外国人介護人材の長期就労のための一考察-鍵となっている介護福祉士試験-

日本の労働者不足と移民労働者

日本は様々な分野において人手不足に直面している。労働力不足の解消のためには、生産性の向上、高齢者や女性や外国人の登用により働く人を増やすことが挙げられている。

グローバルに移動する移民は、年々増加し、アジア地域は、移民の送り出し地域としても受け入れ地域としても大きな役割を果たしている。2018年のアジア諸国からの移動者数は年間約686万人、うち、日本への移民は約40万人であった。(田辺・是川 2022)covid19の影響により、日本への入国は制限されていたため、2021年の受け入れは著しく少なくなったが、2022年春より受け入れが徐々に緩和され、今後は、受け入れ人数はcovid19前の水準に戻る、もしくはそれを上回ることが期待されている。

外国人介護人材の在留資格

介護業種での外国人材の受け入れの在留資格は4種類である。「介護」、「EPA」、「技能実習」、「特定技能」である。「介護」は介護福祉士の資格を取得している。

「介護」以外は、基本的に5年以内の限定的滞在であり、長期滞在、恒久的滞在のためには介護福祉士の資格取得が求められる。2021年6月時点の外国人介護人材は約22,000人であり、うち、在留資格「介護」者は約3,000人にすぎない。

外国人介護人材の介護福祉士資格取得のための壁-日本語と受験資格

介護福祉士は国家資格であり、資格取得には、養成施設等の卒業や毎年実施される試験を受ける必要がある。介護福祉士試験では、毎年8〜9万人の受験者がおり、合格率は70%前後である。受験には国籍要件はなく、EPA来日者や介護専門学校に留学し受験する者もいるのだが、彼らの合格率は40%前後である。差がある原因として考えられることは、日本の社会や介護制度になじみがないこと、日本語の問題が挙げられるだろう。

これまで介護福祉士試験を受験していた留学生や、EPA者の日本語能力は日本語能力試験(JLPT)のN2、N3レベルが多く、マスターする単語数の目安はN2で6000語、N2レベルに到達するまでの学習時間は600時間以上と言われている。加えて、介護福祉士試験に使われる単語は、日常会話と異なる介護の専門単語が約2500語含まれている。外国人の介護福祉士試験の受験の際には、試験問題にルビがふられ、制限時間も1.5倍という配慮はあるが、介護福祉士試験を受験するに耐えうる日本語を習得するにはより一層の学習時間が必要である。

また、介護福祉士試験の受験資格には、実務経験が3年必要であることに加え、実務者研修という介護に関する講座の受講も必須である。

他職種から介護業界に転職し、多業種に転職していった特定技能生の言葉

技能実習制度と異なり、特定技能制度には転職の自由がある。特定技能の認められている業種は14業種あるが、同じ業種で他企業への転職、また、他業種の特定技能試験に合格することで他職種に転職することも可能である。技能実習生を終え、別の業種の特定技能試験を受けることもある。

岡山市内において、特定技能介護人材として働く2名に転職について、インタビューする機会を得た。どちらも、技能実習生として働いた後、「日本で長く働きたい」とのことから、特定技能生となった。特定技能生になる前は、食品加工工場や縫製工場での仕事だったが、家族の介護経験から、介護が好きであること、また介護の職場は、日本語を学ぶことができると思い、これまでの職種を変更し転職した。しかし、介護の仕事を始めて数か月で2名とも別の職種へ転職していくことになる。彼らが退職の際に語った言葉は「介護の仕事は、これまでの仕事に比べ、毎日新しいことがある。日本語ができない中で、仕事も覚え、日本語も覚えと勉強することが多すぎる」「介護は好き、介護職として働き続けたいが、日本語が難しく、介護職はできないと思う」等であった。介護に興味があっても断念してしまう人もいる。

外国人介護人材のための就労環境に必要なことは何か

特定技能制度は、特定技能1号は5年の限定的な滞在であるが、特定技能2号に移行することで長期滞在、定住に向けての道が開かれている。介護の分野は、現在のところ特定技能2号には含まれておらず、5年以上の滞在のためには介護福祉士試験に合格するしかない。

介護の分野ではどのような人材を必要としているのだろうか。介護実践を積みキャリアを積みながら定着していくことを望むのであれば、就労中の日本語習得・介護習得の方法、在留資格の制度まで課題は多い。介護実践の場面ではコミュニケーションをとることが必須であり、そのコミュニケーションは、日本語のみならず、日本社会の理解もあってこそ成り立つ。これらの習得には時間が必要なことは明らかである。介護職を希望する外国人人材がどのような将来展望をもっているかは明らかではないが、キャリアアップしながら長期滞在、定住できる方法について、日本語等習得に時間が必要であることを考慮し、再考することが必要だと考える。

参考文献
労働市場の未来推計 2030 パーソナル研究所 https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/roudou2030/
田辺国昭、是川夕 「 国際労働移動ネットワークの中の日本 誰が日本を目指すのか 」国立社会保障・人口問題研究所研究叢書 2022
外国人介護職員の受入れと活躍支援に関するガイドブック  三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 https://www.murc.jp/sp/1509/houkatsu/houkatsu_07.html
出入国在留管理庁. 『在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表』2021年6月、12月https://www.moj.go.jp/isa/policies/statistics/toukei_ichiran_touroku.html
公益財団法人社会福祉振興・試験センター 介護福祉士国家試験 https://www.sssc.or.jp/kaigo/shikaku/route.html
公益社団法人日本介護福祉士養成施設協会 社会保障制度調査会介護委員会提出資料 2019 http://kaiyokyo.net/member/01_ji_sha_ka_shiryou.pdf
一般社団法人 介護の日本語学習支援協会 EPA介護福祉士候補者のための介護専門用語学習支援サービス https://kaigonogo.com/index.html
日本語能力試験 JLPT https://www.jlpt.jp/index.html 
新旧試験比較表 https://www.jlpt.jp/about/pdf/comparison01.pdf
外国人就労「無期限」に 熟練者対象、農業など全分野 日本経済新聞 2021年11月17日 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE019ZY0R00C21A9000000/

ソシエタス総合研究所 主任研究員井上 登紀子
岡山県出身。社会福祉法人敬友会 高齢者住宅研究所にて主にサービス付き高齢者向け住宅・有料老人ホーム、在宅介護サービスに関する量的・質的調査を行う。全国のサービス付き高齢者向け住宅の評価事業(旧サ住協)、高齢者住宅居住者のケアマネージメントの調査事業(大阪府)を実施。2019年~公益財団法人橋本財団 ソシエタス総合研究所に勤務。
岡山県出身。社会福祉法人敬友会 高齢者住宅研究所にて主にサービス付き高齢者向け住宅・有料老人ホーム、在宅介護サービスに関する量的・質的調査を行う。全国のサービス付き高齢者向け住宅の評価事業(旧サ住協)、高齢者住宅居住者のケアマネージメントの調査事業(大阪府)を実施。2019年~公益財団法人橋本財団 ソシエタス総合研究所に勤務。
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