ペスト(黒死病)は、人間の往来が発生すると同時に、世界に広まっていった。特に有名なのは、1350年の地中海沿岸から広まり、翌年にはヨーロッパ全土に蔓延し、経済を衰退させたものである。ペスト(黒死病)による人口の減少は25%から40%に及んだと言われる。しかし、その反面で、現在のヨーロッパの繁栄をもたらしたものは、意外にも、このペストである。その理由は、ペストによって、大幅な人口減少が起こったために、それまでの格差が縮小したこと。つまり、人手不足により、労働者の賃金が上昇、地代が低下、金利の低下が起こり、統治者、資本家の抵抗にも関わらず、労働者の大幅な生活環境の上昇をもたらしたのである。統治者は賃金をペスト前の水準に抑えようとしたが、失敗し、負けを認めるはめになった。賃金を相場どおり引き上げないと、だれも雇われることを嫌ったのだ。結果的に、生活水準が一時的に向上したおかげで、肉の需要などが押し上げられた。14世紀初め(ペスト以前)の所得と物価の内訳によれば、平均的な市民の1日の消費量は1154カロリーと控えめだったが、 15世紀半ばには1930カロリーが摂取されるようになっていた。労働環境は改善され、栄養も大幅に改善した。その繁栄が、その後の15世紀大航海時代につながったのだ。
ウォルター・シャイデルによると、格差を縮める4つの要素は、次のようなものである。①戦争 ②革命 ③国家の崩壊 ④疫病 である。いずれも人口の減少を引き起こし、悲惨な苦しみを伴うが、格差については確実な減少が見られる。いずれも支配者層の没落と人口減少が、労働者の大幅な地位向上をもたらしたとすれば、現在の日本での人口減少に伴う大幅な人手不足は、なぜ賃金の上昇をもたらし、労働者の生活を向上させないのだろうか。現代では15世紀と比較すると、支配者層が好む給与の抑制は、市場への適切な規制と累進税制によって防ぐことが出来る。日本での1995年を頂点としての、いわゆる生産年齢人口の急速な減少は、労働者の賃金を引き上げ、格差を解消することを促すことになる可能性があったのだ。
日本の生産年齢人口を見てみよう。
日本の労働人口(生産年齢人口)は、1995年をピークにして、減少している。それも、年間数十万人の単位である。このような減少にも関わらず、賃金は上昇していない。
このグラフによると、労働人口がピークだった1995年に、同じ様に賃金もピークとなっている。つまり、人口増加とともに賃金も増加している。その後労働人口が減少するに従って、賃金も上がるどころか、低下する奇妙な現象を呈している。
ペストの時代は、統治者が現在よりも遥かに力を持っていた。それでも、統治者が賃金を規制しようとしたが、市場原理に負けて、大幅な賃金上昇を容認せざるを得なかったようだ。翻って日本の現状は、政府がむしろ市場に対して賃金を引き上げるように促すという、逆転した現象が起こっている。この理由は、労働者が声を上げないのか、あるいは、何らかの抑圧機構があるのだろうか?この不思議な現象をよく見る必要がある。
(注1)外国人労働者の増加は賃金を引き上げない一つの要因ではあるが、その数は、生産年齢人口の低下に比べ著しく少ない。
(注2)生産年齢が減少している時期、女性と高齢者の労働参加が著しかった。結果的に世帯あたりの所得は増加しているが、多くの女性、高齢者がいわゆる非正規雇用なので、賃金増加率はさほど高くない。
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