高齢者は暑さを感じない?

「高齢者は暑さを感じない」ので、同居の人はエアコンをかけるように注意してください。あるいは、高齢者と離れて暮らしている家族は、「高齢者は暑さを感じない」ので、つねに高齢者を監視して、エアコンを使っているかどうか注視してください。などと毎日のようにメディアでアナウンサーが叫んでいる。高齢者は、まるで、幼児か、ペットのようなものと考えているのだろうか? 高齢者にも五感はあるし、五感を通じて暑さ寒さを感じる神経はある。前述のメディアは、「高齢者の五感は信用ならないので、無視するように」と叫んでいるのである。よく考えると失礼なことを言っていることに気づく。言っている方は失礼なことと思っていないのだろうが。

高齢になると、若者よりも、暑いことに対して寛容になるのは確かだし、その反対に寒さには弱くなる。夏になっても、冬ふとんのほうが良いと言うし、冬になると毛布をかけても寒がるのだ。その理由は、一般に高齢になると基礎代謝が低下するためで、筋肉量の減少が原因だと言われている。基礎代謝はその最も大きな働きとして、体温の維持がある。筋肉量が少なくなり、その結果、基礎代謝が低下すると、体温を保つための熱量が不足し、その為に脳が希望している一定の体温(例えば36.5度)に達しない。脳が欲している体温に届かないときには寒さを感じる。これが高齢者の寒がる理由である。そして、これは普通の反応だ。その結果として、夏でも布団をかけ体温を上げるようにするし、エアコンをあまり使わず、室温を高くする傾向にある。

熱中症は、定義として、「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」である。この中に、外気温などで体温が上昇して、体に不都合を生じる状態がある。これを防ぐために、人間は「暑さ」を感じて、汗をかいたり、冷たいものを飲んだりして、体温を下げるように努力する。高齢者の場合、多くは、体温が低く脳が要求する体温に到達するためには、若者よりも暑さを受け入れなければならない。ちょうど、爬虫類が、ひたすら太陽の光を浴び続け、体温を上げるように。そしてやっと脳が要求する体温に到達する。

このようなメカニズムを説明するまでもなく、高齢者は人間扱いされていないようだ。障害者にも同じ様な処遇がなされる。ケアの対象としては見るが、一人前の人間としては見ない。その意向は無視され、社会が命ずるままに、一定の位置を指定され、そこに留まることを強制される。

高齢になっても、自立して普通の人と同じように暮らすためには、自分で感じ、自分で考え、行動しなければならないし、その環境を壊してはならない。そして、自分の行動には自分で責任を持たなければならない。これは、人間が幼少期から教えられていることだ。高齢者が自分で感じることに敏感になることを否定し、自分で考えることを妨げて、自分の考えで行動することを妨害することは、社会として自殺行為であるだけでなく、高齢者自身の価値を引き下げることにつながる。

「高齢者」が、特に何らかの障害を持つと、社会から排除され、一人前の人間として扱われず、一定の位置(例えば老人ホーム)に押し込められることも同じ様な傾向である。社会がこれらの人たちを、そこにいないが如く扱うことを阻止しなければならない。「高齢者は暑さを感じない」との言葉に対しては、差別用語であると異議を唱える必要があるのだ。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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