日本のエネルギー問題-リスクを取れずに不作為の責任が問われている日本政府-

昨年以来、世界的に燃料価格が高騰してきたが、ロシアによるウクライナ侵攻で、石油、石炭や液化天然ガス(LNG)などの化石燃料の資源価格高騰が加速し、ガソリンや電力の急激な値上げが相次いでいる。エネルギー源として使われる化石燃料は国内には殆どなく、日本は海外からの輸入に大きく依存している。このためわが国ではエネルギー資源の自給率が低く、経済安全保障が脆弱なことが大きな要因であることは自明なのである。

1970年代のオイルショックを契機に、化石燃料への依存度を下げるべくエネルギー源の分散を図って通産省(当時、現経産省)が推進したのが原子力発電である。エネルギー庁資料による日本のエネルギー供給構成の推移では、第一次オイルショック時の1973年では、化石燃料依存度94%(石炭17%、石油75%、LNG2%)自給率6%(水力4%、原子力1%、再エネ1%)、2010年では、化石燃料依存度81%(石炭23%、石油40%、LNG18%)自給率19%(水力3%、原子力11%、再エネ5%)となり、自給率がかなり上がってきていた。

しかし、2011年の東日本大震災の影響で原子力発電所が停止したことで、ふたたび火力発電が増加。化石燃料への依存度が上がり、2012年には化石燃料依存度89%(石炭18%、石油31%、LNG40%)自給率11%(水力7%、原子力2%、再エネ2%)と元の木阿弥となった。

その後、2015年に開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で決議されたパリ協定に基づく努力の結果、2019年には、化石燃料依存度76%(石炭32%、石油7%、LNG37%)自給率24%(水力8%、原子力6%、再エネ10%)となり自給率が改善された(下図)。

一方、地球温暖化対策を先導するヨーロッパでは、再生可能エネルギーに加え原発を利用して脱炭素と自給率をあげること目指す国が多い。実際、ドイツでは化石燃料依存46%、自給率54%(水力4%、原子力12%、再エネ38%)、フランスでは化石燃料依存9%、自給率91%(水力11%、原子力70%、再エネ10%)、イギリスでは化石燃料依存43%、自給率57%(水力2%、原子力18%、再エネ37%)となっておりいずれも日本より進んでいる。加えて欧州の大陸側各国は隣国と地続きのため送電網を用いて電力の融通(輸出入)が可能なのである。原子力発電への依存度が高いフランス、そしてドイツでは、再生可能エネルギーが40%近くになっているものの、自然由来の発電ボラティリティーを補完すべく、フランスから原子力発電由来の電力を輸入しているなど、日本が置かれている原発への社会受容性や地理的状況が大きく異なるのは事実である。

とは言え、世界的な地球温暖化対策パリ協定によるカーボンフリーが国際的な枠組みにおいて必須であり、わが国は2030年に2013年比26%の温室効果ガス削減、2050年に実質ゼロ目標を世界にコミットしている。この目標の実現には、自動車のEV(電動車)化と脱化石燃料発電が必要となる。そもそも、資源に依存することは、地政学的に価格が変動し、経済安全保障に大きく影響を及ぼすため好ましくなく、そしてカーボンフリーのために脱化石燃料が喫緊の課題であることは周知の通りである。

経済安全保障と地球温暖化対策の二つの側面よりわが国では脱化石燃料発電が喫緊の課題であり、今回の国政選挙でも“原発廃止”か“電力源の一つとして維持すべきか”が争点となった。2013年時に野党第一党であった旧民主党では“原発廃止”派が79%と多数を占めたが、今回、立憲と国民民主に分かれると、立憲は“原発廃止”派が74%で2013年とほぼ同じであったが、国民民主は“電力源の一つとして維持すべきか”派が82%となり両党の違いが際立ったのである(朝日新聞・東大谷口研究室 共同調査)。

一方、再生可能エネルギーの今後の更なる導入計画を見ると次のような課題が見えてくる。

1)太陽光エネルギー
・火力・原発と同じ電力量を得るには広大な土地、特に平地が必要
・天候に左右され発電が不安定
・太陽光エネルギーの導入を増やすには、発電コストや出力の不安定性などの課題に対応する必要がある。以下図表の通り、平地面積が他国と比べ少ないわが国では、住宅地や都市部を除くと太陽光パネルを設置できる場所は限られている。

産業用としては出力1MW(メガワット)=1000kW(キロワット)以上の大規模な太陽光発電であるメガソーラーが必要となるが、1MWの発電所を設置するのに、1~2ha(ヘクタール)の敷地が必要になる。 野球場やサッカー場が1ha前後の広さになる(坪変換で1haは約3,000坪)。

2)風力発電
偏西風が安定的な風力発電を可能とするが、
・わが国では安定的な風は海沿いの一部でしか吹かず風力発電に適した土地が少ない
・台風が頻発するわが国では、洋上発電の設置は現実的ではない
・落雷の危険性
・環境アセスメント対策、騒音や生息動物に影響が出やすいとされる風力発電、審査に4年以かかることも多く、行政から追加調査を求められれば、さらに完成は見送られる。

このため調査費の増大と買い取り価格の引き下げなどで採算見通しが立てづらいのが日本の風力発電拡大を阻害している。反対運動が起きている主な風力発電計画として、十和田八幡平国立公園に含まれる八甲田山系に設置予定の「みちのく風力発電事業」など6つの事業計画が紹介されていた(下図)。山間地での大規模風力発電事業計画が目立ち、自然保護団体から生態系破壊に繋がるとして住民と軋轢が生じている。

出所:7月7日付朝日新聞朝刊

3)地熱発電
・メリット
①CO2排出量が少ない
②天候や時間帯の影響を受けず安定した電力 供給可能
③日本は地熱資源量世界3位
④地熱発電タービンメーカーで日本企業の世界シェア1位(下図)

・デメリット
①開発コストが高い
②自然の景観を損ねる可能性
地熱発電の熱源となる土地は、国公立公園や温泉地帯に多く存在する。しかし、そのような観光地でもある場所に地熱発電の施設を建設すれば、景観を損なう恐れがある。国公立公園は、法律によって開発が制限されており、発電設備の建設はより困難を伴う。また、温泉地であれば地元の住民の理解が必要。地熱発電開発は、観光地や自然を保護する観点が必要。
③立地条件が限定される
地熱発電を行うためには、地熱流体が存在する地層を利用する必要がある。掘削する距離を最小限に留めるためには、フラットな土地でかつ火山の近くでなくてはいけない。しかし、そのような好条件がそろっている地域は、北海道や九州、東北地方などに限定され、地熱発電に適した立地を選ぶ難しさがある。

エネルギー庁としては地域の理解を得るために安全対策や事業の透明化を実施するとして
1)地元理解の促進に向けた取り組み
2)開始から終了まで一貫した、適正な事業実施の確保
3)安全の確保

の3つを掲げているが、導入に向けたハードルは非常に高い。

朝日新聞が今年2月に実施した全国世論調査では、原発再稼働賛成は38%(21年2月調査は32%)、反対は47%(同53%)となっている。16年7月から調査方法を変更しており、単純には比べられないものの、同じ質問をしてきた13年6月の調査以降、初めて反対が半数を割り込んだ(下図)。

確かに、原発再稼働には「使用済核燃料の処理問題が未解決」ではあるが、それより安全安心といった感情論に支配された社会受容性の問題が大きいのではないだろうか。一方、再生可能エネルギーの今後の拡充に関しても、自然保護や発電コストなどを考えると簡単ではないことが分かる。

経済合理性から見ると、当面の期間は、安全性を十分に確認した上で原発再稼働が現実的であると思われる。それがどうしても受容できないのであれば、自然保護や経済合理性を犠牲にしてまで再生可能エネルギーを取るのか、二者択一が政府と国民に迫られているのではないだろうか?

わが国の経済停滞が長期に渡るのは、リスクを取れずに不作為である日本政府と日本企業の責任、と海外の経済アナリストから揶揄されて久しいが、それがエネルギー問題にも波及しているのであろう。

大東文化大学国際関係学部・特任教授 高崎経済大学経済学部・非常勤講師 目白大学経営学部経営学科&目白大学大学院経営学研究科 非常勤講師 長崎県佐世保市役所 経済活性化~産業振興に関するアドバイザー、博士(経済学)江崎 康弘
NECで国際ビジネスに従事し多くの海外経験を積む。企業勤務時代の大半を通信装置売買やM&Aの契約交渉に従事。
NEC放送・制御事業企画部・事業部長代理、NECワイヤレスネットワークス㈱取締役等を歴任後、
長崎県立大学経営学部国際経営学科教授を経て、2023年4月より大東文化大学国際関係学部特任教授に就任。
NECで国際ビジネスに従事し多くの海外経験を積む。企業勤務時代の大半を通信装置売買やM&Aの契約交渉に従事。
NEC放送・制御事業企画部・事業部長代理、NECワイヤレスネットワークス㈱取締役等を歴任後、
長崎県立大学経営学部国際経営学科教授を経て、2023年4月より大東文化大学国際関係学部特任教授に就任。
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