「どこで産むのか?」は妊娠が分かったら最初にパートナーと話し合うことの一つだと思います。「里帰りする?近所にする?」「総合病院?専門医?」「無痛?」などなど選択肢もたくさんありますが、意外と知られていないのが「助産院でのお産」という選択肢ではないでしょうか。その一番の特長は「父親も参加型」であること。陣痛から出産まで助産師さんにビシバシと指示を受けながら立ったり座ったり父親も一生懸命動き、そして出産というゴールにたどり着く。体験した僕自身、あの時間を母親である妻(には到底及ばない苦労なれど)と一緒に経験できたことに大きな意義を感じました。この経験をシェアしたい。そう思い、拙い文章ですが筆を執らせていただきました。しかも、お産ができる助産院はだんだんと減っています。岡山市内には1カ所のみで、助産院でのお産自体も貴重なものとなってきています。そのこともあり、助産院の良さを少しでもお伝えし、少しでも応援できれば、という気持ちでも書かせていただきます。
なお、助産院でのお産には医師の判断が必要など、いくつかの条件があります。望んでも助産院で出産できない方もいます。実際、僕らも途中その懸念がありましたし、この記事は多様な選択肢の一つとして助産院での出産を知ってほしいと書いているもので、助産院のお産だけが良いと言いたいわけではありません。一つの体験記として読んでいただければ幸いです。
僕らの場合は「妻の実家でなく今、住んでいる岡山で出産する」ということを決め、まずは長年にわたり子育て支援に取り組むNPO「0-99おかやまおしえてネット」代表の洲脇さんに連絡しました。すると、ちょうど洲脇さんが小児科医の國末さん、助産師の出井さんとされている子育て支援の集い「sodateku」(ちょうど子育て本を出版されました)の会議で集まっているということで、運よく、子育ての専門家である御三方に相談をすることができました。その際にいただいたアドバイスを元に夫婦で話し合った結果、「布団で産みたい」の妻の一声で助産院に決定。善は急げということでご紹介いただいた岡山市内で唯一お産のできる「ゆうり助産院」を訪問しました。
辿り着くと、見た目は普通の2階建て住宅。両隣も普通の住宅で、目の前は少し広めの公園。いかにも落ち着いた住宅地の装いです。呼び鈴を押して中に入ってみるとこれまた普通の玄関。部屋の中は家具が少なく広々している以外は普通の部屋で、病院のような器具なども特に見当たりません。「なんだかほっとするな」というのが素直な感想でした。病院だと部屋も無機質でコロナのこともありちょっと緊張しますが、助産院での検査は助産師さんと僕らだけ。検査する場所も普通の布団の上。様々な電子機器はほとんど使わず、検査の後半は「テルミー」という細長いお灸?お香?のようなものを金属の棒状のケースに入れて身体を擦りながら温める療法をして終わり、でした。
付き添いの僕は布団の横にある座布団に座り壁にもたれて、テルミーを受けている妻を眺めながら、時々、妻と助産師の小林さんとの会話に加わる、という具合でした。この穏やかな感じに、なんだかいいんじゃないだろうかと思いながら、妻と「無事に出産までここでできるといいね」と話しました。
その後、何度か検診を重ね、関門であるお医者さんの許可も得て、後は予定日を待つのみ、となりました。お医者さんの「予定日より早いのではないか」という予測から勝手に「予想日」にしていた朝、バシッと的中して妻に陣痛がやってきました。痛がる妻にオロオロするしかない状況でしたが、小林さんの「慌てず、お昼ごはんを食べてきてください」の指示に従い、慣れないおにぎりを握って食べてもらっている間に妻が事前に用意してくれていた入院セットを出してきてバタバタと出発。人生で一番の安全運転で助産院に到着しました。
いつもの布団で診てもらうと、「まだ下りてきていないから出産は今夜ですね」ということで、痛がりながらも陣痛の間には冗談を言う余裕のある妻を介助して、まずは階段の上り下り。階段を降りるときに強めに足をつくのがいいということでドスンドスンしながら下りて、今度は温めるとよいということで入浴。入浴介助的なことをして、動いて温めて、布団に戻る。で、今度は立ったり座ったり。これを繰り返すことで子どもが下りてくるとのこと。妻の身体を支えて一緒に立ったり座ったりを繰り返します。その間に、陣痛の感覚はどんどんと短く、痛みもどんどん強くなっているようで妻の痛がる声も大きくなります。この間は助産師さんと腰などの痛いポイントをさするのですが、これがまた勘所がわからず、痛がる妻に手の場所を修正される始末…でしたが、立ったり座ったりの場面では身体を支える役目をいただいて何とか貢献。それらを無我夢中でやっているうちにだんだんと夜になり、応援の助産師さんが一人ずつお越しになって、夜には妻1人の周りを助産師さん三人と僕が取り囲むフォーメーションになりました。
クライマックスの準備が整ってきた空気の中で、だんだんと陣痛の感覚も短くなり、痛みに耐える声も大きくなってきました。痛いけれど寝ているよりも座っている方がよいということで僕は人間座椅子的に妻の後ろで支え、「今度は前」の助産師さんの指示を受けて前に回って体を支え、を繰り返している間に、いつの間にか時間は21時。僕は勝手な予想で21時に生まれると予言していたのですが、残念ながらハズレ。しかし、子宮口は全開ということで準備は整いました。ここからは陣痛と共に「力んで&休んで」の綱引き時間の開始。しばらく繰り返すもなかなか生まれず、どうやら、子宮口は開いているけど子宮膜が丈夫でなかなか破水しないことがわかり、助産師さんたちの相談の結果、少しだけ触って23時頃に破水。そこからは妻をひざ枕させてもらって、最後の「力んで&休んで」の綱引き。そして、ついに頭が半分くらい登場。妻はその頭を触らせてもらい、もうひと頑張りして、ついに誕生しました。時刻は23:30。なんとかその日のうちの出産で、かかった時間は10時間程度でした。最後、ひざ枕の妻の向こうに子どもが生まれてくるのを見て、出産を一緒に体験させてもらった気持ちでした。
その後、カンガルーケアをしたら、ビッグイベントの「へその緒の切断」です。助産師さんに事前に「へその緒は自分で切られますか?」と聞かれ、YESと答えていたのですが、人生に一度だけのことにちょっと緊張。ご指導いただき、真っ白なへその緒を持ち、止血してあるポイントからハサミで切りました。ホルモンのような感触。これでついにこの子も、この世で生きる人になったんだな、地上に降り立って生きていくんだな、と感慨深く。
その後は朝まで疲れ切って眠る妻の横で本当の意味で生まれたての子を抱っこし、泣いてはあやし、を繰り返してほぼ徹夜で朝を迎えました…。
生まれるまでの時間を一緒に過ごし、文字通り「生みの苦しみ」の中にある妻を支え、そして、へその緒の切断と生まれたての一晩を一緒に過ごしたことで、僕の「父親スイッチ」はしっかりと入りました。人間という生き物の強さと神秘を感じられる助産院のお産。父親が早期から父親としての自覚をもつための方法としても、多くの人の選択肢の一つになればと思います。
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