ギリシャの哲学者アリストテレスは、「あるべき生活」と、欲求に従って行動する生活とは別であると考えた(当然あるべき生活を送るべきだと言っている)。「あるべき生活」を設定することは必要だと、インドにおいても中国においても同じように考えられている。大方の宗教でも、「あるべき生活」を目指し、欲求を抑えた生活を送るように諭しているし、昔の哲学も同様である。つまり、好ましい生活とは、欲求を抑え、本来「あるべき生活」を目指すことであると言われる。
このような考え方は現代にはふさわしいものだろうか? もともと、「あるべき生活」と考えるものは、誰かが設定したものであり、誰が設定したにしろ恣意的なものではないのか? そうではなく、目指すべきは、個人の素直な欲求に基づいて、それを実現するための生活をまず考え、それが社会との関係でどのようになるかを問題にしなければならない。だれかが作り上げた「あるべき生活」は、豊かになった現代とはかけ離れている。
どちらにしても個人は自らの欲求を素直に表明することが大切だ。しかしごく一部の人が欲求を表明できて、その他の人が欲求を表明できない状態は、人間の平等に反する。欲求同士のぶつかり合いは経験が必要なので、うまく処理できる人と処理できない人との間に差異が生じるのは良くないことだ。従って、欲求のぶつかり合いは、それによって人生が変わる場合もある大人になってからでなく、幼少時に経験し、その後進化させるべきである。幼少時の欲求は素直なものであり、人生を左右するものはない。欲求の処理方法を学ぶことによって、幼少期の欲求が大きくなってもそのまま続けられる場合は、多分幸せな一生を送るはずである。
社会的規範が決まっていて、身分制度に沿って社会が動いている場合は、それぞれの身分や地位によって、「あるべき生活」が規定され、素直な欲求の入り込む余地は少ない。「あるべき生活」とは、この様な身分制社会を前提としている。従って、身分に関係ない素直な欲求は社会を混乱させるものであると考えざるを得ないのだ。その結果、身分制社会においての幼少時教育は、身分を前提として、その規範に接触しないようなもの、つまり「読み書きソロバン」のような技術的なものと、同時に身分制社会を強化する道徳とに限定されるようになる。人間がどの様に生きるべきかなどの教育は、比較的自由な身分の高い階層に対してのみ行なわれる。
階層間の移動が促される現代社会では、むしろ、「読み書きソロバン」よりも、自分の素直な欲求をどの様に表現すべきかについて教えるのが教育の基本となるだろう。子供同士で身分差が無い時に、対等の関係を前提として、お互いの欲求を表現できるスキルを身につける必要がある。自分の欲求を通そうとすると、他者からの反発を招き、他者の欲求を受け入れる場合は、自分の欲求を抑えないといけないのだ。自分の欲求をどの程度主張し、他者の欲求をどの程度容認するかについては、当然の人間同士の関係についての学びが大切となる。理想的には、この様な素直な人間関係についての理解を9歳までには作り上げなければならない。この教育は家庭内だけでなく、公的教育が担うべきものである。「読み書きソロバン」はその後でも十分間に合うはずだ。
人間関係においての欲求の処理の仕方は、子供時代には、多くは遊びや普通の日常生活によって作り上げられる。教育的介入はこの時期にぜひとも必要であり、子どもたちが対人関係を学ぶ場とは無関係な教育であってはならない。自分の欲求と他者の欲求の折り合いをつけるような関係は自然に作り上げられるわけではなく、適切な指導が必要である。そうでなければ、対人関係の多くは、利害関係で決まり、弱肉強食の関係に陥りやすい。
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