外国人経営者となった教え子から学ぶこと

2020年9月に、専門学校の教員時代の中国籍の教え子が東京の上野界隈でG&Cグローバル株式会社を創業しました。G&Cグローバル株式会社では、越境EC事業、日用品化粧品事業、食品調味料事業、石油化学事業等の事業展開を行い、日中貿易の架け橋を目指しています。G&Cグローバル株式会社のG&Cとは、教え子の名前と彼の奥様の名前の英字の頭文字を取ったものです。私は、大学で経営学分野や留学生教育分野等の教育研究を行う傍ら、外部顧問として外国人経営者となった教え子(以下Gさんとします)の会社経営の相談に乗っています。

Gさんの会社では、2021年8月に1期目の決算を迎えました。初年度の営業利益はプラスとなり会社経営は順調なスタートとなりました。その一方で、1期目の決算を終えた教え子の会社経営の相談に乗っていると、他の外国人経営者においても経験する特有の課題というものが浮かび上がってきました。それは、(1)事業拡大に伴うビジネスローンの利活用に関する課題、(2)事業拡大に伴う外国人人財の採用に関する課題、(3)将来の在留資格変更に関する課題、の3点です。

先ず、(1)事業拡大に伴うビジネスローンの利活用に関する課題が挙げられます。G&Cグローバルでは、日本企業のニーズに合わせて母国等の企業から商品を仕入れていますが、仕入れ数が多くなれば多くなるほど資金が必要となってきます。このような事業拡大に備えて、この会社では、金融機関からビジネスローンの利活用を検討しています。通常、日本で外国人経営者がビジネスローンを利活用するためには、会社経営を行うための在留資格「経営・管理」を有するか、日本に永住するための在留資格「永住者」等の在留資格を有することが先ずは基本的な要件となります。それに加えて、ビジネスローンを受ける際に必要な書類を揃えて金融機関に提出し、ビジネスローン担当者との面談を通じて日本語能力等の評価も加味されます。それらすべてで特に問題がなければ、ビジネスローンを受けることができます。

外国人経営者が異国の土地でビジネスローンを受けるためには、在留資格の要件だけを満たせば良いということではありません。その他には、金融機関の情報を調べることやビジネスローンの内容理解、必要な書類の記入準備、ビジネスローン担当者に分からないことを聞くことや自分で説明する等の高度なビジネス日本語の能力が外国人経営者に求められます。

次に、(2)事業拡大に伴う外国人人財の採用に関する課題が挙げられます。G&Cグローバルでは、母国等の企業から商品を仕入れること以外にも、仕入れた商品を自社でネットショップを立ち上げて販売する計画を立てています。この計画を実現させるためには、中国籍のネットショップの立ち上げから運営が行える即戦力となる人財が必要となります。そのため、2021年10月から、新卒で就職活動を行っている中国籍の留学生や、転職活動を行っている中国籍の社会人を対象としながら、即戦力となる人財の採用活動を開始しました。採用後は、始めの3ヵ月間はアルバイトとして経験してもらい、その後は正社員として新たな仲間として迎える計画を立てています。この採用活動において、Gさんは、採用面接を時折行っております。しかしながら、ネットショップの立ち上げから運営を行える人財は、既に起業している者や就業している者が大半で、人財を探すのは難しいとのことでした。結果としてG&Cグローバルではなかなか採用には至っておらず、現在においても採用活動を継続しています。

最後に、(3)将来の在留資格変更に関する課題が挙げられます。現在、Gさんは、在留資格「経営・管理」を有して外国人経営者として会社経営を行っています。創業の初年度、Gさんは在留期間1年の在留資格が与えられましたが、在留期限が近づくと住居地を管轄する地方出入国在留管理官署に出向いて更新を行わなければなりません。この在留期間更新では経営する会社の業績が審査対象等として極めて重要な資料となります。Gさんは、これから迎える在留期間更新を問題なく終え、在留期間3年または5年の在留資格「経営・管理」を有しながら、長期的には「永住者」に在留資格変更を行うことを希望しています。しかしながら、在留期間3年または5年の資格「経営・管理」は、1回目の在留期間更新後に得られるものではなく、会社の業績が良い状態を維持し続けなければ得られません。また、「経営・管理」から「永住者」に在留資格変更を行う際にも、会社の業績が問われます。「永住者」は、在留期間が原則無期限であるため会社経営の継続性という観点から商取引や金融機関との取引においても有利となるものの、変更は簡単なことではありません。

以上のように、私の教え子の会社経営から浮かび上がった、外国人経営者に特有な課題について概観しました。私は、教え子の会社経営の相談に乗りながら、浮かび上がる課題をどのようにして解決していくかを一緒に考え、そこから学んだ知識を日本で起業を志す他の留学生の支援に活かしています。日本で起業を志す留学生からの相談は、在留資格「経営・管理」の申請に関することや小売店を展開する日本企業に母国の商品を提案する方法、JANコードの申請の方法、外国人経営者が金融機関のビジネスローンを利活用するための方法等様々です。相談を受けなければ、このような知識を知ることはなかったでしょう。教え子の相談に乗りながら、実は私自身も、経営学分野や留学生教育分野等の学術書からでは学ぶことができないことを、多く教えてもらっているのです。

日本経済大学 准教授山下 誠矢
群馬大学社会情報学部卒業。横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科博士前期課程修了。修士(経営学)。企業でコンサルティング業務従事後、早稲田文理専門学校経営ビジネス系教員/教務主任等を経て、日本経済大学経営学部経営学科専任講師、准教授/教務部長補佐。現在、日本経済大学経営学部経営学科准教授。専門分野は、①経営学分野(経営学全般、コンテンツビジネス)、②異文化経営分野(留学生のリファラル採用、留学生の正社員登用、在留外国人の就労)、③キャリアデザイン分野(在留外国人のキャリア開発支援)、④留学生教育分野(ビジネス日本語、留学生の就職、留学生の起業、異文化理解)。
群馬大学社会情報学部卒業。横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科博士前期課程修了。修士(経営学)。企業でコンサルティング業務従事後、早稲田文理専門学校経営ビジネス系教員/教務主任等を経て、日本経済大学経営学部経営学科専任講師、准教授/教務部長補佐。現在、日本経済大学経営学部経営学科准教授。専門分野は、①経営学分野(経営学全般、コンテンツビジネス)、②異文化経営分野(留学生のリファラル採用、留学生の正社員登用、在留外国人の就労)、③キャリアデザイン分野(在留外国人のキャリア開発支援)、④留学生教育分野(ビジネス日本語、留学生の就職、留学生の起業、異文化理解)。
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