コロナ禍で重要となる文章力。「伝える」ということ。

コロナ禍では対面で話す機会が減少し、画面越しでの会話やメールなどの文章で「伝える」機会が増えたが、適切に伝わっているのだろうか。対面であれば、雰囲気や動作で行間を埋めることができるが、画面越しの会話では限界があるのも事実である。一方、文章だが、メールだけでなく、提案書や企画書でも、読解が困難な、誤解を招きかねない文章を目にすることは多い。小説家のような魅力的な文章は必要ないが、失礼のない、誰もが同じように理解できる文章は少なくなっている。SNSが普及し、短い文章や略語、絵文字などでのコミュニケーションが増え、「文章としての日本語」を書いたり、読んだりする機会が減少したこと、そしてビジネスでもパワーポイントなどでビジュアル的に美しく表現することが期待されたことが大きな原因であろう。個人間や仲間内でのSNS等でのやり取りはともかく、ビジネスとしてはゆゆしき状況である。

このような状況を招いたのは、コロナ禍とは関係なく、書き手が「伝える」ことを意識していないことが原因と考える。単に文章を「書く」、資料を「作る」ことが目的となり、相手に「伝える」ことが本当の目的であることを忘れてしまうのだろう。例えば、期日までに文字数を埋めることが目的となり、文脈を意識することなく、だらだらと文字稼ぎのような文章が付け足されたものを目にすることがある。書き手は順番がバラバラであろうが書いてある内容は理解できるが、読み手は文章の最初から順番に読むため、理解することは難しい。PCを利用して文章を作成する今の時代であれば、数分で対処できるものの、文字数を埋めたことに満足し、「伝える」ということを忘れてしまうのだろう。

また、英語であれば、文法を意識するが、なぜか日本語では基本的な文法さえも意識されないことが多い。例えば、「理由は~」で書きはじめれば、語尾は「~から」「~ため」となる。また、問題点と課題が混乱した文章も多い。「問題点は~」ではじめれば、語尾は「~ができない」「~がない」など否定的な表現となり、「課題は~」ではじめれば、語尾は「~する」など前向きな表現となるはずである。しかし、課題を述べる文章でも、「~ができない」などの語尾の文章は多く、非常にわかりにくい。さらに、「です」「ます」と「だ」「である」の語尾が混在する文章も多い。なお、誤字脱字は問題外である。

メールやワードなどの文章でなく、パワーポイントの資料となると、さらに悲しい現実が待っている。ただし、美しく素敵な資料も多く、その要した時間を考えると、さらに悲しくなる。如何に美しい図や表を利用して表現された資料でも、説明する文章が理解できなければ、「伝える」という目的は達成できない。美しいビジュアルの資料で、完璧なプレゼンでその場では感動を与えたとしても、後日、酷い文章の資料を読み返された時には、その感動は失われてしまう。商談であれば、見送られることもあるかもしれない。

有名な事例だが、Amazon社の会議ではパワーポイントの利用が禁止されている。理由は2つあり、資料作成に無駄な時間をかけないため、そして図で表現される資料は読み手によって受け取り方が異なる可能性があるからである。「伝える」ことが目的であれば、ビジュアル的に美しい資料は必要なく、正確に「伝える」ことだけが求められるのである。

私は2冊の書籍を出版し、5年以上の長期連載を含めて様々な媒体で文章を発表し、年10回程度は公開セミナーではじめて会う方々にパワーポイントを使い講演を行っている。その際、文章を「書く」、資料を「作る」ことと「伝える」ことはまったく別の作業とわきまえ、自分自身が読者や聴講者の一人として、レビューには時間をかけている。

対面で会う機会が減った今、文章は重要となる。そのため、酷い文章であれば、実際に対面で会う以前にあまり良くない評価をされる可能性がある。ウィズコロナ、アフターコロナの時代には、文章は自分自身を写す鏡であり、プロモーションツールでもあることを認識すべきである。ちょっとした「伝える」相手への気遣いだけで、誰もが美しい文章を書くことができるはずである。

富士通株式会社 第三ファイナンス事業本部 シニアマネージャー安留 義孝
1968年、横須賀市生まれ。明治大学商学部卒。
メガバンク系シンクタンクを経て、2001年、富士通(株)入社。現在、世界の金融、小売の調査研究、および決済領域を中心にコンサルティング業務に従事。 「月刊消費者信用」の長期連載に加え、「月刊金融ジャーナル」などへの寄稿多数。
代表著書は「キャッシュレス進化論」(きんざい)、「テレワークでも成果を上げる仕事術」(マイナビ出版)。渡航国は現在45ヶ国。
1968年、横須賀市生まれ。明治大学商学部卒。
メガバンク系シンクタンクを経て、2001年、富士通(株)入社。現在、世界の金融、小売の調査研究、および決済領域を中心にコンサルティング業務に従事。 「月刊消費者信用」の長期連載に加え、「月刊金融ジャーナル」などへの寄稿多数。
代表著書は「キャッシュレス進化論」(きんざい)、「テレワークでも成果を上げる仕事術」(マイナビ出版)。渡航国は現在45ヶ国。
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