格差が世界的に広がっていることは確かである。シェリ・バーマンは「格差と闘え」のなかで、次のように述べている。アメリカでは20世紀前半には、アメリカ人の1パーセントの最富裕層が、国民所得の20%、国民資産の約45%を握っていた。1970年代から1980年代にかけては、それぞれ8%と25%に下がったが(格差は低下した)、20世紀後半に両者は再び増え始め、現在上位1%が、アメリカの中間所得層全体よりも多い資産(40%以上)を支配しているらしい。つまり、現在の状態は100年前に先祖返りしたようだ。
バーマンの考えに沿って、この理由を考えてみよう。歴史に名を残す偉大な革命家の一人、レフ・トロッキーが、かつてこう述べた。「貧窮が存在するだけでは反乱が起きるには不十分だ。もしこれだけで反乱が起きるとしたら大衆は絶えず蜂起しているだろう。」つまり、昔から貧困は常に存在したが、大衆が蜂起するのは色々の条件が必要なのだ。多くの人が政治を信頼するのは、自分たちの経済的な不安に政治家が関心を持ち、対応してくれると思っているからだろう。しかし20世紀後半にかけて新自由主義が流行し、保守派や、時には中道派の政治家までが、政府は解決をもたらすものでなく、むしろ政府自体が問題であると言い続けた(いわゆるサッチャー・レーガン政権、日本では中曽根・小泉政権)。これらのせいで多くの有権者が、自分たちのニーズに答える能力と意欲を政治家が持ち合わせていると思えなくなってしまったのは明らかだ。一般に多くの民衆は、常に経済的な問題を最優先し、政党や個人を選択する。経済的問題の解決には、富をどの様に分配するかが問題となる。しかし、なぜ20世紀後半から現在では、貧困対策に対して十分に再分配が行われなかったのだろうか? 富の総量が変化しないか、あるいは微増に留まる場合(日本の過去30年間のように)、再分配のみが貧困を解消する手段であることは明白であるのに。
しかし、再分配は反発が大きいと考え、格差の広がり・貧困問題から目をそらすために、右派政党は経済以外の問題と利益を関連付けるようになる。ポピュリスト右派には特にそれが当てはまる。ポピュリスト右派が格差問題の代わりに主張するのは、移民に対する攻撃、人種不安、国のアイデンティティへの懸念、安全保障問題などである。彼らは、移民や少数民族を悪者に仕立てて、犯罪の増加、国家価値の減少、その他の問題を彼等のせいにすることが多い。結果的に、ポピュリスト政党に投票する人々のなかで、労働者と小規模事業主という本来経済的志向の異なる人達は、経済的な選考では考え方が一致しているとはいえないが、保守的な社会文化的選考では一致する。その為に経済問題が得票争いの中心になると、ポピュリストに投票する有権者は分裂するが、社会や文化の問題が中心になると結束する。そして勝利したポピュリズム連合がこのような経済と無関係なアイデンティティに基盤を置いていると、経済的社会課題を重視する政治家が勝った場合に比べて民主主義は、格差の是正に力を入れない。
それに加え、20世紀後半になると、左派と右派の経済的な差は縮まった。左派が経済的に中道に移り国家規制の縮小、社会保障の削減、グローバリゼーションの容認などの新自由主義的な政策課題の多くを受け入れるようになった(アメリカ、ヨーロッパでも同様の傾向)。この転換によって左派が格差やその他の経済問題への不満を動員する力が弱まり、左派政党は自由市場の批判派にとって好材料だった経済危機を利用することができなくなった。今では左派と右派の主要政党から似たような経済政策が提案されている。左派が伝統的に意識してきた労働者階級のために戦う政党という役割から離れるにつれ、自分の経済的な選考と利益に基づいて投票する人が減ったのは当然といえよう。また右派は、本来の自立や自由を重視する考えでなく、左派と同じように国の援助を求めることになってしまったのだ。
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