緩和医療あるいは、緩和ケアは、1950年代にホスピス運動が開始されてから、ターミナルケア(終末期ケア)を中心に普及してきた。しかし、従来の緩和医療が、末期のガン患者を対象として、その痛みを取る治療を中心としたものであったのに対し、新しい緩和医療は、「すべての人」の「いろいろの疾患」に伴う、「生活に影響を与える症状」を取り除くことを目指すようになっている。特に死期が近い場合には、生活を脅かすような症状が頻発するので、緩和医療の役割がより大きくなるのだ。
従来からの緩和医療の対象である、ガンにともなう耐えがたい症状を呈する人や、その他の生活を脅かすような症状に苦しむ人たちの多くは高齢者である。従って、緩和医療の考えを拡大すると、高齢者医療にこそ、緩和医療の考えや技術が取り入れられなければならない。2011年、WHOのEU部会では、緩和医療と高齢者医療の親和性に注目し、高齢者医療に緩和医療の考え方や技術を取りいれるべきだと表明している。
元来、医療の原点は、生活を脅かす痛みをはじめとした、いろいろの症状を除くことにあった。しかし、最近では、高血圧、高脂血症、骨粗しょう症など、予防医療が次第に医療の大きな部分を占めてきている。しかし、医療の本来の役割である、そして、医療を受ける人に大きな便益をもたらす、「症状を取り除くための医療」の見直しを促すことも医療において必要なことである。
18世紀から発達した近代医学は、身体的な変化を来たす原因となる疾患を診断し、診断に基づいた治療を行うことを基本としてきた。従って、患者を悩ませる「症状」に対して、従来の医療は大きな関心を持っていなかった。しかし、これらの症状の多くは、高齢者が直面する問題と同じであり、高齢者を悩ませる症状の多くが、痛み、うつ状態、精神的混乱、便秘、不眠、移動の不自由さ、排尿や排便のコントロールが効かないことなどにあることは確かだ。
従って、高齢者医療を行う人たちは緩和医療の考えを取り入れ、症状を改善させる手段の使用に精通する必要がある。つまり、痛みに対する麻薬を始め鎮痛剤の使用に慣れること、薬の使い過ぎや副作用に注意すること、自宅での治療を行うことが出来るように、早期の退院や在宅医療の充実を図ること、認知症の高齢者に対する過剰な介入(経管栄養、検査、拘束、静脈栄養など)の欠点や、少なすぎる介入(痛みの緩和、脱水や栄養不良、心理的・社会的無視、精神的ケアの欠如、家族や介護者に対する援助)を学習し、理解しなければならない。
高齢者を襲う各種の症状、例えば、痛み、うつ状態、認知障害、転倒、食欲不振、便秘、嚥下障害、失禁などの症状を、その原因を見つけて取り除くことは、高齢者の生活に大きな福音をもたらす。高齢者は、生活を悩ます、上記のいろいろの症状に打ち負かされ、困難な状態では、人生が生きる価値がないものと考えてしまうからである。
高齢者を悩ます、いろいろの症状の解決には、医学的な診断と同時に、状態の観察から現象学的に考えることで、症状の発生を解くカギも見つかる。従って、直接に緩和医療を行うのは医療関係者であるが、医師のみで治療が出来るわけではなく、医師、看護師、介護福祉士、理学療法士、言語療法士、ソーシャルワーカー、家族、そして、最も大切なことは、「高齢者自身」が加わってこそ、困難な症状を取り除く緩和医療を行うことが出来るのである。
日本では、医療保険と、介護保険が整備されていて、在宅医療の好ましい環境が整っている。その環境に加えて、高齢者に対して、より適切な緩和医療を行うために、知識や能力を向上させることが出来れば、高齢者の悲惨な状態の「緩和」につながるとともに、高齢者施設でよく見られる、「価値を引き下げられた」状態の緩和に役立つし、施設への入居自体を少なくすることにも貢献する。高齢者単独世帯(一人暮らし)でも、緩和医療に基づく、適切な高齢者医療が提供されれば、不適切な、高齢者の住まいの「移動」(つまり施設への入居)を避け、自宅や高齢者住宅に住み続けることが出来るような環境を実現させる。相変わらず、「予防医療」や「急性期医療」の考えで治療を行うのではなく、高齢期には、むしろ、「緩和医療」の考えが主体になる必要がある。高齢期を苦しめるいろいろの症状を取り去ることによって、高齢で障害を抱えていても「人生は生きる価値がある」と考える希望が湧いてくるのである。
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