人生100年時代のリカレント教育とは何だろう。

定年を迎える社会人にとってリカレント教育とは何だろうか?リカレント教育とは一般的には「社会人になった後も、必要なタイミングで必要なことを学びなおす。」という意味で使われている。学んだことを仕事に活かし、次のステージを目指す、明確な目的を持った手段であろう。同様な意味の言葉に「生涯学習」があるが、日本ではこちらは日々の暮らしの生きがいを学ぶものと捉えられている傾向がある。例えばスポーツや趣味と言ったものがそれに当たるかもしれない。「人生100年時代」を生き抜く我々にとって、リカレント教育は重要なキーワードの一つである。

例えば、定年前後のセカンドキャリアをスタートするうえで、何をどう学び直せるのだろうか。昨今トレンドのリカレント教育テーマを調べてみると、「Society5.0」から「IOT」、「外国語」、「プログラミング」、「MBA」等多岐にわたる。ただ、これらのテーマはいずれも、定年を迎える普通のサラリーマンが学び直すには、なかなかに難しいテーマである。一方で、ITエンジニアの世界ではリカレント教育として昔ながらのシステムエンジニアをAI/DXと言った最新のデジタルエンジニアに転換しようという試みがあるのも事実である。

また、先の参議院選挙の主要な争点の一つにも「景気・雇用対策」が掲げられており、雇用対策の一つとして政府は令和3年4月1日に高年齢者雇用安定法を改正し、定年を70歳に延長するなどの「就業確保措置」を企業の努力義務化とした。働ける年齢を引き上げ、新たな武器としての技術を学び直す機会も提供しようという、一挙両得のなかなかに魅力的な試みである。

では当事者はこれをどう感じているのだろうか。実際に対象となる年代のITエンジニアに、今回ヒアリングしてみた。50代後半で大手のIT企業を早期退職した彼は、一般的な退職エンジニアが辿る個人事業やフリーランス等の道は選択せず、一旦は現役時代に興味があった音楽、芸術、漢文など先程の「生涯学習」の道を選択した。彼らの年代のITエンジニアの一般的なビジネスキャリアはプログラミングから、業務業種ノウハウの蓄積を経て、最終的にはプロジェクト全体を管理するプロジェクトマネージャに至るものである。開発スキルから遠ざかっている50代後半のエンジニアにとっては、AI/DXと言った最新のデジタル技術の学び直しそのものが、かなり高いハードルだと言うのが大きな理由の一つだそうだ。彼曰く、元SEやIT技術者が学ばなければ、高齢者は誰も学ばないだろう。ところが、学ぶ気持ちはあるものの、いざその場になると、誰もが目の前にある長い長い階段を前に、目が眩んでいるのも事実だ。なので、まずは手っ取り早く老後の資金や小遣い稼ぎをする為に、コンサルや品質管理と言ったそれまでの経験を活かした分野に飛びつき、学び直しは一旦横に置いておくことになる。まだまだ、この分野の高齢エンジニアの需要は旺盛のようである。

一方で別の事例として、40代現役のこちらも大手IT企業に勤めるビジネスマンの、MBA受講事例をヒアリングしてみた。彼はグローバルビジネスに身を置く立場故に、当初は自身のキャリアアップやジョブホッピングと言うよりは、周囲の同様な人間から刺激を受けたと言うのが一番のきっかけであった。また、会社とは別のフレッシュな人脈づくりも魅力であったようだ。コースには統計分析からマーケティング、簡単なプログラミングに英語の講義と、かなり濃密だが受講生は年齢、性別、国籍を問わずなので、彼が期待した内容が存分に盛り込まれていたようだ。受講料も100万円単位、勉強時間も多い時で月100時間と中途半端な気持ちで取り組めるものではないが、彼自身は大いに満足しているとのことだ。では、結果としてこれ程までの時間と費用をかけたMBA受講を彼はどう受け止めたのか。きっかけは周囲からの刺激だったかもしれないが、結果的には自分が仕事をする上での足腰を鍛えることに繋がり、ひいては資格として示せることは、会社に依存せず、自立するためにも有意義だとのことで、自身の今後のキャリアを改めて考えるきっかけにもなったとのことだ。因みに余談だが、これだけ勉強時間を取れたのは、リモートワークになったおかげで、肉体的にも精神的にも仕事と勉強を両立することができたのは、ある意味数少ない新型コロナの恩恵ではないかとのことである。

こうしてみると、学びが次につながり、自分自身を見直すきっかけと出来る現役世代とは違い、定年退職を身近に感じ、尚且つ人生100年時代の始まりに差し掛かる世代にとって、リカレント教育とは「学ぶこと」と「稼ぐこと」の双方に、どう折り合いをつけるかということでもあるのではないか。「学び直したいけど、稼ぎも必要」、両立を望む前向きな高齢者は今後益々増えてくるはずだ。そういったOB世代に向けて以下の様な新たなパスを提言してみたい。

昨今、日本企業の99.7%を占める中小企業の事業継承は深刻な問題となっている。2021年の帝国データバンクの調査によれば、61.5%の中小企業で後継者不在だそうだ。そういった企業で前述のような「前向きな定年OB」が、新たな職種で働きながら学び直すというモデルは一つの答えではないだろうか。例えば、昨今巷ではDXが花盛りで政府も各種補助金等で後押ししているが、多くの中小企業においては、何をどう進めればいいのかさえも、皆目見当がつかない状況であろう。そうした企業とIT企業の「前向きな定年OB」をマッチングすることで、DX推進をキーワードに働きながら、企業経営や業界等新たな学びに取組み、いずれは事業継承者になってもらう。大手IT企業の定年OBであれば、大幅な給与減でも「学びなおし」というプラス面で折り合いがつけやすい。双方にとってメリットがある試みではないだろうか。

一般社団法人京都総合科学研究所 アドバイザー松村 道郎
1984年富士通入社。東京、名古屋、大阪にて大手製造業のお客様へソリューション営業として活動。2010年富士通タイランド副社長。2014年に帰国後、自動車業界向けの商品プローモーションと事業開発に従事し、MaaS事業を立上げ。その後日本の重要課題である地方創生・地域活性化に着目し、MaaS事業による課題解決に向けた各種提言を行う。現在は富士通を退職し、Mobilityに捉われず、高齢化、在日外国人、キャッシュレス等の様々な視点から、実践を通じて各種課題解決に向けた企画・提言を行う。
1984年富士通入社。東京、名古屋、大阪にて大手製造業のお客様へソリューション営業として活動。2010年富士通タイランド副社長。2014年に帰国後、自動車業界向けの商品プローモーションと事業開発に従事し、MaaS事業を立上げ。その後日本の重要課題である地方創生・地域活性化に着目し、MaaS事業による課題解決に向けた各種提言を行う。現在は富士通を退職し、Mobilityに捉われず、高齢化、在日外国人、キャッシュレス等の様々な視点から、実践を通じて各種課題解決に向けた企画・提言を行う。
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