留学生の日本語資格取得の外発的動機づけの大切さ

自分自身の現状を知り「資格に合格する」「スコア〇〇〇点を取得する」という目標を立てた時に、現状と目標とのギャップを把握し埋める取組みが大切なのは言うまでもない。例えば、現状と目標とのギャップを把握し埋める取組みには、得意・苦手分野の把握、学習時間の確保、学習方法、過去問の傾向分析、模擬問題の体験等が挙げられる。これまでに筆者も資格取得等の方法で上記のような現状と目標とのギャップを埋める取組みを実践し教育に役立てようと資格取得してきた。しかしながら、筆者は、資格学習で上記のような現状と目標とのギャップを埋める取組みを振り返ってみると上手くいかないこともあった。現状と目標とのギャップを埋める取組みの途中で、「資格に合格するとどのようなメリットがあるのか」「スコア〇〇〇点を取得するとどのようなメリットがあるのか」「資格学習の時間を他の取組みに充てた方が良いのではないか」等と自身の内側から湧き出る内発的動機づけが弱く、自身の外側から刺激を受ける外発的動機づけを見つけることができなかったのである。実は、資格取得には多くのメリットがあったのにも関わらず、その多くのメリットを知らないままに気が付けばこの資格を取得したいと自らの関心が日に日に弱まってしまい、資格取得の学習の意味さえも感じなくなってしまった。このように筆者が過去に経験したことは、何故起きてしまったのだろうか、また稀なことなのであろうか。このような経験を踏まえて、内発的動機づけに頼るだけではなく周囲に散見される特典等による外発的動機づけから学習の動機づけを行っていくことも非常に大切であると身に染みた。

このような経験を振り返り、筆者は、大学の留学生教育に携わりながら日本語能力試験やBJTビジネス日本語能力テスト等の日本語資格のメリットを筆者の専門ゼミを選んでくれた留学生の教え子たちに積極的に伝えている。なぜならば、教え子たちの誰しもが日本語資格の取得の学習に強い関心や学習のやりがいを持ち続けて、高い集中力を発揮し日本語資格の取得に向けた内発的動機づけを持っているとは限らないからである。また、教え子たちは、日中は大学での勉学、放課後は日頃の留学生活の費用を賄うために大半がアルバイトをしている。内発的動機づけを維持しアルバイトから帰宅後や隙間時間、空き時間を確保し日本語資格の取得のために学習し続けることは、とても大変なことなのである。そのため、筆者は、教え子たちの内発的動機づけに頼るだけではなく外発的動機づけの後押しにも力を入れている。専門ゼミでは、BJTビジネス日本語能力テストの日本語資格を取得した時に、どのようなメリットがあるのだろうかと伝え、留学生にとって日本語資格取得することの大切さを認知・理解してもらい、大変な時でも日本語資格取得には多くのメリットがあって学習した方が良いと共感してもらうように教え子たちの外発的動機づけを後押ししている。

表1に示されるように、BJTビジネス日本語能力テストのメリットは、留学生の様々なキャリアに活かせる多くの事例がある。このように、留学生に「何故、BJTビジネス日本語能力テストが大切なのか」という問題提起に対して、留学生のキャリアに活かせる多くの事例から「BJTビジネス日本語能力テストは大切である」という具体的な複数解を与える。すると、留学生は、単なるBJTビジネス日本語能力テストの目標の達成に向けた学習ということではなく、外発的動機づけが学習を後押しする。換言すれば、「日本語能力試験N1に合格しよう」「BJTビジネス日本語能力テスト480点以上を取得しよう」「就職に有利だ」と伝えるだけでは、「何故、BJTビジネス日本語能力テストが大切なのか」という問題提起の複数解にならず、外発的動機づけの後押しにならない。
2022年4月から3年生の担当の専門ゼミでは、春学期及び秋学期に留学生の就職活動とビジネス日本語をセットで学ぶことのできるシラバスを作成した。専門ゼミの講義では、前半に『留学生の就活入門』の輪読やディスカッションを行い留学生の就職活動について理解を深め、後半にBJTビジネス日本語能力テストの学習を行っている。先ず、BJTビジネス日本語能力テストについては、春学期に教え子たちに1回受験してもらいビジネス日本語能力の現状点の確認をおこなった。次に、秋学期には、教え子たちに目標点を定めてもらい、その目標点を達成できるように学習を行う予定である。現在、専門ゼミに所属する教え子たちは、BJTビジネス日本語能力テストの現状点から目標点を決める段階にある。目標点を決めて、秋学期は、現状点と目標点のギャップを埋める取組みを行う。日本語能力試験やBJTビジネス日本語能力テスト等の日本語資格は、教え子たちの様々なキャリアに活かせる多くの事例がある。これらの多くの事例を理解し、筆者は、教え子たちの内発的動機づけを確認しながら、外発的動機づけを後押しし、現状と目標とのギャップを埋める取組みを促進する。

 

(参考文献)
1.南雲智・寺石雅英編(2020).『留学生の就活入門-日本で就職したい留学生
  のために』,論創社。
2.山下誠矢(2021).「留学生のための就職支援教材活用の試み」,『日本経大論
  集』,第 51 巻第 1 号,111-118 頁.
3.出入国在留管理庁(2020).「留学生の就職支援に係る「特定活動」(本邦大
  学卒業者)についてのガイドライン」,https://www.moj.go.jp/isa/content
/930005094.pdf,2022年9月19日にアクセス。
4.出入国在留管理庁(2017).「高度人材ポイント制による出入国管理上の優遇
  制度」,https://www.moj.go.jp/isa/content/930001655.pdf,2022年9月19
  日にアクセス。
5.日本経済大学(2022).「資格取得・奨励金給付制度」,https://www.jue.ac.jp/
qualification/,2022年9月19日にアクセス。
6.公益財団法人日本漢字能力検定協会(2022).「Voice 卒業後を見据えた就職
  活動指導」,https://www.kanken.or.jp/bjt/voice/co_edu/post_23.html,2
  022年9月19日にアクセス。
7.株式会社ローソン(2022).「LAWSON RECRUIT」,https://www.lawson.co.jp/com
  pany/recruit/new/,2022年9月23日にアクセス。
8.公益財団法人日本漢字能力検定協会(2022).「Voice 人事評価を客観的に行うために、BJTを活用しています」,https://www.kanken.or.jp/bjt/voice/c
o_edu/company/detail01.html,2022年9月23日にアクセス。
9.公益財団法人橋本財団(2022).「外国人経営者となった教え子から学ぶこと」,
https://web-opinions.jp/posts/detail/507,2022年9月23日にアクセス。

日本経済大学 准教授山下 誠矢
群馬大学社会情報学部卒業。横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科博士前期課程修了。修士(経営学)。企業でコンサルティング業務従事後、早稲田文理専門学校経営ビジネス系教員/教務主任等を経て、日本経済大学経営学部経営学科専任講師、准教授/教務部長補佐。現在、日本経済大学経営学部経営学科准教授。専門分野は、①経営学分野(経営学全般、コンテンツビジネス)、②異文化経営分野(留学生のリファラル採用、留学生の正社員登用、在留外国人の就労)、③キャリアデザイン分野(在留外国人のキャリア開発支援)、④留学生教育分野(ビジネス日本語、留学生の就職、留学生の起業、異文化理解)。
群馬大学社会情報学部卒業。横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科博士前期課程修了。修士(経営学)。企業でコンサルティング業務従事後、早稲田文理専門学校経営ビジネス系教員/教務主任等を経て、日本経済大学経営学部経営学科専任講師、准教授/教務部長補佐。現在、日本経済大学経営学部経営学科准教授。専門分野は、①経営学分野(経営学全般、コンテンツビジネス)、②異文化経営分野(留学生のリファラル採用、留学生の正社員登用、在留外国人の就労)、③キャリアデザイン分野(在留外国人のキャリア開発支援)、④留学生教育分野(ビジネス日本語、留学生の就職、留学生の起業、異文化理解)。
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