「職員でもっと意見を戦わせることが必要ですね。」
先日わたしが講師を務めたある研修会の質疑応答で、中学校の先生がそうおっしゃいました。コロナ禍で“飲みニケーション”がなくなり、じっくり話をする場や本音をぶつける場もずいぶん少なくなっている、ということでした。
さまざまな職場、学校があるとは思いますが、読者の学校(勤務校やよく知る学校)では、以下のような症例はありませんか?
〇一部の声の大きな先生の意見が通る。あるいはその人がしゃべった後は、異論や疑問をはさむ人はほとんどいない。
〇情緒的な主張が通りやすく、根拠や前提を確認したり、論理的に議論をしたりすることは少ない。
たとえば、「子どもたちがかわいそう」、「すべては子どものためです」といった一言で、その後の議論を封じ込めてしまう。
〇反対意見を述べたり、疑問をはさんだりすると、会議が長引くし、面倒なヤツと思われる雰囲気がある。
〇新しいことや挑戦することを言うと、提案した人一人がやる(やらされる)ことになりかねない。
〇みんな忙しいので、今以上のことはできないと、多くの人ははじめから思い込んでいる。
ちゃんと調査したわけではないので、断定はできませんが、おそらくこうした症例が多く見られる職場(便宜上、Aと呼びます)では、意見を戦わせることはほとんどありません。前例踏襲を打破して挑戦したり、異なる意見や価値観のなかでもよりよい方策を導いたりすることも苦手なはずです。言い換えれば、Aの学校では、事なかれ主義的であるか、もしくは特定の考え方や価値観に強く同調しても、それではうまくいかないときに軌道修正を図りにくいでしょう。
今般の新型コロナのような不確実性の高い社会では、これまで通りの考え方ややり方では通用しない場面が多いですし、さまざまなことを試行しながら改善していくしかないので、Aのような職場ではうまく対応できない局面が多いと思います。
具体例で申し上げましょう。各学校、昨年度の教育課程の振り返りはどのくらいできたでしょうか?もう2年以上、コロナに翻弄され続けていますが、ともかく教科書を最後まで終えるということや、安全に学校行事をこなすということには注目しても、そもそもどんな学びを実現したかったのか、その点でどのくらい実現したのか、課題は何だったのかなどを突っ込んで反省したでしょうか。あるいは、学力向上に苦労している児童生徒や家庭環境でしんどい子どもたちが置いてきぼりになっていないでしょうか。
学校評価など1年間の振り返りのときも、多少のアンケート結果を見て、「肯定的な回答が多くてよかったね」という程度や、「コロナなので仕方がなかったよね」という程度の感想会。教職員間で議論し、多様なアイデアや声を出して改善を図っていくという姿勢はほとんどない。人事異動もあるし、4月には昨年度の反省などなかったかのようにリセットして再スタート。そんな学校にはなってはいないでしょうか。
別の例では、急速に少子化が進むなか、いまの部活動数を維持できない(維持しようとすると、さまざま無理や過大な負担が生じる)中学校や高校は多いはずです。また、プライベートも大切にしたい先生も多く、いまの部活動の体制やあり方のままでいいとは考えていない人も少なくないはずです。ですが、部活熱心な先生の声が大きく、あるいは忖度して、部活のあり方を考えようなんて話し合いはとてももてない、そんな声も多く聞きます。
Twitterなどで部活の不満がたくさん出ているのは、裏を返せば、リアルな職場では改善はおろか、意見すら出せていないからかもしれません。
わたしは文科省等が「PDCA」とさまざまな文書で何度も強調するのは、どうかとは思っていますが(そもそも事前にきちんと計画できない事態も多いし、PDCAと書くことで思考停止している節もあるのは問題)、学校でCAもPも形骸化していると思うことは多々あります。みなさんの学校はいかがでしょうか。
今回述べたことと関連が深いのは、心理的安全性や組織学習です。心理的安全性の低い職場では、健全に意見を戦わせることはなく、挑戦しようとすることも少ない。うまくいかなったこと、失敗から学ぶということも少ない。これは、企業経営などで警告され続けてきたことですが、こんにちの学校でも、振り返るべきことかと思います。
冒頭の質問にわたしはこうコメントしています。
「主体的で対話的で深い学びは、まず職員室からですね。」
(参考)
石井遼介『心理的安全性のつくりかた』
エイミー・エドモンドソン『恐れのない組織』
中原淳・中村和彦『組織開発の探究』
妹尾昌俊『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』
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