潜入レポ!介護の現場から 第10話「身体拘束‐続編‐」

山田様は過去のトラウマに苦しんでいる。


山田様は「そこでは人間ではなくて、まるで『物』だったわ」と。それは、私にとっても非常にショッキングなことだった。介護の技術は二の次でいいから、まずは人として接してくれることを望む、とおっしゃったのだ。
これまでの人生の全てを否定され、この先も生きがいを持つことができない生活ってどういうことだろう。絶望という言葉が浮かぶが、絶望とは文字通り全ての望みを絶つということ。この状態では生きていられない。

山田様はどんな経緯で以前の施設から転居されてきたのだろう。希望をもって転居されたのではないか。だとしたら何に希望を持たれたのか。

そして絶望を覚えた以前の施設でのことが知りたい。

もしかすると以前の施設で起ったことは決して特別ではなくどこにでも有ることかもしれない。

山田様の心の傷を深めないようにお聞きし、できればトラウマを少しでも軽減してさしあげたい。


また、山田様に会いに行こう。
 
山田様は、ぽつりぽつりとお話しして下さった。その間、ずっと必死に手を握りしめていた。手を握る力に合わせて、言葉を絞り出すように語ってくださった。

山田様が以前の施設に入居された理由は、脳梗塞を発症し入院・リハビリをしたが、自宅での生活を家族が不安に思ったからだそうだ。「もう少し良くなるまで」という説明だったので、山田様としては1~2ヶ月したら自宅に帰れると思ったらしい。


入居して間もない頃は、まだ一人でのトイレ移動が不安定であった。
ある日、食堂で配膳してくれた職員に、トイレに行きたいと言ったところ「ご飯を食べるの?トイレに行くの?どっち?」と言われた。両方に決まっている。そして先にトイレに行かなければ食事なんてできない。でもどちらかを選べというならトイレだ。食堂にいる大勢の前で失敗なんてしたくない。

 

思わず大声で「トイレに行きます。食事は要りません!」と山田様は怒鳴ってしまった。

大声を出したからだろうか「気分が楽になりますよ」との説明で薬を飲まされた後、いつもボーっとしていたとのことだ。歩く練習が進まなかったのはこの薬のためだと思っている。山田様以外でも、おやつを制限されている方が他の方のテーブルや冷蔵庫のお菓子を食べたところ「うろうろしないで!お部屋から出てはだめ。人のものを盗ったら泥棒よ!」などと言われていたという。


そして食堂で椅子ごと括られている方の話が出た。その方はいつも食事の途中でトイレに行こうとするので、その度に椅子から滑り落ちていたらしい。暫くして椅子ごと括られるようになり、椅子や机を叩きながらトイレに行きたいと言われていたそうだ。

そこの施設に入居することに納得できないまま、自分の経験と入り混じって、より一層辛いものとして心に残ってしまったと思える。職員の暴言ともいえる心無い一言は、同じ人間ではなく「物」として扱われていると感じても当然といえる。

身体的にも精神的にも「拘束」をされていたのだ。

 

 

 

 「潜入レポ!介護の現場から」全体像

*介護施設にパート職員として潜入した池田出水。そこで見聞きしたことから現場の問題を表現していく。職員の様子・入居者や家族の様子・ケアの状況・往診医や時には受診付き添いなどでの病院の様子などレポートは多岐にわたる。

*登場人物
介護の現場体験者:池田出水
施設責任者(施設長):渡辺
パートの先輩:大村
常勤ヘルパー(リーダー):若林

常勤職員
往診医
203号入居者
202号入居者:山田・・以前は大型の施設に入居
202号入居者家族
虐待疑惑職員:吉田・・辞職してしまった
共感してくれる職員(もう一人のリーダー):増野

ペンネーム池田 出水
「これからの日本には介護サービス業界こそが必要!これぞ社会の根幹!」と考え、それを支えるべくこの業界に飛び込む。
昨今の介護サービスの現状を憂う大和撫子。
「これからの日本には介護サービス業界こそが必要!これぞ社会の根幹!」と考え、それを支えるべくこの業界に飛び込む。
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