明治維新から150年経ち、明治維新から敗戦まで75年、太平洋戦争敗戦後75年になる。明治維新に新しい国を目指して、敗戦という大きな挫折を味わい、その期間と同じ年月を経過した現在、日本はどの方向に進むのか?
明治維新からの新しい国造りから35年経たとき、日露戦争が起こり、その勝利によって、それまでとは違った日本に変化していった。過度の自信を持ち、東洋の国々の頂点に君臨する国家であるべきと自信過剰に考えるようになった。
同様に、敗戦後1945年から35年後の1980年代は、日本が絶頂期を迎えるようになった時期である。その時期は敗戦からひたすら経済に重点を置き、GDP世界二位、目覚ましい経済成長を果たしていた。しかし、日露戦争後、日本が次第に統治を不安定にしたように、1990年以降バブルの崩壊によって、再度の敗戦を迎えたようだ。それ以降、自信過剰な状態から急激に自信を喪失していく。
国家の目的が、国民の生活を安定させ、安全を保障することであるとすれば、国の仕事は①外国からの侵略を防ぐこと ②国の経済力を高めること ③最低限度の生活を保障すること、以上の3点に集約される。このうち、②と③が福祉国家において実現されるべきことだ。福祉国家においては、もっぱら低所得者に対する保障が大切と思われがちであるが、これは旧来の考えであり、国の経済的安定とすべての人に対する社会保険機能が必要となる。
デンマークの社会学者、デイビッド・ガーランドによると、これからの福祉国家は、社会的人的資本投資、個別化(多様な欲求に個別的に対応する仕組み)、ジェンダーへの配慮などに重点が移行する。そして、福祉国家像を時代によって分類すると以下のようになる。
● 福祉国家(WS)1.0;1945年~1980年
ジョン・メイナード・ケインズ、ウイリアム・ベヴァリッジなどが目指したものである。第二次大戦の反省から、資本主義には格差が必然的に生じ、それを埋めるために、「福祉国家」が必要であると考えた。大戦後の大量生産時代が到来し、この試みは「大成功」となる。戦後の経済回復と相まって、所得の大きな再分配に対しても、反対は少なく、経済的には成功し、社会は安定した時代だった。しかし。
● 福祉国家(WS)2.0;1980年~2010年
福祉国家は次第に慢性的なインフレと、不況を繰り返すようになった。成長率も鈍化する。ここに、新自由主義の挑戦が始まった。もっとも不況が深刻だった1979年からのイギリスには、マーガレット・サッチャーが登場し、アメリカには、ロナルド・レーガンが登場、新自由主義が全盛となり、政府の役割を縮小し市場に任せる自由放任に近い政策を目指した。しかし、2010年代になり、新自由主義では、アメリカを始めとして、格差の増大を招き、国内の不安定性を生んでいる。また、ジェンダー問題、人種問題などには新自由主義的考えでは、十分に対応することが出来ない。
● 福祉国家(WS)3.0;2010年以降
この状態でのメインスキームは、WS1.0からの社会保険、社会扶助、公的サービス、ソーシャルワークなどに加え、社会的人的資本投資、個別化(多様な欲求に多様に対応する仕組み)などに重点が移行する。社会的人的資本への投資は、労働市場の活性化でもある。教育訓練、継続教育、公的セクターでの職の創出、そして、勤労所得税控除(給付付き税額控除 EITC)の仕組みなどである。個別化については、昔なら把握することが困難な個人の所得や個人情報が、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を使って集めることで、すべてを把握することが出来るので、格差の是正には適切な効果を発揮する。
この様な分析に対して、日本の現状はどうなっているか?
福祉国家WS3.0に対しての対応が遅れている。社会的人的資本への投資は、福祉国家WS3.0の最も中心の課題であるが、残念ながら、人材の流動性が乏しく、適切な職種に対しての移動が出来ない状態だ。新卒一括採用制度、そして、中途採用市場の貧弱さが拍車をかけている(最近の大盤振る舞いされている雇用調整助成金も中途採用市場の形成を妨げている)。個人の欲求の表明ができず、自分の望むものがはっきりとしないので、職業の選択ができない。
また、個別化の面では、マイナンバーカードの普及が遅れていることに代表されるように、個人情報を国に提供することに対しての疑念がある。つまり、何らかの不手際で個人情報が外部に漏れる危険、そして、個人情報を国が統治のために勝手に使用する危険性である。これらは、すべて国と個人との信頼関係があるかどうかに依存する。日本でのこの分野が遅れている原因は、国民と国との信頼関係が乏しい点にある(社会と個人との関係は良好にも関わらず)。
結果的にケインズの言うアニマルスピリッツの低下は著しく、リスク回避の傾向が増している。外国人の増加以外には、改善する方法がないかもしれない。
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