新型コロナウィルスが世の中に猛威を振るうようになってからそろそろ2年近くが経とうとしている。思い起こせば昨年の正月、中国武漢で何か新しい疫病が発生したようだとのニュースを見ても、冬場を迎えるこの時期では今やインフルエンザワクチンも季語の様になり、医療体制も充実している日本では、多くの人がエボラ熱やデング熱などと同様遠い彼の地の出来事とみていたはずである。そして横浜港に停泊するクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗員乗客約3,700名のうち700名を超える関係者が新型コロナウィルスに感染する事態となり、連日テレビニュース等でその様子が報道されていた中でも、多くの日本人は「安全な国 日本」は大丈夫と信じていたはずである。しかし、残念ながらその思いは無残にも打ち砕かれ、その後は皆さんもご存知のとおり、あっという間にその猛威は世界中に広まり日本も例外ではなくなった。以来2年近く私たちは様々な制約を受けながら日々の生活を何とか送ってきたのが現実である。最近のワクチン接種の進展や私たちみんなの我慢の成果もあり少しずつ改善の効果はみられ、早く以前の日常が戻ってくることを期待しつつも、予断を許さないのが今の偽らざる心境であろう。
一方、新型コロナウィルスにより新たな働き方が広まり、とりわけWeb会議などITを活用した便利ツールが普及したことで通勤しなくても良いという企業が増えた。その結果、人の移動の減少とともに鉄道やバス、タクシー等公共交通機関の利用が大幅に減り、路線の見直しや減便等が進んでいる。当然のことながら公共交通機関と言えども企業は効率を追求し、利益を上げなければいけない訳だから、それは至極当然のことであり、そう言った取り組みはコロナ前から全国の多くの地域で進められてきた。ところがこれに割を食っている人たちがいる。高齢者である。
皆さんもご存知のとおり、日本の高齢者人口(65歳以上)は29.1%(2021年総務省人口推計)で2位のイタリア23.6%(国連統計)をダントツで引き離す世界一の高齢化社会であり、今後もこの傾向は続くはずである。コロナ前にはこういった日本の現実を踏まえ、多くの高齢者が交通弱者にならないよう、希望に応じて乗合バスや自家用車輸送を行う新たな移動手段としてのオンデマンド交通サービスが、地方を中心に500を超える自治体、NPO法人などで積極的に運営されていた(平成30年国土交通省資料より)。ただ、この運営の多くは所謂過疎が進む地方において、公共交通が需要減少から撤退し、その穴埋めとしての輸送確保手段である。
ところが、今回の新型コロナの公共交通への影響は地方というよりも、むしろ都市部における特に高齢者への影響を露わにしたのではないだろうか。若者世代は公共交通以外にもカーシェアやシェアサイクル、相乗りなど多くの選択肢があり、SNSやネット等スマホを駆使しながら移動もコミュニケーションも何とかこなしている。ところが、都市部における高齢者の移動については引き続き感染を恐れて公共交通機関の利用は控える行動様式は変わらず、もっぱら自宅近所の移動のみと言うことになりかねない。そうすると必然的にこのコロナ禍で制限されていた外部とのコミュニケーションや運動と言った知的肉体的活性化は更に難しい環境になっていかざるを得ない。人生100年時代を迎え、高齢者が如何に元気で過ごせるかはこれからの日本や世界の大きな課題であるにも関わらず、である。
その一つの答えとして、これまでは地方、特に過疎における問題と捉えられてきた移動手段の問題をこのコロナ禍をきっかけに、住民が高齢化したかつてのニュータウンなどを抱える都市部の問題と捉えてみるのも重要ではないだろうか。
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