運転免許返納キャンペーンは、もうやめましょう

警察あるいは関係者の努力によって近年の交通事故件数は減少し、とりわけ交通事故死亡者の減少は著しい。

警察庁の発表によると、交通事故死者数は、1970年に年間16,756人とピークをつけた後減少し、1992年頃再び増加したが、その後急速に減少し、2021年には2,636人と、最も多かった年の、16%にまで減少している。

しかし、マスメディアでは、高齢者が引き起こす交通事故の報道が相変わらず大きく取り上げられている。そして、それに引き続いて、「自主的免許返納」を促すキャンペーンがながされる。免許の返納を行った結果、高齢者比率が高い人口過疎地においての移動手段がなくなり、買い物などが困難になり、村落で共同運行する乗り物をどの様に確保するかが問題となっている。よく考えると不合理な話であり、自分で自分の首を絞めているようなものだ。

2つの問題点が指摘される。第一は、自主的免許返納のキャンペーンは都市部の住民の考えかたに立ったものであること、第二は、自主返納と言いながら、「雰囲気的」に免許の返納を促すような風潮に流されやすいことだ。地方の高齢者は、移動手段に困りながら、免許返納をするという矛盾に満ちた行動を周囲の「雰囲気」によって迫られているのだ。高齢者の免許返納は移動手段の確保とそれに伴うリスクとの選択を迫る重要な問題である。そこで、年代別の事故率の実態はどのようなものか見てみよう。

このグラフでは、高齢者(70才以上)の事故率はやや上昇しているが、最も低い40歳代に比べて1.3から1.46倍程度である。25才以下に比べるとかなり低いのが実態だ。この状態を持って、「高齢者の運転は危険だから免許返納を促す方が良い」とのキャンペーンを行うには力不足である。

さらに、近年では、交通事故数の減少とともに、免許の取得年齢別でも著しい事故率の低下が見られる。

10年間にそれぞれの年代で、おおよそ半減していて、80才以上の高齢者も例外ではない。しかし、マスコミ報道での実感では、今だに多くの高齢者が事故を起こしやすいように思われている。高齢者以外の事故はあまりニュースにならないが、高齢者が起こした事故はニュースになること、そして、免許の更新の際に、高齢者に特に運転技能を疑うようなハードルも設けられていること。これらはまさしく「エイジズム」である。もしハードルを設けるのなら、違反や事故を起こした人を対象としたほうが効率は良いだろう。高齢者に対する免許返納キャンペーンはもう終わりにして、必要な人が運転免許を所持することが普通になるような世界でありたい。その結果、過疎地の移動手段の問題の多くは解決されるかもしれないし、高齢者の活動を阻むような要因も少なくなるだろう。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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