社会運動における「アライシップ」の役割 The Role of Allyship in Social Movements

「アライシップ」とは?

近年、「多様性(ダイバーシティ)」の尊重を唱える動きが広まる中、「アライシップ(allyship)」という言葉も耳にする場面が増えている。日本社会では、主にLGBTQ運動においてよく使われているが(e.g., 村木, 2016)、アライシップとは、マジョリティーの人々がマイノリティー当事者の運動を支え、偏見や差別の撤廃に向けて当事者の人々と伴走する行為やその関係性のことを指し、社会運動において、そうした立場のマジョリティーの人々は「アライ(ally)」と呼ばれる(Brown & Ostrove, 2013)。つまり、マイノリティー当事者の地位向上を目指して一緒に行動を起こすマジョリティーの人々は、当事者のアイデンティティーの違い(障がい者、外国にルーツのある人々、女性など)にかかわらず、「アライ」であるということができる。

アライシップの歴史

英語の「ally」という言葉は、もともと軍事同盟を指す言葉であるが、この言葉は社会運動においても「同盟関係」にある集団や個人のことを指すようになり、近年ではこの呼び方が定着している。2022年の現時点で、インターネットで「ally」という言葉を検索にかけると、後者に関するテーマの項目の方がよりヒットするほどである。

しかしながら、社会運動において「アライ」という言葉が一般化する以前から、「アライ」は重要な役割を果たしてきたと言える。たとえば、アメリカにおける黒人奴隷解放運動において、白人の「abolitionists」(奴隷制度廃止論者)の存在がみられ、後々の奴隷制度廃止において一定の役割を果たした(Sinha, 2016)。また、南アフリカの反アパルトヘイト運動においても、白人の中にも運動に加わった者が現れたことで、結果的にネルソン・マンデラ氏の解放につながったとも言われている(Everatt, 2009)。日本においては、例えば、外国人登録法における指紋押捺制度(1992年廃止)改廃運動において、川崎市職員労働組合との連携と、同市の伊藤三郎市長(当時)による「指紋押捺拒否者不告発」宣言(1985年)などが、改廃運動拡大の動きの背景にあることが指摘されている(塚島, 2017)。また、近年では、Black Lives Matterデモが世界各地で広がったのを受けて、日本でもデモが行われたが、黒人のルーツを持たない者も「アライ」として参加し、日本における運動を支えただけでなく、日本社会がブラックカルチャーから受ける恩恵などについて周知する役割も担っている(坪池, 2020年; Japan for Black Lives, 2022年)。

「アライ」が社会運動の足を引っ張る?

上述の例が示すように、マジョリティーの人々がマイノリティー当事者の運動に加わることで、その運動や背景の問題についての認知度があがり、結果的に法改正などの社会変革につながる事例は少なくない(Selvanathan, Lickel, & Dasgupta, 2020)。しかし、一方で、マジョリティーの「アライ」が運動に加わることが、必ずしも良い結果につながらず、当事者とアライの関係性がぎくしゃくする可能性についても指摘されている。そうした「負」の影響について、研究や社会運動の現場では、以下の点が挙げられている。

① “乗っ取られる”社会運動
マジョリティーの立場のアライとマイノリティー当事者の間の力関係が、アライシップを難しくする可能性について、文献や社会運動の現場において指摘されているが(Ariel, 2017; Brown & Ostrove, 2013; Salvanathan et al., 2020)、その一つの例として、当事者の主張がアライの主張として扱われてしまう傾向である(Selvanathan et al., 2020)。つまり、アライが当事者の経験に共感を示したり、その声を「代弁」しようとする結果、それらがいつの間にかアライの主張にすり替わってしまうことがあるのだ。

そしてその結果、最悪の場合、当事者の運動がアライやマジョリティーの立場の人々に乗っ取られてしまうケースも報告されている。たとえば、日本でも広まった#MeTooムーブメントは、もともと、Tarna Burkeという黒人女性が、アメリカのマイノリティー女性(women of color)が経験する性暴力に光をあてようとして始めた運動だったが、ハリウッド女優(白人女性)がこのハッシュタグを使って自身の経験を共有したことから、Burke氏が意図していた目的とは違う形で広がってしまったことが指摘されている(The Representation Project, 2020)。このように、当事者の運動が乗っ取られてしまうと、運動がもともと目指していた目的が達成されず、当事者の経験がさらに不可視化されてしまうのである。

② アライに説教される当事者
マジョリティーの立場にいる人が「アライ」としてマイノリティー当事者の運動を支えるにあたり、当事者を「説教」しようとする者もいることが度々指摘されている。たとえば、Black Lives Matter運動の盛り上がりにより、アメリカでは2020年以降、「反人種差別」「反抑圧」を名乗るグループが目立つようになったが、そうしたグループに参加する白人のメンバーの中には、当事者が選んだ反差別運動の方法を批判して別の方法を提示したり、差別に苦しむマイノリティー当事者個人に対して、差別への対処方法などを助言しようとする者もいるという(Ariel, 2017; Jackson, 2021)。また、少し場面は異なるが、日本では、女性が議員として立候補する際、「支援者」を名乗る男性有権者が、街頭演説にあらわれて、女性候補者に対して政策や社会問題に関する考え方について説教するケースが少なくないとされている(中川, 2021)。いずれのケースも、アライ(支援者)が当事者に対して「上から目線」で接していて失礼なのは言うまでもないが、身をもって当事者の経験を感じられない立場にいる「アライ」が当事者に対して説教をするのは、彼らの声をかき消すことにつながりかねず、望ましくない行為であると言える。

③ 形だけのアライシップ
社会運動において、マジョリティーの立場のアライの行動的特徴として指摘されているのが、「performative allyship」(演技としてのアライシップ)である。「Performative allyship」とは、運動に賛成したり、賛同を表明するなど、「アライ」に見える態度を示すが、運動を支え、前進させるための具体的な行動を取らない、といった傾向のことである(Brown & Ostrove, 2013; Jackson, 2021)。Brown & Ostrove (2013)の調査によると、アメリカにおける人種的マイノリティーは、白人アライについて、「偏見を持たない」「自身の差別の経験に理解を示してくれる」とする一方、「身の回りの人々と人種差別の問題について話す」「偏見解消に向けた行動を取る」といった行動をあまり取らない傾向にあると評価しており、この「performative allyship」が、マイノリティー当事者にとって評価しがたい行動であることがうかがえる。こうした「形だけのアライシップ」は、「アライ」であることが道徳的に正しいと考えられる近年の欧米社会で特にみられる傾向であると言えるかもしれないが(Selvanathan et al., 2020)、日本社会でも、誰かを助けたい、支援したいと思いながら、具体的な行動にうつすことができないマジョリティーの立場の人も少なくないのではないだろうか。一方で、「あなたを支援したいです」と言われながら、その発言に行動が伴わないと、苛立たしく感じても無理はない、というのも、多くの人が理解できることだと言える。

効果的で公正なアライシップに向けて

以上の「アライシップ」における問題点を踏まえて、社会運動の現場では、アライに向けた「行動指針」を提言する個人や団体があり、そのような情報を載せるウェブサイトも多く存在する (Ariel, 2017; Jackson, 2021)。これらの提言には様々な指針が含まれているが、当事者運動の枠を超えてたびたび言及されるのが、以下の2点である。

① 出しゃばらずに「聞く」
当事者運動が乗っ取られたり、当事者に対して説教しようとする傾向に共通するのが、アライが当事者の声に耳を傾けずに「出しゃばって」しまう、ということである。したがって、当事者の声が埋もれないように、また、説教することで沈黙を強いることがないよう、アライは時に「聞く」ことに徹するべきである、と言える。そして、当事者の声に耳を傾けながら、マイノリティー当事者としてどのような経験をしているのか、彼らが差別への対処法や運動の方法として、特定の方法を選んだ背景はどのようなものか、自分は助言をするのにふさわしい立場にいるか…ということを自分自身に問うことが重要となる。

② 自身の「特権」を使って行動を起こす
前述した通り、マジョリティーの立場であるアライは、時に重要な役割を果たしうるが、それは、マイノリティー当事者が持ち合わせていない自身の「特権」を使うことで、社会により強いインパクトを与えることができるからだといえる。たとえば、選挙権を持ち合わせていない人々の代わりに選挙権を行使することで、マイノリティー当事者の社会的地位向上のための政策や法改正に貢献できるほか、自身の持つ影響力や人脈、その他資源を使用することで、運動やその背景の問題についての認知を広め、また運動そのものの拡大につながりうる。その他、マジョリティー社会に属する者として、他のマジョリティーの立場にいる人々に対して、マイノリティー当事者が直面する問題について伝えることで、個人の差別的感情や社会全体における偏見に抗うことも可能である。個人が持つ特権には、その人の立場によって個人差はあるものの、マジョリティーの属性(例えば、日本社会においては、日本国籍を持つこと、男性であること、健常者であること、など)をもつ者であれば、誰でも一定の特権を持つ。この特権を使って、具体的な行動を起こすことが、責任ある「アライ」の役割ではないだろうか。

参考文献
塚島純一. 「外国人登録法における指紋押捺制度等の改廃運動」:主に川崎からの視点として」『法政大学大学院紀要』2017年, 79, 137-154. http://hdl.handle.net/10114/13648
坪池順. 「私たちが日本でBlack Lives Matterを訴える理由。東京で3500人がデモ行進」HuffingPost Japan (2020年6月). https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5ee595d1c5b6f20b4d0e8d5b
中川寛子.「女性地方議員を襲う『有権者ハラスメント』の壮絶——街頭演説中に『説教』、告白断られて嫌がらせ…」東洋経済 (2021年3月). https://toyokeizai.net/articles/-/416163
村木真紀. 「職場におけるLGBT入門 研修や当事者の声を聴く機会を広げ「アライ」の数を増やしていこう」『Report = 情報労連リポート』2016年, 33 (8), 14-16. https://id.ndl.go.jp/bib/027492341
Ariel, C. (2017, August). For our white friends desiring to be allies. SOJOURNERS. Retrieved from: https://sojo.net/articles/our-white-friends-desiring-be-allies
Brown, K. T., & Ostrove, J. M. (2013). What does it mean to be an ally?: The perception of allies from the perspective of people of color. Journal of Applied Social Psychology, 43, 2211-2222. https://doi.org/10.1111/jasp.12172
Everatt, D. (2009). The Origins of Non-Racialism: White opposition to apartheid in the 1950s. Wits University Press. http://www.jstor.org/stable/10.18772/12009065003
Jackson, R. (2021, February). How not to be an ally: A list of rules for anti-racist advocacy. Milwaukee Independent. Retrieved from: http://www.milwaukeeindependent.com/featured/not-ally-list-rules-anti-racist-advocacy/
Japan for Black Lives (2022). 「Japan for Black Livesについて」. https://japan4blacklives.jp/category/about/
The Representation Project (2020, January). The Co-opting of Black Women’s Movements. Retrieved from: https://therepproject.org/the-co-opting-of-black-womens-movements/
Selvanathan, H. P., Lickel, B., & Dasgupta, N. (2020). An integrative framework on the impact of allies: How identity-based needs influence intergroup solidarity and social movements. European Journal of Social Psychology, 50, 1344-1361. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ejsp.2697
Sinha, M. (2016, June). What you still don’t know about abolitionists. TIME. Retrieved from: https://time.com/4368867/juneteenth-abolitionists-history/

 

ソシエタス総合研究所 研究員相川 真穂
神奈川県横浜市出身。津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業後、2011年に大学院進学のために渡米。メトロポリタン州立大学大学院修士課程(ミネソタ州)にて心理学を専攻し、移民・難民のウェルビーイングに関する研究を行う。2013年に修士課程修了し、その後一度日本に戻って障がい者福祉に携わる。2016年にクラーク大学大学院(マサチューセッツ州)の博士課程(社会心理学専攻)に進学し、周縁化、差別、抑圧などの問題について幅広く研究してきたほか、研究助手として性暴力防止プロジェクトにも従事した。2021年10月より、同大学院博士課程にて研究を続ける傍ら、橋本財団ソシエタス総合研究所の研究員として勤務する。
神奈川県横浜市出身。津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業後、2011年に大学院進学のために渡米。メトロポリタン州立大学大学院修士課程(ミネソタ州)にて心理学を専攻し、移民・難民のウェルビーイングに関する研究を行う。2013年に修士課程修了し、その後一度日本に戻って障がい者福祉に携わる。2016年にクラーク大学大学院(マサチューセッツ州)の博士課程(社会心理学専攻)に進学し、周縁化、差別、抑圧などの問題について幅広く研究してきたほか、研究助手として性暴力防止プロジェクトにも従事した。2021年10月より、同大学院博士課程にて研究を続ける傍ら、橋本財団ソシエタス総合研究所の研究員として勤務する。
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