新型コロナウイルスによる自粛要請の影響で、飲食店や大型集客施設、フィットネスジム等での集客が困難になり、それに伴い、関連業種で収入や仕事が減って生活への影響が出ています。北長瀬コミュニティフリッジは、この状況下で、支援を必要とされる方が、時間や人目を気にせず、提供される食料品・日用品を24時間都合が良い時に取りに行ける仕組みとして2020年11月20日にスタートしました。それから約1年後の2021年11月15日時点で利用者は397世帯、それを支える個人フードプレゼンター(寄付者)は780名、企業・団体フードプレゼンター(寄付者)は75組織となっています。ご寄付いただいた食料品・日用品は開設した2020年11月20日~2021年9月末までに166,081点(金額換算33,861,252円)となりました。利用される生活困窮者の方に配慮しながら、「顔を合わせない助け合い」を実施している北長瀬コミュニティフリッジについて、あらためてその仕組みと、この1年間の運営で見えてきたことをお伝えします。
「一日食べれないとどれだけ辛いか。まるで自分のことのように思った。」
これはコミュニティフリッジの開設1周年記念式に参加くださった個人フードプレゼンターの方のお言葉です。ご自身の子どもの頃にご飯を食べれない日が続いた時の辛さを思い出し、「これは自分にも関わる問題だ」と思ったと言ってくださいました。またある方はテレビ放送された際に利用者が持っておられた野菜を見て、「新鮮なうちの野菜を食べてほしい」とフードプレゼンターになってくださいました。
北長瀬コミュニティフリッジでは僕たち運営者が食料を購入して提供をすることは基本的にはありません。「困った時はお互いさまだ」と行動くださる方々による寄付だけでこれまで1年間365日24時間の提供を続けてきています。
コミュニティフリッジには日々、80世帯前後の方が受取りに来られています。「子供にも我慢しないで食べさせてあげる事が出来て感謝しかありません」「夏野菜等、新鮮な季節の野菜の摂取量が増えて子供も喜んでます!」「みなさんが提供くださったもので生かされています」「事情により国からの支援で受けられない状況なのでとても助かります」「ひとり親ですが、ひとりではない!と毎日頑張れます」等の感謝のメッセージをコミュニティフリッジ内に設置したメッセージボードやアンケートでいただいています。ニーズが高いのはお米などの主食になるもの、働きながら料理しやすい冷凍食品やインスタント食品など。日用品では洗剤や歯磨き粉など、次いで文房具などの学用品です。
そうした声に応え、自社製品を提供くださる企業さん、提供される食料品を運んでくださる運送会社さん、入学式や受験を迎える利用世帯の子ども達の髪を切ってくれる美容師さん、学生さんと一緒に合同誕生日会に料理を作ってくれるカフェのオーナー、駄菓子を売って寄付してくれる高校生、学校や職場や檀家さんや地域で呼びかけて食料品を持ってきてくださる方たち。様々な関りがこの1年間で生まれています。
日本で初めてのコミュニティフリッジを開設したきっかけは、県内でフードドライブ活動を展開されるフード・シェアリング・ジャパンさんの海外視察のお話を伺ったことでした。ちょうど「場所を活かして、配るのではなく取りに来てもらう形で支援ができないか」と考えていたこととピッタリと一致し、その後、フード・シェアリング・ジャパンの成田さんにアドバイスをいただきながら、北長瀬エリアマネジメントでシェアスペースを運営しているブランチ岡山北長瀬の敷地内での開設をさせていただくことになりました。
いざ日本でこのコミュニティフリッジをはじめると考えた際に課題となったのは、海外のコミュニティフリッジの「誰でも食料品を入れることができ、誰でも取りに来ることができる」ということのリスクへの対応です。日本でこのままの方法で運営するとなると「悪意ある方が危険な食品などを入れたらどうするのか?」や「賞味期限をどう管理するのか?」「支援が必要でない方が持っていったらどうするのか?」「転売されるようになるのでは」などの多くの人が考えるであろう懸念があります。これらの懸念点が解決できなければ寄付の募集も難しいと考え、スマートフォンのアプリで空ける電子ロックの設置や、オンラインデータベースへの寄付品の登録とセルフレジの要領による持ち帰り品の登録(出庫管理)のシステムを組みました。また、利用者の方には児童扶養手当や就学援助の受給資格やそれに相当する状況の確認をさせていただいてから登録するようにし、必要な人に安全にお渡しできるようにしました。また、フードプレゼンターの方にも登録をいただくことでお互いに安心できるようにしています。
ありがたいことに、この岡山式のコミュニティフリッジの仕組みを2021年のグッドデザイン賞ベスト100に選んでいただきました。特徴である顔を合わせずに運用できる仕組みを評価いただいているのですが、コミュニティフリッジの利用者には「困窮であると知られたくない」「負荷なく利用したい」との声が多く、このシステムと設置している場所をショッピングモールの24時間営業の駐車場の端にしたことで、顔を合わせずいつでも利用できるようになっています。あわせて支援を受けるのに夜も働いているので時間があわない、という声にも24時間取りに行けることで対応していますし、好きなものを選んで持って帰る方式なので「せっかくいただいたけど、うちでは使わない」というミスマッチも防げています。
一方でこの直接、顔を合わせない支援の方式はフードプレゼンターの方からも「利用者に気を使わせたくない」「少ししか寄付していないので顔を合わせると申し訳ない気持ちになる」「顔を合わせることで遠慮してほしくない」の声に応える事が出来ており、この匿名性を守った上で感謝の気持ちや応援する気持ちはメッセージボードやネットアンケートでやりとりする仕組みが、現代的な助け合いとして受け入れてもらっていることを感じます。
また、個人の家に留まっていたお中元やお歳暮でいただいた調味料や加工品、タオル・洗剤などや、企業のフードロスや備蓄など、止まっていた資源を再び社会に戻して流通させる、「社会の資源の再調整や再配分をする機能」もコミュニティフリッジが担いはじめているのではないかと思います。一番の理想は生活に困る人がいなくなることですが、それとあわせて、もっとコミュニティフリッジを知ってくださる人が増えて、もっと気軽に、半年に1回でも、年1回でもいいので家で留まっているもの、余っているものを寄付していただく。今、ちょっと景気いいなとか、いいことあったな、という時に寄付をいただく。そうしたそれぞれがもつ「ちょっとした余裕」を集めることで困った時には支えてもらえれる「困った時はお互いさま」の社会になることを、目指していきたいと思います。
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