日本人の将来不安が強くなっている。特に、社会保障制度について将来も維持できるかどうか、疑問に思っている人が増えている。高齢化と少子化のために、社会保障制度(年金、医療、介護など)は、年々必要となる費用が増加し(2010年から2021年まで、年平均2.2兆円の増加)、将来維持するためには、社会保障給付を減らすか、保険料を増やすか、あるいは、さらなる赤字国債の発行を行うかが迫られている。2020年度には、社会保障給付は、126.8兆円が見込まれる。図1は1950年から現在までの社会保障給付費の推移である。
図1
財務省資料
図2は、「有名な」そして評判の悪い、「わにのくち」になぞらえた、財政の模式図だ。
図2
財務省資料
わにの下顎は、税収を表し、上顎が歳出を表している。歳入である税の内容の大まかな項目は、消費税20兆円、所得税19兆円、法人税11兆円である(現在では最大の税収は消費税であることに注意!)。税収が低迷し、歳出が増加すると、財政赤字が広がり、わにのくちが次第に開いてくる。上顎の大きな項目は社会保障費の増加、そして、問題が起こるたびに出現する財政出動だ。
この壊滅的状態を打破する唯一の手段は、成長率を引き上げることだということは分かっている。歴代の政権はそれなりに苦労し、成長率を引き上げるべき努力している。しかし、成功していない。むしろ実際の成長率の基礎となる「潜在成長率」は、0.5%を下回っている状態だ。
図3
経済産業省資料
「潜在成長率」とは日本の実力だと言ってもよいが(図3)、日本、アメリカ、ドイツと比べて、1980年代から2010年代の推移では、左側日本の低下度合いが際立っている。特に潜在成長率に占める労働寄与度が大幅なマイナスになっているのが目を引く。労働寄与度とは、労働者の勤務時間と人数から表される労働時間総数だ。日本の生産年齢人口は毎年50万人~100万人減少している。女性や高齢者の労働参加を促し、このギャップを少しでも取り除こうとしているが、大幅な人口減の前には無力である。さらに「潜在成長率」のうち、生産性(TFP)と資本の投入(資本寄与度)の低下も同じ様に、人口減少に影響されていると考えられる。これらは単に人口数自体の減少でなく、人口減少によって日本の平均年齢が上昇した結果、リスクを取らない社会になったことが原因だ。リスクを取らないとは、投資をしない、新しいチャレンジをしないことなどである。
このままでは、日本の社会保障制度は立ち行かない。成長率を増加させる試みは、もはや今までの延長線上では不可能なのである。規制緩和、新領域に対する補助金、税制優遇などの成長戦略は、過去20年間に行われた結果、効果が見られないことが明らかになっている。そこで必要なことは、「移民(※)政策」の実行である。いまでも、毎年20万人から30万人が一時的労働者として、日本に流入している。しかし、「移民政策」なしの一時的労働者の増加は、なし崩し的に、政府の統制なしでの大量外国人流入の危険がある。
「移民」とは必ずしも永住する人たちだけを意味するのではない。一定の期間日本で働き、再び帰国する人も含む。問題は、日本での生活にある。非常に短い時間、例えば3年間のみの限定した労働や、家族の帯同を許されない日本での生活は、非常に苦しいものであり理不尽である。家族の帯同や長期間の日本での滞在を保証すること、それによって日本社会に馴染むことなどが今後の円滑な「移民」の流入を促すだろう。もちろん、その為には、秩序だった「移民」の導入を目指す「移民政策」が必要だ。「移民政策」は社会のありかたを変更することも含む。
日本の成長率を少しでも引き上げ、社会保障を円滑に実行するためには、「移民」をはじめとする、実際の労働者の増加とともに、リスク回避、あるいは社会の変化を嫌うことなどを改めなければならない。これらが不足するのは日本人の本来の気質のためではなく、高齢化、平均年齢の上昇が原因だと思われる。従って、労働者、技術者、研究者、文化人や留学生を含む幅広い外国人の日本移住を促進することによって日本人気質の変化を促さねばならない。そのためには、日本でのナショナリズム的考えを排除し、広く世界と交流するような社会規範を作る必要がある。
※移民;国際的に合意された「移民」の定義はまだ無い。最も引用されている定義は、国際連合(UN)の国連統計委員会への国連事務総長報告書(1997年)に記載されているもので、「通常の居住地以外の国に移動し、少なくとも12か月間当該国に居住する人のこと(長期の移民)」を言う。この定義によると長期留学生、仕事での長期赴任者、長期旅行者も「移民」である。(ウィキペディア)
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