「景気刺激策」のため、過去30年間にわたり、日本政府は膨大な予算を浪費し、結果的に1000兆円の負債を抱えることになった。しかし日本経済は上向いていない。その理由の一つが「アニマル・スピリッツ」の問題だ。
ケインズの代表的著書である、「雇用・利子および貨幣の一般理論」には、次のような件がある。
「投機による不安定性のほかにも、人間性の特質にもとづく不安定性・・・おのずと湧きあがる楽観に左右されるという事実に起因する不安定がある。・・・その決意のおそらく大部分は、「アニマル・スピリッツ」と呼ばれる不活動よりは活動に駆り立てる人間本来の衝動の結果として行われる行動であって、数量化された利益に数量化された確率を掛けた加重平均の結果として行われるものではない。・・・企業活動が将来利益の正確な計算にもとづくものでないのは、南極探検の場合と大差ない。こうして、もし血気が衰え、人間本来の楽観が萎えしぼんで、数学的期待に頼るほか、われわれに途がないとしたら、企業活動は色あせ、やがて死滅してしまうだろう。」
要約すると、企業活動の本質は、利益の見込みやリスクの確率に基づくものでなく、人間本来の活動的な(南極探検と同じ様な)衝動の結果としてなされる、と述べているのだ。これを「アニマル・スピリッツ」と称している。
日本の問題は、まさに「企業活動は色あせ、やがて死滅してしまいつつある」ことだろう。血気が衰え、数値的期待値、すなわちリスクに怯え、「アニマル・スピリッツ」が失われているのだ。この傾向は、安心安全を第一とする世の中の風潮と「アニマル・スピリッツ」が相容れないことを示している。もともと日本に「アニマル・スピリッツ」がなかったわけではない。危険な航海をもろともせず、大陸へ渡った奈良・平安期の人たち、倭寇となって、中国や東南アジアで暴れた人たち、明治維新の大変革を成し遂げた人たちはいずれも大いなる「アニマル・スピリッツ」を持っていた。しかし、戦後の米国依存が続いたこと、そして人口減少、高齢化とともに、バブルの崩壊で元気をなくしたことが近年の日本人においての「アニマル・スピリッツ」の低下を招いたのだろう。
「アニマル・スピリッツ」の低下は、自然の現象のように止めるすべはないように思われるが、そうとばかりは限らない。国の制度・構造を変えることによって復活することは出来る。例えば、日本では起業する場合、銀行等の借り入れに対して個人保証をする習慣が残っているが、これを無くすことだ。金融機関はその分、貸し倒れが増えるが、金利を高くすることによって補填すべきであろう。あるいは、起業が増えて、貸し出し競争が起これば、金利はそれほど高くならないかもしれない。起業に失敗しても、資本金のみ失う有限責任ですむ方式であるならば、ゼロから立て直して再起することが出来るのだ。本来あるべき株式会社の特質である「有限責任」の利点を活かす制度が必要だ。また、新しくこれから伸びる分野については、既存の企業よりも、新規の企業を優遇する政策も必要だ。それも、補助金ではなく、既存の事業者が優位な競争環境を、新規の事業者が活躍できる環境にすることだ。その為には、既存の規制を見直す必要がある(既存の事業者は既存の規制で事業を運営している優位性がある)。このことは必ずしも「規制緩和」のみを意味するのでなく、「新しい規制」方法をも含む。
そして、教育では「自分自身」を開放しなければならない。自然に湧き上がる欲求を自分の内部に留めず、開放しなければならない。欲求の開放は、一時的に他者とのぶつかり合いを招くかもしれない。それは、特に幼少期に経験させる必要がある。欲求のぶつかり合いの結果としての、「自由の相互承認」を得なければならないのだ。
ケインズの言っているように、人間は「不活動よりは活動に駆り立てる人間本来の衝動の結果として行われる」事業欲がある。しかし、努力しても運がなければ失敗することはある。その場合、再チャレンジを行うことが出来る社会が大切だ。目先の経済対策でなく、日本の活力を活かすための方法を根本的に考えるべきだ。その為には、大きなものでも小さなものでも、事業に失敗するリスクを軽減するような仕組みを作らなければならない。
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