世界から選ばれる都市“岡山”を目指して【橋本財団 2021年度研究助成 成果報告】

調査の目的

入国管理法が改正され、日本に在住する外国人が急増している。岡山も例外ではなく、過去5年間で在住外国人の数は7,000人近く増加し、現在は31,000人(2020年)を超える*1。この傾向は今後も継続すると考えられるが、岡山に暮らす在住外国人を支援する体制がどの程度機能しているのか、何が必要とされているのかなど十分な検証がされていないのが現状である。そこで、実情を調査し、解決すべき問題・課題を浮き彫りにし、在住外国人と共生する社会に望ましい制度・仕組みの在り方を考察した。本調査の結果を共有し、少子高齢化する岡山県の活性化につなげることを目的としている。

日本及び岡山の実態

我が国は、人口の約2%(岡山県:1.7%)が外国人である。岡山県の在住外国人の分布の特徴は、1.国籍:ベトナムが33%で最多であり、過去5年間で3.5倍に急増している。2.在留資格:技能実習生がトップで30%を占め、全国平均13.1%と比べても多い(以上2020年統計)*2。美作市には約50名のベトナム人技能実習生が在住し*3、主に製造業者が彼らを受け入れている。

技能実習生が抱える課題に低賃金と人権侵害という問題がある。まず低賃金の要因として、実習生の受け入れに際して企業が負担する経費(監理団体に支払う管理費、研修費、渡航費)がかさむため、その分実習生への賃金が低くなるという実情がある。また、職場の変更が認められていないため、人権侵害が生じやすい状況になっている*4。岡山県でも近頃技能実習生に対する暴行事件が報道された*5が、これは氷山の一角に過ぎず、隠れた人権侵害の広がりが危惧される。この制度については、国連からも批判の声が上がっており、勧告が出されている*6。

これを受けて2017年に技能実習法が施工され、2019年には「特定技能」という新たな在留資格が創設された。技能実習法により実習生の保護が強化されたが、実際に人権が守られているかは注視していく必要があるだろう。新しく導入された「特定技能」という在留資格は、労働者としての受け入れ、転職の自由、日本人と同等以上の報酬、悪質ブローカーを仲介させないことを受け入れ企業に求めている*7。しかし5年という在留期限や家族を連れて来られないなどの課題がある。この資格には技能実習生からの移行が多いが、今後の動向を見守る必要がある。

留学生については、アルバイトをする留学生が多いという、他国ではあまり見られない特徴がある。働いてお金を稼ぐことが主な目的で来日し、法律で認められた週28時間を超えるアルバイトをする、いわゆる「偽装留学生」が問題となっている。典型的な例としては、日本語能力を問われずに入学できる日本語学校に入学し、専門学校へ進学、卒業後にホワイトカラーの在留資格である「技術・人文知識・国際業務」のビザを取得し、実際は工場などで単純労働につく「偽装就職」の事例が多い。大学の卒業証書がネットで売買され、偽装就職を斡旋するブローカーが暗躍する事態となっている*8。

外国人受け入れ先進国の調査

ドイツは、移民の受け入れに熱心な国であり、移民が人口の2割を占める。「トリプル・ウィン」という看護師受け入れのプロジェクトにより、フィリピン人をリクルートするという例もある*9。

カナダでは、住み込み介護者の約90%がフィリピン出身で、月収は15〜20万円程度、2年間の契約を満了すれば永住権が与えられる仕組みとなっている。日本より待遇が良いため、カナダを第一志望とするフィリピン人が多い*10。

韓国には、日本の技能実習制度に似た雇用許可制という制度があり、非熟練労働者を受け入れている。日本の技能実習制度より賃金が高く、滞在可能期間も長いため、雇用許可制の方が評判が高い*11。

語学学習は、ドイツや韓国では、在留外国人に対してそれぞれの言語教育を行うことが政府の業務の1つとなっており、正規の教師が指導している。ボランティア任せの日本とは対照的である。

このように日本は諸外国と比べて受け入れ体制に不十分な点が多いため、移住先として選ばれない国となりつつある。それどころか、優秀な日本人が海外に流出しているという実態もある*12。

アンケート調査

岡山県の実態を把握し、岡山県に即した改善策を提起するために、文献調査と並行してアンケート調査を実施した。

在住外国人へのアンケートにおける回答者の内訳は留学生が半数弱、永住者・定住者・家族の在留資格が35%となっており、日本社会に貢献したい、日本での生活を継続したいという意見が多数見られた。求められている支援には、日本語支援や多言語環境の充実などがある。

県民の意識調査の回答者は40-60代の中高年が7割を占め、約半数が会社員であった。今後の在住外国人との交流の深め方について「日常会話」(49.7%)や「相互交流」(35.4%)など自発的な交流を選択した人が85%を超えており、多文化交流を深めることに積極的な姿勢を持っていることが分かる。

受け入れ自治体での交流事例

岡山県内の各自治体では様々な交流事業が行われている。日本語教室などは多くの自治体で開催されているが、ユニークな例としては、外国人に「支援される側」から「支援する側」となってもらうための、総社市外国人防災リーダーの養成*13がある。また、実習生が多い美作市では、実習生と地元住民が交流する料理教室やサッカー大会などのイベントが行われている*14。しかし、市町村によって温度差があるため、上記のように熱心な取り組みを進める事例を紹介し、各地に広めていくことも大切である。

改善策

これらの調査結果を踏まえて、いくつかの改善策を提起したい。

企業に対しては、優秀な外国人が数年で日本を去るという実態を改善するために、昇進基準を明確化しキャリア形成を支援すること、社内の多言語化を推進することなどが必要であろう。さらには、即戦力を求める海外企業と異なり、働きながら経験を積み、専門性を身につけるという日本企業の人材育成の仕組みや家族的な社風など、日本企業の魅力を積極的にアピールすることも良いだろう。就業・移住の地として日本が選ばれない決定的要因である低賃金の問題も早急に改善すべき課題である。一つの対策として、下請け企業へのピンハネをなくすことも有効だろう。

行政や政府に対しては、特定技能の在留期限をなくし、優秀な人材の長期滞在が可能になる制度作りが求められる。さらに家族の帯同を可能とし、妊娠・出産による解雇や強制帰国の廃止も進めるべきだろう。家族で定住する外国人が増加すれば、インターナショナルスクールや夜間中学などの学び直しの場の設置、宗教に配慮した給食の提供、公営住宅の整備なども進める必要がある。

今後は国際的な労働環境のガイドラインが作られ、遵守しない場合は国際市場から排除されるという体制が作られつつあり、労働環境の改善は急務である。

県民と在住外国人の交流が深まり、外国人への労働条件改善の機運が高まれば、岡山県の主要産業である製造業等での労働環境は改善に向うだろう。さらに家庭生活が可能な給料が得られるようになれば、在住外国人のみならず岡山の若者も地元で職に就くことができるようになるだろう。そして、外国人と岡山に暮らす若者が手を取り合い、世界から選ばれる都市岡山を作っていくことができればと願っている。

*1 岡山県内の在留外国人数の推移(令和2(2020)年現在(https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/739629_6764187_misc.pdf)
*2 出入国在留管理庁(2021/3/31)「令和2年度末現在における在留外国人人数について」令和3年度のプレスリリース公表資料
(https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00014.html)
*3 美作商工会とのインタビュー談話(2021年9月27日実施)
*4 斉藤善久「外国人出稼ぎ労働者の受け入れ――改正入管法の問題点」(SYNODOS: OPINION 2019年1月21日; https://synodos.jp/society/22389)
 出井康博『移民クライシス』(角川新書)
*5 「ベトナム人暴行 法相が対応指示 実習先と監理団体に改善を勧告」(山陽新聞 2022年01月25日 20時33分 更新)
*6 「人身取引に関する国連専門家、訪日調査を終了」(国際連合広報センタープレスリリース 09-034-J 2009年07月23日https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/2753/)
鳥居一平『国家と移民』(集英社新書)
*7 出入国在留管理庁「新たな外国人材受入れ及び共生社会実現に向けた取組」(特定技能制度:https://www.moj.go.jp/isa/content/930004251.pdf
井手清香(2021/11/18)「【2021年】特定技能14業種を徹底解説!職種一覧・受け入れ状況まとめ」(株式会社マイナビグローバル, 外国人採用サポネット:https://global-saponet.mgl.mynavi.jp/visa/2459)
*8 出井康博『移民クライシス』(角川新書)
*9,10 出井康博『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)
*11 毛受敏浩『移民が導く日本の未来』(明石書店)
  西日本新聞社編『新移民時代』(明石書店)
*12 大石奈々「静かなる流出: ポスト 3.11 における 日本人高度人材の豪州への移住」 (https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssiss/72/2/72_93/_pdf/-char/ja)
*13 総社市外国人防災リーダー (https://www.city.soja.okayama.jp/jinken-machi/kurashi/tabunkakyousei/tabunka_amuda/disaster-prevention-leaders.html)
*14 ベトナムとの交流(http://www.city.mimasaka.lg.jp/shimin/kurashi/international/1479781454975.html)

 

NPO法人岡山県国際団体協議会
1991年に個別国際活動団体を連合して設立し、2004年9月に法人化し現在に至る。主活動は、南アジア、東南アジアにユネスコが各国村落に設置したCommunity Learning Center(日本の公民館に相当)の地域に於ける「人づくり、組織づくり、地域づくり」を行い、ESD主体の地域開発のための国際協力を行っている。これまで相互協力をした国は、バングラデシュ、ネパール、ベトナム、インドネシア、フィリピン、ラオス、タイ等で国際会議は28回行っている。
1991年に個別国際活動団体を連合して設立し、2004年9月に法人化し現在に至る。主活動は、南アジア、東南アジアにユネスコが各国村落に設置したCommunity Learning Center(日本の公民館に相当)の地域に於ける「人づくり、組織づくり、地域づくり」を行い、ESD主体の地域開発のための国際協力を行っている。これまで相互協力をした国は、バングラデシュ、ネパール、ベトナム、インドネシア、フィリピン、ラオス、タイ等で国際会議は28回行っている。
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