外国人労働者と同じ社会を共有するために:特定技能2号に関する報道から

労働力不足を支えている外国人労働者

イギリスでは欧州連合(EU)離脱により、移民労働者の減少、新型コロナウイルス禍の影響もあり、労働者の不足による生活への影響がニュースとなっていた*1が、日本においても人口減少、少子高齢化に伴い、労働者不足の問題がメディアでクローズアップされることが増えている。日本の労働者不足は、高齢者の定年延長や女性の雇用増加を中心に、外国人労働者の受け入れでも対応してきた。在留外国人労働者数は経過的に増加しており、現在の在留外国人労働者数は約170万人である(厚生労働省、令和2年10月末)。*2

2021年11月中旬、大手メディアは一斉に外国人労働者の在留資格である「特定技能」について報道した*3。特定技能2号の新たな決定内容が公になったのである。これまでの外国人の受け入れを振り返りつつ、どのような意味があるのか、これから必要なことについて考えてみたい。

特定技能制度とは

特定技能制度は2019年より導入されている。人手不足が深刻な14分野において、一定の技能・専門性を持った外国人を労働力として受け入れる制度だ。5年間で最大約34万人を受け入れ、地方での雇用を促進する方針が示された。その取得要件や業種によって「1号」と「2号」に分類されている。

現在の要件・業種・在留条件一部抜粋*4

建設業、造船・舶用工業は一際人手不足が深刻であり、すでに「2号」が認められている。1号と2号の受け入れ条件に大きな差はないと言えるが、在留条件については、大きく異なっている。2号では①在留資格の更新申請を何度でも行うことができる(無期限の在留の保証ではなく、申請を行うことができる)、②家族(配偶者・子供)の帯同が認められる。さらに2号であれば一定の条件を満たせば永住権の申請を行うこともできる。

2021年11月の報道は、特定技能2号では、2業種から全業種に拡大することが公表されたというものであった。(介護は、すでに在留資格「介護」が創設されており、特定技能2号には含まれていない。特定技能2号の在留条件とほぼ同じである)14業種への拡大は、定住者が大幅に増加することを意味する。特定技能2号の在留資格を得るための試験は、2021年から開始される予定であったが、Covid-19のために開かれておらず、どのような試験になるのかは不明である。

技能実習制度の延長制度としての特定技能制度:習慣的対応の改善は可能か

日本の労働のための在留資格は、高度人材や技能実習生まで約20種類設けられている。外国人労働者の在留資格で多いものは、「身分に基づくもの」、約55万人(34%/172万人)、ついで技能実習が約40万人(23%)である。*5

技能実習制度は「技術移転を通じた国際貢献」という目的のもと運営されてきたが、実際は低賃金の労働者の受け入れとして機能しており、国際人権団体から過酷な条件による労働力の搾取との厳しい批判を受けてきた。*6

特定技能制度は、技能実習制度からみて、修正された点もある。賃金基準や、処遇は、日本人従業員と同等の賃金であること(同一労働同一賃金)、転職の自由があることなどが盛り込まれている。

しかし、特定技能制度は、技能実習の延長線上にある制度である。技能実習の修了によって特定技能の試験に合格しなくとも特定技能に移行できる(現在の特定技能1号者の90%は技能実習生からの移行*7)。また、実際に特定技能受入機関を支援する登録支援機関の登録は、既存の事業協同組合(技能実習生監理団体)や受入企業が大半*8 であり、これまでの受け入れ方法が踏襲される可能性が高い。特定技能制度は、技能実習制度で指摘された、労働者の人権への対応は改善することができるだろうか。

移住労働者の権利の保障、家族の帯同

移住労働者権利条約は、すべての移住労働者とその家族の権利について定めた国際条約である。この条約では、移住労働者が就労国において家族と生活することを「基本的な権利」として定めている。日本はこの条約に批准していないが、国連人種差別撤廃委員会は日本政府に対し批准を検討することを勧告してきた。

第44条 
1 締約国は、家族が、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有することを認め、移住労働者の家族の同居の保護を確実にするために適切な措置をとるものとする。
2 締約国は、移住労働者と、その配偶者、法律の適用上婚姻に等しい扱いを受ける関係にある者及び未成年で扶養を要する独身の子どもとの同居の再現を促進するために、その権限に属する適切な措置をとるものとする。
3 就業国は、その他の家族についても、人道的な見地から、本条2項で定めたものと等しい措置をとるよう、好意的に配慮するものとする。
※すべての移住労働者とその家族の権利保護に関する条約の抜粋 訳 江橋崇
(出典:難民・外国人労働者問題キリスト者連絡会編『移住労働者の権利を宣言する!-移住労働者の権利条約 条文・解説-』明石書店、1993年)

特定技能1号では、家族の帯同は認められなかったが、特定技能2号では認められた。しかし、家族帯同についての課題は多い。例えば、こどもの教育にフォーカスすると、小学校、中学校、高校と様々な年齢層が中途入学することが想定されるが、現在でも、就学・進学のための、日本語指導不足、高校受験の機会の不公正さ等様々な課題があげられている。家族帯同が大幅に増えた際、各地で公平に教育を受けることができるよう制度整備や支援が必要である。*9

同じ社会で生活するために

特定技能2号制度は、短期滞在労働者から定住の、日本社会で共に生活する人々を受け入れることを意味している。内容を見ると、人権保障の視点から、制度は整えられつつある。しかし、特定技能制度の仕組みをみると、これまでの技能実習制度の延長線にあり、習慣を変え、制度に沿って、実際の権利が守られるかはまだわからない。実効性について評価し、修正していくことが必要である。また、定住生活者の生活の支援も課題であり、早急に仕組みづくりを行う必要がある。2021年12月には武蔵野市の外国人の参加をめぐる住民投票条例のニュースも話題になった。誰もが生活しやすい社会とはどのような社会だろうか。在留外国人の課題から社会を構成するすべての人の生活のしやすさにも考えを馳せるべきである。


*1 イギリス、スーパーなどで欠品深刻 コロナ禍でトラック運転手10万人超不足、配送停滞 2021年9月5日 20時00分 https://www.tokyo-np.co.jp/article/129150 
*2 厚生労働省 外国人雇用状況の届出状況について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/gaikokujin-koyou/06.html
*3 外国人就労「無期限」に 熟練者対象、農業など全分野【イブニングスクープ】2021年11月17日 18:00 日本経済新聞  https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE019ZY0R00C21A9000000/
*4出入国在留管理庁 「特定技能」に係る試験の方針について(PDF)(令和2年4月1日施行)
https://www.moj.go.jp/isa/policies/ssw/nyuukokukanri01_00135.html
出入国在留管理庁 特定技能総合支援サイト
https://www.ssw.go.jp/about/ssw/
*5 厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_16279.html
*6米国務省 世界各国の人身売買に関する報告書(Trafficking in Persons Report, US DoS)2021
https://www.state.gov/reports/2021-trafficking-in-persons-report/
*7 出入国在留管理庁 令和2年3月末現在における特定技能在留外国人数について
https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/nyuukokukanri06_00115.html
*8 出入国在留管理庁 登録支援機関登録簿 2021年12月
https://www.moj.go.jp/isa/policies/ssw/nyuukokukanri07_00205.html
*9 外国人児童生徒等教育の現状と課題 令和3年5月 文部科学省総合教育政策局 国際教育課
https://www.mext.go.jp/content/20210526-mxt_kyokoku-000015284_03.pdf

参考文献
・日本弁護士連合会 新しい外国人労働者受入れ制度を確立し、外国にルーツを持つ人々と共生する社会を構築することを求める宣言
https://www.nichibenren.or.jp/document/civil_liberties/year/2018/2018_1.html
・永吉希久子『移民と日本社会』中公新書,2020年
・「外国人労働者をめぐる政策課題」指宿 2020 https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2020/special/pdf/042-048.pdf

ソシエタス総合研究所 主任研究員井上 登紀子
岡山県出身。社会福祉法人敬友会 高齢者住宅研究所にて主にサービス付き高齢者向け住宅・有料老人ホーム、在宅介護サービスに関する量的・質的調査を行う。全国のサービス付き高齢者向け住宅の評価事業(旧サ住協)、高齢者住宅居住者のケアマネージメントの調査事業(大阪府)を実施。2019年~公益財団法人橋本財団 ソシエタス総合研究所に勤務。
岡山県出身。社会福祉法人敬友会 高齢者住宅研究所にて主にサービス付き高齢者向け住宅・有料老人ホーム、在宅介護サービスに関する量的・質的調査を行う。全国のサービス付き高齢者向け住宅の評価事業(旧サ住協)、高齢者住宅居住者のケアマネージメントの調査事業(大阪府)を実施。2019年~公益財団法人橋本財団 ソシエタス総合研究所に勤務。
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