わっている人たちに、それ相応の収入を提供するし、定年がないことなどの利点もある。現在のように、成績が良い子も悪い子も挙って必ず普通科教育へ進む傾向は無駄なことであるし、将来の需要も少ない。しかし、一方で、記憶力や計算能力が高いが、運動能力が低く、手足の器用さがなく、芸術性がない子供は普通科教育に進むべきだろう。
下図は、日本の職業別就業人口の変化を1953年から2020年まで長期間に渡って示している。
このグラフでは、最も上位(労働人数の多い)の製造・制作・機械運転及び建設作業者(いわゆる製造業に従事している人)が1997年を境に急速に減少していることが目につく。いまだに「技術立国日本」と唱えている人が多いが、今やそうではないのだ。さらに、販売従事者(緑色)、いわゆる営業職社員も低下している。その反面、専門的・技術的職業従事者(情報技術者、医師、看護師、保育士、弁護士、教員、介護士など)(青色)、保安職業・サービス業従事者(調理人、ビル管理、配送センター、その他サービス業従事者)(紫色)、事務従事者(赤色)が増加している。ただし、事務従事者の増加は日本特有な現象であるが、このグループは、ITの進展によって将来減少に転じることは確実なので注意が必要だ。
産業構造から言えば、製造業は少数の従事者で大きな生産性を背景とし、どの程度効率的に生産を行うかの競争である。究極的には人間は排除される。製造業は人間が行う「ものづくり」ではないのだ(職人のものづくりは除く)。その反対に、専門的・技術的職業従事者への需要が大きくなっている。いわゆるSTEM※を習得している人たちへの需要は大きく増加する。そして、同時に対人サービス業従事者への需要も今後大きくなるし、それに伴って今まで低かった対人サービス提供者、とくに専門性の強い従業者への給与も高くなるだろう。つまり、製造業は産業構造では相変わらず重要で、産業の基盤となるが、そのことと、人間が職業を選ぶこととは異なるのだ。普通科教育出身者の必要な出番は少なくなる。究極的には、STEM系の技術者や、対人サービス従事者の必要性はますます高くなり、給与は上昇するだろう。
※ボーモルの「コスト病」;生産性向上が不可能な業種がある。例えば、芸術、教育、介護などであること。
※STEM;Science(科学)、Technology(テクノロジー)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとったもの
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