潜入レポ!介護の現場から 第9話「身体拘束‐後編‐」

次の夜勤は2週間後の火曜日。


それにしても夜勤は本当に大変だ。少ない職員での緊張感と長い労働時間だけでも大変だが、特に眠れない等の理由でのコールにはほとほと疲れる。対処方法がはっきりしているものは良いが、対処のしようがないものは困るし、疲れる。これは大変なストレスになる。身体的な疲れは休息を取れば回復するが、精神的な疲れはどう回復させているのだろう。しかも積み重なっていく疲労だ。辞めてしまった吉田職員の話をもっと訊いていればよかったと、後悔している。


夜勤を体験したことでコールのことも改めて考えさせられた。援助時間中や援助と援助の間に、あまり時間がない時に鳴るコール音によって、計画通りに業務遂行ができないことは容易に想像できる。このことで援助が粗くなったり、援助を省いたりということが起きているのではないか。


山田様がおっしゃっていた食事中にトイレを規制すること、椅子ごと紐で括るというようなことも、これらの延長線上にあるのではないか。食事を時間通りに終わらせようとすれば、予定外の援助は受け入れたくないだろう。予定外のものはどうしたら減るのだろう…。

 

いずれにしても今回の夜勤では確認できなかったので、山田様にもう一度お聞きすることと、次回夜勤ではもう少し冷静に見ることにする。

仕事終わりに山田様のお部屋に伺い、夜勤をしたことを話した。
忙しくて食堂の様子は一部始終見られなかったこと、けれども椅子ごと括られている方が居るようには見えなかったことを話した。
すると「池田さんがそう言うなら、そうかしら?」と少々弱気だ。
「でも、ひもで括られているのが見えたから、辛くて怖くて眠れない夜があるのでしょう?」と訊ねると「そうね。確かに思い出すと眠れないわ」と答えた。

本当に食堂で見たのだろうか、あるいは他の施設での体験だろうか、という疑問のもと、「通りがかりに見た別のお部屋でのことかもしれませんね」と聞くと、しばらく考え込まれた。

 

2日後に再び山田様のお部屋に伺った。
すると「あれから考えたの。眠れないくらい辛く怖いものを見たのは間違いないの!でもここじゃない!私はここに来る前にもっと大きな施設に居たのよ。そこでは私たち入居者は人間ではなくて、まるで「物」だったわ。どんなに技術が未熟でも良いの。人として接してくれれば。年寄りは不要で「物」のような扱いをされて、私はこれまでの人生の全てを否定されて、生きている価値がないような気持ちになった。思い出すのも嫌で・・・」とそれ以上は、話して下さらなかった。

トラウマってやつだ。今ではそのようなことが起きていなくても、思い出して眠れないのだ。
この施設でのことではなくて、とりあえずは良かったものの、このトラウマ!何とかならないものだろうか。


山田様にとっての解決にはなっていないのだから。

 

 「潜入レポ!介護の現場から」全体像

*介護施設にパート職員として潜入した池田出水。そこで見聞きしたことから現場の問題を表現していく。職員の様子・入居者や家族の様子・ケアの状況・往診医や時には受診付き添いなどでの病院の様子などレポートは多岐にわたる。

*登場人物
介護の現場体験者:池田出水
施設責任者(施設長):渡辺
パートの先輩:大村
常勤ヘルパー(リーダー):若林

常勤職員
往診医
203号入居者
202号入居者:山田
202号入居者家族
虐待疑惑職員:吉田・・辞職してしまった
共感してくれる職員(もう一人のリーダー):増野

ペンネーム池田 出水
「これからの日本には介護サービス業界こそが必要!これぞ社会の根幹!」と考え、それを支えるべくこの業界に飛び込む。
昨今の介護サービスの現状を憂う大和撫子。
「これからの日本には介護サービス業界こそが必要!これぞ社会の根幹!」と考え、それを支えるべくこの業界に飛び込む。
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