潜入レポ!介護の現場から 第12話「認知症差別‐中編‐」

認知症の勉強会は2日後の金曜日の17時からだ。15時に仕事が終わるので2時間ある。それまでに、認知症が重度であると判断されている2名の方のお部屋に行ってみよう。

来週火曜日は2回目の夜勤だ。前回のように若林リーダーについて行けばいいのでなく、夜勤2名のうちの1名なのだ。
日勤は11時~15時なので、食事の誘導や介助が主な仕事である。それ以外は掃除・洗濯などの雑用であるため、お部屋でお食事をされている方のことはほとんどわからない。
夜勤では多くの方を担当するので、日勤では関わったことがない方であっても知っておかないといけない。合間を見て記録類を見たものの不安である。


308号室の朝山様と106号室の岩井様。いずれも重度の認知症で、食事や着替えの動作を忘れてしまっているという。介助もスムーズにいかず、時間がかかったり予定のことが出来なかったりするようだ。またその際に大声を出されたり、時には手を出されたりと、職員は苦労しているらしい。

308号室の朝山様のお部屋に伺う。ノックをするが返事がない。もう一度ノックをしたがやはり返事がないのでそっと開けさせてもらう。テレビがついているが朝山様は寝ておられる。テレビを消して退室しようとすると「ご飯を食べてない。早く持ってきて!」とおっしゃった。現在15時だ。食事をしていないはずないのだが、何かの理由で食べておられないのか、食べたのだがお腹が減ったのか、などと思いつつ「今、15時ですのでお食事の準備ができていません。夕食までに間がありますから、おやつをお持ちしましょうか?」とお訊ねした。

「文子はどうしている?何故ここにいないの?」とおっしゃるので「娘さんのことですか?」と返事をすると「早くしないと学校に遅れるじゃない!」とどんどん分からなくなる。
少し間をおいて「娘さんは文子さんとおっしゃるのですね」と聞くと「娘は文子に決まっとる」と少々怒り気味だ。手強い!!しかし娘の文子さんを頼りにし、気にしているのだけは良く分かる。

ドアをノックする音もなくいきなり「朝山さん、お茶の時間よ」と職員が入ってきた。
「あら、池田さん、どうしたの?仕事は終わったんじゃない。こんなところで何をしているの?」と問われた。私は「今日の勉強会に参加したくて。でもそれまでに2時間もあるので、朝山様とお話ししようと思ってここに来たんです」と言うと、びっくりした顔で「お話し?話なんて通じないのに?」
朝山様に向かって「ね~ノブちゃん。お話って言われても困るよね~~」「今日はおとなしくしていた?」と。まるで子供扱い、それも幼児に話すかのようだ。

すごい嫌悪感を覚えた。人間としての尊厳も感じられない。確かに話のやり取りは難しいが、娘さんを大切に思う親の気持ちには優劣はない。

認知症の方へのケアは難しいかもしれないが、認知症の方全員が難しいわけではなく、平穏に過ごしておられる方もいらっしゃる。そう考えると認知症が原因ではなく、接する側に原因があることも存在しそうだ。
さらに接する側の問題以外にも要因はありそうだ。介護拒否や暴言・暴力はどのようにして起こるのかを知りたい。



「潜入レポ!介護の現場から」全体像
*介護施設にパート職員として潜入した池田出水。そこで見聞きしたことから現場の問題を表現していく。職員の様子・入居者や家族の様子・ケアの状況・往診医や時には受診付き添いなどでの病院の様子などレポートは多岐にわたる。

 

*登場人物
介護の現場体験者:池田出水
介護施設にパート(月曜~金曜の11時~15時)として入社。頻回コールで職員の中では問題になっている山田様の部屋を、仕事終わりに尋ねて話をするようになる。コールは物忘れをする不安が一因にあると分かり対策を打ち出す。また、夜間職員にベッドを蹴られるという事実も判明した。山田様との話の中で身体拘束を疑い、夜間の様子を何としても知りたくなり、入社2ヶ月が近づく頃、夜勤(月に2回)をすることに決めた。身体拘束は山田様が以前居た施設でのことと分かり、山田様は過去のトラウマに悩まされ、そのことがコールの一因でもあったことが分かった。
入社2ヶ月を過ぎ、山田様との会話の中から認知症に対する差別があるのではと感じ、認知症の勉強に意欲も燃やす。

 

施設責任者(施設長):渡辺
日々、忙しそうで相談事ができる様子はない。

 

パートの先輩:大村
目の前の仕事をこなすことで精いっぱい。面倒なことには巻き込まれたくない??

 

常勤ヘルパー(リーダー):若林
ぶっきらぼうで怒りっぽい。しかし自分の間違いは素直に認め向上心も持っている。

 

共感してくれる職員(もう一人のリーダー):増野
池田出水の行動をよく見ており、いつも冷静で公平な判断をしていて正義感が強い。

 

虐待疑惑職員:吉田(既に退職)

 

202号入居者:山田様
頻回にコールを押され、職員間では問題となっていた。

 

202号室入居者家族:娘
203号室入居者
308号室入居者:朝山様
106号室入居者:岩井様
常勤職員
往診医

ペンネーム池田 出水
「これからの日本には介護サービス業界こそが必要!これぞ社会の根幹!」と考え、それを支えるべくこの業界に飛び込む。
昨今の介護サービスの現状を憂う大和撫子。
「これからの日本には介護サービス業界こそが必要!これぞ社会の根幹!」と考え、それを支えるべくこの業界に飛び込む。
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