2022年2月5日、Financial Times(日経新聞に掲載)の記事によると、日本ではコロナによる「鎖国政策」が広まっているという。これについて世論の認識は乏しいし、むしろ無関心である。この記事は、現在日本政府が行っている「鎖国政策」は、日本の強靭さの証か、あるいは、脆弱さの証なのかについて問われるだろうという。
コロナ禍で外国人に対しての日本政府の政策は、ほぼ「鎖国」状態をこの2年間続けてる。今後も多少の変化はあるにしても、この傾向は続くだろう。この2年間で政府は、観光、就労、留学など外国人の新規入国を厳しく制限し、結果的に在留資格がありながら来日できていない外国人が、2021年10月1日時点で約37万人に上るという(日経新聞)。
日本政府は近年、外国からの旅行者を増やして、経済成長の起爆剤にしようと試み、また、労働人口減少に対する対策で、外国人を当てにして、さらには、日本で減少している優秀な技術者、研究者を招聘することにも熱心だった。しかし、一時期の外国人を歓迎するような政策が自国の都合により一気に変化して、その後一向に改善しないこの2年間の鎖国措置は、日本贔屓の諸外国の人たちに大きな失望をもたらしている。
しかし、視点を変えると、今回の鎖国状態は、日本がそれでも(外国人を締め出しても)やっていけるかどうかの実験をしていることと同じなのかもしれない。歴史的に外国人アレルギーが大きい日本で、著しい人口減少にもかかわらず、外国人なしでの社会が成立するかどうかの実験だ。実験内容は、人口減少の日本において、
①大量の外国人をほぼ移民として受け入れ、労働力減少を補うとともに、社会の多様性を増加させ、新しい社会を生み出すこと
②移民を制限して少数の労働者でDXを使い、一人あたりの生産性を高め、一方で、エッセンシャルワーカーに対して給与の大幅な上積みを実施し、労働力の移動を促すこと
どちらが良いかの実験である。もっと簡単に言えば、後者②がはたして可能かどうかの実験だ。
不足する労働力に対して、外国人労働者を招聘する方法は、評判の悪い「技能実習制度」から、少しマシとなった「特定技能」に移行した。現在では、介護を始め、造船、建設、農業、漁業、繊維、外食、運送など人々の生活を支えるいわゆるエッセンシャルワーカーの分野に、外国人労働者は大きな貢献をしている。かりに鎖国状態を続け、これら外国人労働者を排除しつつ膨大な労働力不足を補うためには、労働力の大幅なシフトを行い、事務的な職種からエッセンシャルワーカーへの大規模な移動を促す必要がある。その為には、これらエッセンシャルワーカーの賃金を大幅にあげないといけない。
この様な大幅な賃金シフトが起これば、就学、就職についても、大きく考えが変わるだろう。いわゆるSTEM(科学・技術・工学・数学分野の人材)以外の一般管理職は大幅に減少して、現場に密着した職種が増えるかも知れない。DX革命の時代では、期間が長いか短いかは別にして、人材の移動が起こることは必須である。「鎖国」状態は、否応なしに、この様なDX革命とともに、人材の大幅な移動を引き起こす可能性がある。しかし、そうでなく、今までの就業状態に変化がなければ、破滅的な状態になる可能性もある。
一方で、今回の「鎖国」状態が、コロナの収束によって再び以前の外国人労働者依存の状態に戻る保障はない。しかも、コロナの収束は明確に判断できる状態で終わることはなく、感染リスクを考えると、だらだらと長期間続く可能性がある。そして鎖国状態を打ち切っても外国からの労働者や技術者が以前のように日本での仕事を望んでくれる保障もない。そうなると、慢性的な人手不足によって多くのサービスが打ち切られ、不自由な思いをする人が増加する。今まで外国人労働者に依存していた、農業や漁業、小売業、流通業、小規模製造業などは立ち行かなくなるかも知れない。なし崩し的に、②の状態に陥るのだろうか。
日本国内のコロナ規制は徐々に緩和されるだろうが、その速度は多分ゆっくりしたものだろう。そして、「鎖国」状態を支持する世論は相変わらず高いだろう。必要な分野にも関わらず、「移民」に関する議論がタブー視されている現在の状態であれば、将来の日本がどの程度外国人に依存しなければならないのかについての議論も行われないのではないか。そうすると、日本の「鎖国」は、日本の強靭さ(DX革命や職業シフトを進めること)の証でなく、議論を避け、現状しか見ないような社会の脆弱さの証に繋がる可能性もある。実験結果は、①、②いずれも不可能、つまり、人口減少が進み、移民が受け入れられず、DX革命や社会の変革が行われないで、次第に日本社会が沈滞していく可能性もある。
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