留学生の学生生活の大切なコミュニケーションツール

近年、企業では、FacebookやTwitter、LINE等のSNSを利活用し、企業全体のブランディングや特定製品・サービスのブランディング、キャンペーン利用、顧客サポート等を行うケースが多く見られます。また、大学等の高等教育機関においても、入試広報活動や教育支援活動、情報提供活動をSNSで行うケースは少なくありません。私が携わる大学での留学生教育の現場においては、SNSを積極的に用いて留学生の学生生活支援に役立てるようにしています。本稿では、私が大学で担当する専門ゼミ等のSNSを用いた留学生の学生生活支援の取組みを紹介します。

私が担当する3年生の専門ゼミは、対象の受講生を留学生のみとし、留学生の就職活動の支援を目的として開講しています。今年は、中国、ベトナム、スリランカ、モンゴル、ウズベキスタン、ネパールの6カ国24名の留学生が専門ゼミを受講しています。前半の講義では留学生の就職支援教材として分担執筆し作成した「留学生の就活入門」という教材を輪読し、就職活動の専門日本語やディスカッションを通じて、留学生の就職活動の方法について理解を深めます。後半の講義は、就職で求められるビジネス日本語の学習として、公益財団法人日本漢字能力検定協会主催のBJTビジネス日本語能力テストに関する学習を行っています。

このような学習と合わせて、専門ゼミでは、留学生と個別のLINEでコミュニケーションをとっています。それに加えてLINEでのクラスコミュニティを作り、留学生の学生生活支援に役立てるようにしています。例えば、個別のLINEによる繋がりでは、日本での就職や起業の夢など将来に関することや、履歴書作成時の志望動機の添削等の個別相談、講義欠席や課題提出の進捗管理等の学生指導を行っています。一方、クラスコミュニティでは、大学の学生掲示板に掲載されている重要と思われる案内の再アナウンスや専門ゼミの運営に関する説明、留学生向け就職説明会の情報提供、BJTビジネス日本語能力テスト等の日本語試験の啓蒙を行っています。さらに、BJTビジネス日本語能力テストで覚えなければならない語彙を毎日、1語彙に漢字、ひらがな、英語の情報を記載して10語彙ずつ貼り付けて送るようにし、留学生の毎日の学生生活の隙間時間に覚えてもらっています。毎日10語彙ずつ隙間時間に学んでもらうことによって、日中は大学での勉学、放課後は生活費を賄うためのアルバイト等で忙しい学生生活を送る留学生でも、1カ月に300語彙を覚えることができます。

また、LINEでのクラスコミュニティは、留学生の学生生活支援だけではなく、オンライン上での留学生同士の横断的な交流を活性化させ、国籍を超えた人と人との繋がりを促進します。専門ゼミの留学生の中には、LINEでのクラスコミュニティを通じて知り合いとなり、他のFacebook等のSNSで繋がりを持ち交流を深めている者もいます。

留学生のFacebookでは、母語や写真等で日本での留学生活や母国の家族や友達の様子をよく投稿していますが、SNSを通じて、日本にいる同胞とつながったり、日本生活で困っていることなどを相談し合い、助け合うために活用しているとも聞きます。また、翻訳機能を活用して、国籍の異なる留学生が投稿に対していいね!ボタンを押している様子を目にすることがあり、コミュニケーションツールとして使われていることを実感します。縦のつながりとしては、卒業した教え子たちの日本での生活をFacebookで閲覧することができ、私と教え子たちをつなぐツールとしても欠かせません。今や、留学生に限らず、母国を離れて海外で生活しようとする際に、SNS(オンライン)上でのつながりやそこから生まれる交流は必須のものとなっているのではないでしょうか。

留学生教育に携わって以来、私は、上記の通り、できるだけ留学生とSNSで繋がりを持つように心掛けています。このような留学生の学生生活支援の取組みを発展的に行い、卒業した教え子たちとも個別のLINEによる繋がりに加えてLINEでのクラスコミュニティを残すようにしています。その結果、卒業後の日本での生活を見守ることが可能となり、相談を受けたり支援をするだけではなく、彼らと喜びを共有することも可能となりました。例えば、卒業した教え子たちの日本での転職に関するキャリアアップに関する相談、日本での外国人児童の育児の教育に関する支援を行う一方で、日本での貿易会社を起業するという夢が叶ったという報告を受け、一緒に喜びを共有することができたのです。

今回は、専門ゼミでのSNSを用いた留学生の学生生活支援の一例を紹介しました。専門ゼミでのLINEでの個別の繋がりとクラスコミュニティは、単なる留学生の学生生活支援というだけでなく、とても大切なコミュニケーションツールとなっています。また、この大切なコミュニケーションツールを継続的に利活用することによって、卒業した留学生だった教え子たちとも繋がりを持つことができ、日本社会の構成員として生きる教え子たちを見守ることができるのです。

(参考文献)
1. 南雲智・寺石雅英編(2020).『留学生の就活入門-日本で就職したい留学生のために』,論創社。
2. 山下誠矢(2016).「大学におけるソーシャルメディアの利活用に関する研究-入試広報活動・教育支援活動・情報提供活動を中心に-」,『日本経大論集』,第 46 巻第 1 号,41-54 頁.
3. 公益財団法人日本漢字能力検定協会(2022).「Voice 卒業後を見据えた就職活動指導」,https://www.kanken.or.jp/bjt/voice/co_edu/post_23.html,2022年6月13日にアクセス。

日本経済大学 准教授山下 誠矢
群馬大学社会情報学部卒業。横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科博士前期課程修了。修士(経営学)。企業でコンサルティング業務従事後、早稲田文理専門学校経営ビジネス系教員/教務主任等を経て、日本経済大学経営学部経営学科専任講師、准教授/教務部長補佐。現在、日本経済大学経営学部経営学科准教授。専門分野は、①経営学分野(経営学全般、コンテンツビジネス)、②異文化経営分野(留学生のリファラル採用、留学生の正社員登用、在留外国人の就労)、③キャリアデザイン分野(在留外国人のキャリア開発支援)、④留学生教育分野(ビジネス日本語、留学生の就職、留学生の起業、異文化理解)。
群馬大学社会情報学部卒業。横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科博士前期課程修了。修士(経営学)。企業でコンサルティング業務従事後、早稲田文理専門学校経営ビジネス系教員/教務主任等を経て、日本経済大学経営学部経営学科専任講師、准教授/教務部長補佐。現在、日本経済大学経営学部経営学科准教授。専門分野は、①経営学分野(経営学全般、コンテンツビジネス)、②異文化経営分野(留学生のリファラル採用、留学生の正社員登用、在留外国人の就労)、③キャリアデザイン分野(在留外国人のキャリア開発支援)、④留学生教育分野(ビジネス日本語、留学生の就職、留学生の起業、異文化理解)。
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