コロナ危機下のコミュニティ・スクールは機能しているか?

コミュニティ・スクール(CS)とは

あまりなじみのない方もいらっしゃると思いますが、コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度、以下CS)という制度があります(図)。これは、保護者、地域住民、有識者、校長らが学校運営について協議したり、学校や教育委員会に意見を述べたりする場です。

「スクール」と表記しているので、なにか新しい学校ができるのかと思われた方もいるかもしれませんが、そうではなく、既存の公立学校にCSという協議の場、仕組みができるというものです。わたしは、企業経営で言う社外取締役制度に近いと感じています。現在約1万校(全公立学校の約27%)で設置されています。

文科省はこれを全公立学校に広げたい考えです(第三期教育振興基本計画)。法令上は努力義務になっていますが、現在文科省の有識者会議でも今後のCSのあり方等について議論が続いています。

しかし、それほどCSはいいものなのでしょうか。また、設置済のところは、本当にうまく機能しているのでしょうか。学校・地域によってさまざまだとは思いますが、今日はこうしたテーマについて考えます。

 

設置校の校長は高評価

三菱UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社が受託した文科省「学校と地域の新たな協働体制の構築のための実証研究」では、昨年度、アンケート調査を実施しています。CS設置校の校長への調査では、「学校運営協議会の活動は学校経営に有益な成果を及ぼしている」について「あてはまる」、「まああてはまる」が合わせて約9割でした(グラフ参照)。ほかの調査項目も含めて、校長の手ごたえとしてはおおむね悪くないようです。ただし、教職員の任用については協議していないCSも多い模様です。

出所)三菱UFJ リサーチ&コンサルティング「学校と地域の新たな協働体制の構築のための実証研究実施報告書」
※元データは https://manabi-mirai.mext.go.jp/upload/houkokusyo2ufj.pdf

コロナ危機下で機能しているか?

こうした点はグッドニュースだとは思いますが、一方で、いくつか疑問も浮かびます。

第一に、この手の調査で、何かの取り組みを実施しているのに「あまりあてはまらない」、「あてはまらない」と回答するのは、かなり勇気がいることです。多少なりともCSで協議などしていていれば、肯定的に回答しやすい傾向があるかもしれません。
第二に、「~について意見を述べる機会がある」、「~について共有している」などと外形的に実施していることをつかんだところで、問われるべきは質なり中身です。
第三に、この設問の最後の項目でコロナ禍での学校の対応についてCSが円滑化・負担軽減につながったかを尋ねていますが、肯定的な回答は約1/4にとどまります。

しかも、CSでの会議の頻度は年間5回未満が多数派です(小学校の69.8%、中学校の75.2%、高校の97.0%、特別支援学校の100%)。一概に会議回数が多ければよい話ではありませんし、教職員や委員の負担も考慮する必要はありますが、年間2~3回でどこまで議論を深めることができるでしょうか。

十把一絡げに論じられるものではありませんが、かなりの数のCSが、このコロナ危機下であまり機能していない可能性があるのではないかと、わたしは推測しています。実際、CSや地域との協働事業では、地域の側は高齢の方も多く、コロナで重症化するリスクが高い層であるため、参集することが難しく、CSは事実上休眠状態という学校もあります。わたしの関わっているあるCSはWeb会議(Zoom)で昨年度も協議を継続しましたが、そういう例ばかりではおそらくないでしょう。資料配付のみで済ませたところもあるようです。

コロナ禍で、授業やカリキュラムのあり方、また保護者・地域とのコミュニケーションの取り方など、校長としては悩ましい課題、問題は山積みです。校長や教頭のなかには、これまでの学校運営や教育実践で豊かな経験知がある方も多いでしょうが、それだけでは通用しない局面も増えています。

こういう局面ほど、本来はCSのような制度、仕組みを活用して、さまざまなアイデアや視点を学校運営等に採り入れるべきではないでしょうか。たとえば、昨年度を振り返ると、休校中の子どもの様子はどうだったか、授業や心のケアではどのようなことに留意すべきか、ステイホームと言われながらも家庭がつらい子はどうするかなど、CSなどで知恵を出し合ったほうがよかったことは多かったと思います。

「教育委員会に言われたからとりあえずCSを設置した、会議を設定した」といった学校では、形骸化するのは眼に見えています。「これからの子どもたちには主体性やリーダーシップが大事だ」などと言いながら、校長や教職員、CS委員ら大人にそうした力があったのか、発揮できているのか、振り返る必要があると思います。

教育研究家、合同会社ライフ&ワーク代表妹尾 昌俊
徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年から独立。
全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。
中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。
ヤフーニュースオーサー、教育新聞特任解説委員。
主な著書に『教師崩壊』、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法―卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』、『変わる学校、変わらない学校』など多数。5人の子育て中。
徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年から独立。
全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。
中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。
ヤフーニュースオーサー、教育新聞特任解説委員。
主な著書に『教師崩壊』、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法―卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』、『変わる学校、変わらない学校』など多数。5人の子育て中。
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