成長がなければ分配もできないと言うのは、安倍・菅政権の考え方であった。岸田政権は再分配を元にした成長戦略を考えると言うが、やはりある程度の成長がないと再分配も難しいだろう。従って、自民党政権は経済成長を必須とし、それを前提とした社会を想定している。ところで、成長率は短期的には各種の要素で左右されるが(例えば補助金や産業奨励策など)、長期的には潜在成長率(国の本当の実力)に依存する。日本の潜在成長率は持続的に低下して今や年率0.4%程度である。下図は1980年代から現在までの潜在成長率を示している。
日銀資料;1983年から2021年
成長率は、①労働投入の程度、②資本投入の寄与、及び③全要素生産性(TFP)の 3つに分解できる。①労働投入は就業者数に就業時間を乗じたもので表され、②資本投入は企業や政府が保有する設備(資本ストック)の量で表される。③全要素生産性は、労働や資本が GDP を生み出す生産効率を意味し、一般には技術革新(イノベーションという)を表すものとされる。
このような3つの要素が持続的に低下して、結果的に日本は低成長になっている。なぜ、3つの要素が持続的に低下しているのか?
経済産業省資料
図のように日本の潜在成長率は0.4%程度で、ドイツやアメリカには劣っている。生産性(TPF寄与度)や資本寄与度の面でも、アメリカ、ドイツに遅れているが、人口減少、労働者の減少とともに、平均年齢の上昇が労働寄与度の阻害要因になっていると考えられる。日本が直面している潜在成長率低下の最も大きな問題は、従って人口減少である。
人口の増減推移(2020年以降は出生中位予測) 人口問題研究所データから作成
上図は、1966年から100年間の人口の推移を、過去の実績と将来の予測(人口問題研究所による)を示している。近代で日本が初めて人口減少を経験したのは、2005年だ。2016年からは人口減少が加速し、2020年段階では45万人/年、2030年以降は、70万人~90万人/年の人口減少に加速する。この様な人口の減少は、国全体のGDPを毎年1%弱減少させる効果がある。それ以上に経済的には人口減少の結果としての高齢化に伴う、社会保障費用の増加、若者の減少による、一人あたりの負担増加、あるいは、リスク回避の気風が広がり経済構造の転換が難しいこと、などの弊害が見られる。
高齢化に伴うリスク回避は、日本に、「安心・安全」を第一に考える傾向を強めている。なぜ、日本がリスクを嫌うような社会になったかといえば、「それは日本人の性質だ」とは決して言えないだろう。最も大きな要素は、平均年齢の上昇である。老化によってリスクを取る気持ちが萎えていくことは一般的に理解できるだろう。
次の図は、WVS(World Values Survey Wave 6)による、国ごとのリスクに対する許容度を示したものである。
World Values Survey Wave 6 より筆者作成 ( )内は調査数
図の青色棒は、リスクを取る度合いで、日本が最も低く、ドイツ⇒中国⇒スウェーデン⇒アメリカ⇒ナイジェリア⇒インドの順に、リスクを取る度合いが高くなってくる。反対にオレンジ棒のリスク回避傾向はその反対だ。
要約すると、日本は潜在成長率が他の国と比べ低い。その原因は、人口減少、平均年齢の上昇に伴い、直接的な労働力不足とともに、安全・安心神話の蔓延によるリスクを取る姿勢の欠如である。この問題が解決できない限り、成長と分配はなし得ない。
上図は、主要国について、横軸に各国の平均年齢、縦軸にリスク取る割合を示したものである。図のように平均年齢とリスク許容度は反比例している。図の矢印は、グラフで示される予想位置よりも、さらにリスク許容度の低下した日本を表している。
低成長に対する問題解決は、過去30年間失敗に終わった。その反省から、国内のみでの(日本人だけでの)解決はもはや不可能と考えることが妥当である。なぜなら今後日本人の平均年齢はさらに上昇し、リスク許容度はさらに低くなる可能性が高いからである。ケインズの言う「アニマルスピリッツ」は低下し続けているのだ。
ここでの、唯一の解決方法は、外国人人材の大量投入である。生産年齢人口の毎年50万人から100万人の減少を考えると、高度技能者から現場労働者、そして、留学生に至るまで、外国人人材を年間50万人以上招聘する必要があるだろう。これらの人材は、単に労働力の補完以上に意味を持ち、日本の社会を変える原動力となる。年間50万人の外国人人材が加われば、20年後には現在の外国人人材約200万人に加えて、1200万人以上の外国人人材の導入となる。これは人口の10%となるだろう。しかし、この方法は、「何となく」「場当たり的」に行うべきではない。時間は限られているが、国民の間で積極的な移民の是非についての議論を行わなければならない。そして、将来20年間の精度設計を行う必要がある。もちろん、この先頭に立つのは政治家である。
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