日本での1990年代からの低成長について、失われた10年、失われた20年、さらに現在では、失われた30年と言われる。この原因として、成長に賃金上昇が伴わないことが指摘されている。つまり、わずかながらも成長はしているのだから、少しの賃金上昇はあるだろうが、そうはなっていない。以下のグラフが示している。
経済学では、賃金と失業率の関係は、有名なフィリップス曲線で表される。
この関係によると、人口減少では、労働力が少なくなると失業率は当然低くなる。そうすると、曲線は左により、一定の限度を超えると急速な賃金の上昇を招く。下図は日本の生産年齢人口を示したものだ。1995年までは生産年齢人口は増加し、1995年を境に減少に転じている。それもかなり急速な減少だ。1995年から2015年の20年間を網掛けの期間として示している。丁度生産年齢人口が減少に転じた時期と一致する。
総務省統計局調査
減少の程度は、上図に示しているが、1995年~2000年は、5年間で、33万人の減少(年平均7万人)、2000年~2005年は181万人の減少(年平均36万人)、2005年~2010年は306万人の減少(年平均61万人)、2010年~2015年は411万人(年平均86万人)の減少だ。この20年間では、合計931万人の人口減少という凄まじい数になる。このような生産年齢人口の減少にも関わらず、賃金が上がっていないのはなぜか? その理由はチャールズ・グッドハート等によると次のようなものだ。
1. 世界的グローバリゼーションの拡大
2. 就労形態の変化による賃金の不均等
3. 労働参加率(労働力率)の著しい上昇
順に見ていこう。1.世界的グローバリゼーションの拡大は、生産を海外に移転することによる、製造業の国内労働人口の減少だ。1996年には、雇用者数の22%を占めていた製造業の労働者は、2018年には16%に減少している。工場などの海外移転、あるいは部品の海外からの調達によって、国内の必要な労働人口は減少する。最も大きな理由は、中国の国際貿易への参入にある。2.は、減少した生産年齢人口を補うために、就業形態を変えていることだ。つまり、すっかり定着した、非正規労働者の著しい増加である。これは日本独特の方法である。正規労働者を増やさず、不足を非正規労働者(有期雇用労働者)で補っている。結果的に労働者が補充出来るとともに、平均賃金を押し下げる。3.は2と関係するが、非正規労働者として、女性と高齢者の労働市場への参加である。驚くべきことに、期間中、生産年齢人口が著しく減少しているにも関わらず、労働人口は増えているのだ。その主体は、男性ではなく、女性と高齢者である。1995年から2015年までの20年間で、労働参加率が1995年と同じとすれば、図のような不足が起こっていたはずだ。
1995年の労働参加率が続いた場合、2015年時点での労働者の不足は644万人と推測されるが、男性ではこの穴を埋めることができず(1万人の不足)、女性の労働参加率上昇で、282万人が補充され、高齢労働者の増加で279万人補充している。それでもすべては埋めきれず、不足は79万人であるが、この多くは外国人労働者であった。
今までの生産年齢人口の大きな減少にも関わらず、賃金上昇がないことは、3つの原因から説明することが出来るが、これからは外国人労働者の参加がなければ、女性、高齢者の労働者不足(労働者供給の頭打ち)によって、過去30年とは全く様相が異なる。景気が著しく低下しなければ、ついに賃金の上昇が起こり、インフレの到来を招くかもしれない。
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