コロナ感染が落ち着いた現在、今後の先進諸国にとって最も困難を伴う課題は、人口減少である。人口減少・高齢化は世界的な傾向だ。そして、日本は高齢化に伴う多くの問題を世界に先駆けて経験しているので、人口減少・高齢化に対して先進的に行動できるはずである。果たしてそうだろうか? 日本以外、特にヨーロッパの国々は、この30年間高齢化が日本ほど進んではいない。高齢化の程度が軽い国は、出生率が高いからだと考えられがちであるが、原因の多くは移民が多いかどうかによる。ヨーロッパの国々は、近年、ソ連の崩壊、EUの統合、その後に発生したアラブの春、シリア内戦などによって、移民の大幅な増加に見舞われた。しかし、移民の増加は経済的には労働力の確保にとって非常に有利に働いた。反面で、右翼ナショナリズムを引き起こし、政治的には不安定さを増す原因となっている。移民は人口減少を覆い隠す効果がある。
チャールズ・グッドハートによると、ソ連崩壊後この30年間は、定期的なトラブル(ITバブルやリーマンショックなど)はあるが、世界経済にとって幸運な時代だったという。移民の増加によって先進国の人口減は覆い隠され、さらに中国のサプライチェーン参加によって、世界全体としては、労働力の急速な供給と、新たな市場が発生し、多くの国の成長を促した。
しかし、グローバリゼーションの後退、さらなる高齢化の傾向は、この幸せな時代に幕を下ろし、世界的なインフレ、そしておそらく実質金利を上昇させる可能性がある。それは、中国において新たな労働力の供給が途絶えること、その他多くの国で高齢化によって労働人口と依存人口との割合が変化すること、同じく高齢化によって医療費など社会保障費の増大を招くこと、さらには、中国を含めナショナリズムの台頭によってグローバル化の勢いが弱まること、などが原因となる。結果的に、長いディスインフレの時代が去り、実質金利の上昇が起こるだろう。
そこで多くの人が思うことは、「日本はすでに世界の先駆けとして高齢化を経験しているのに、なぜ金利の上昇が起こらず、むしろデフレ状態が続いているのか?」という疑問である。実は日本でも、今後は過去30年とは違った様相を呈すると予想される。
日本では1990年のバブル崩壊以降、人口減少と高齢化が進み、賃金と物価のデフレ状態が続いた。この現象を説明するための重要な点の第一は、前述のようにその当時世界では、労働供給が溢れかえっていたことだ。膨大な不良債権にも関わらず、日本企業はこのようなグローバル化の追い風を受ける事ができた。また、日本が人口減少、高齢化に対処できた第二点として、日本独自の状況である、女性と高齢者の大規模な労働参加、それも低賃金での参加である。日本の女性労働参加率はそれまで低かったため、人口減少に伴う労働力不足の補充として、多くの女性が就労した(女性の労働参加率は40%台から70%台へと上昇)。さらに、高齢者も労働に参加した(特に60代の高齢者)。注意すべきは、高齢者の労働参加率が上がったわけでは無い。65才以上の高齢者の凄まじい増加は、高齢者の労働人口を引き上げたのだ。結果的に、日本は女性と、高齢者によって、労働力不足を解消したのである。それでも埋めきれない部分は、技能実習制度などの外国人労働者で埋めた。
しかし、女性の労働参加は西欧並みになり、これ以上は望めない。また、高齢者はこの30年間で1500万人以上増加したが、今や高齢者人口は3600万人を超え、さずがに、これ以上増加しないので、高齢者の労働参加がこれ以上増えるわけではない(ただし、70才以上の高齢者の労働参加率の上昇があれば話は別である)。女性と高齢者にさらなる労働市場参加が望めない以上、外国人労働者の大幅増がない限り、以前と違った激しい労働者不足が起こるだろう。以前と異なるとは、同様に企業の求人が逼迫しても、女性や高齢者にまで採用を広げれば労働者不足が埋まるわけではない状態だ。日本で賃金上昇が起こらなかったのは、インフレにならなかった理由でもあるが、女性と高齢者の低賃金での大量の労働参加と、それより少ないが外国人労働者の参加のためである。
今後の人口減少に対して、女性や高齢者の参加が望めない以上、頼りは外国人労働者であるが、日本の移民政策、そして、発展途上国の賃金増加によって、外国人労働者を獲得できない状態になる危険もある。
現在アメリカで起こっているインフレは、初めはエネルギーなどの価格上昇によるコストプッシュインフレと思われたが、現在は労働力不足による賃金上昇によるものだと言われる。失われた30年と言われるが、過去30年間の日本は、幸運な時代であり、今後の日本は、本格的な労働力不足に見舞われるだろう。その場合、すでに外国人労働者に頼ることは出来ないかもしれない。結果的に賃金の上昇を招き、大幅なインフレか、あるいは操業中止による景気の長期低迷が訪れる可能性がある。
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