潜入レポ!介護の現場から 第8話「身体拘束‐中編‐」

今日は夜勤の初日である。17時から翌朝8時までの勤務だ。
若林リーダーが指導してくれるので、山田様は認知症で何もわからない人ではないことを話してみようか。いろいろな不安や怖い思いが、コールの原因であると話してみようかとも思ったけど、ここは焦らず、まずは食堂の観察に集中しよう。


夜の様子は昼間と一変した。昼間も大変だが夕食、就寝と介助が必要な方が大勢いらっしゃる。時間との戦いで気持ちに余裕がない。もちろん、体力も相当に必要だ。なんだかナースコールの音も大きく聞こえる。

食事援助は、昼前から時間差で出勤してきた「遅番」と呼ばれる2人と、もう一人の夜勤者がやっていた。若林リーダーは就寝援助や排泄援助、薬の配布に追われていて、時折食堂に行く程度だった。夜勤は2人でやり、今日は若林リーダーに完全密着で動く。

食堂の様子をあまり観察できないまま、気がつけば22時となってしまった。消灯後もあちこちでコール音が鳴っているが対応が出来ない程ではなく、22時には急に静かになったようだ。夜勤前に少し食事を済ませていたものの突然空腹を感じた。若林リーダーが、私にも作ってくれたお弁当をいただき、少し休憩をした。


夜勤を甘く見ていた。何と大変なことか!緊張の連続でしかも重労働!少々の手当てでは割に合わない。辞めてしまった吉田職員の気持ちも分かるような気がした。切れ間のない援助をしている時にコール音が鳴ると、時間がかからない要望なら良いのに!と思ってしまう。とにかく夢中で動き回り、気になっていた食堂の様子がよく分からなかった。それでも椅子ごと身体を括られている方がいるようには見えなかった。明日の朝は7時から早番が食事介助などをしてくれるらしい。朝は若林リーダーが食堂の主担当なので気合いを入れ直す。

 

休憩時間が終わり、もう一人の夜勤者が休憩に入った。この時間にコールをしてくる方は「眠れない」「お腹がすいた」「トイレに行きたい」など様々だが、中には「押してないけど」「なんだっけ?」「ちょっと傍にいて」などと言う方もいらっしゃる。山田様からのコールは無かったが、山田様以外にもいろいろな困りごとを抱えている方がおられることが分かる。

 

夜勤者の仕事には記録類の整理やヘルパーステーションの片づけ、時間ごとの見回りなどもあり深夜であっても結構忙しい。4時くらいには起きている方がいらっしゃるので慌ただしくなり、8時まではあっという間に過ぎた。やはり椅子ごと括られている方がいるようには見えない。排泄の介助をしていると、間に合わずに失禁している方が多いが、それでもトイレに行こうとしている方を制止している様子はない。

見落としているのか、山田様の勘違いか。昼間の勤務後に山田様に詳しく聞いてみよう。

それにしても夜勤は奥が深い。もう少し慣れたら見えてくることがもっとあるかもしれない。


 「潜入レポ!介護の現場から」全体像

*介護施設にパート職員として潜入した池田出水。そこで見聞きしたことから現場の問題を表現していく。職員の様子・入居者や家族の様子・ケアの状況・往診医や時には受診付き添いなどでの病院の様子などレポートは多岐にわたる。

*登場人物
介護の現場体験者:池田出水
施設責任者(施設長):渡辺
パートの先輩:大村
常勤ヘルパー(リーダー):若林

常勤職員
往診医
203号入居者
202号入居者:山田
202号入居者家族
虐待疑惑職員:吉田
共感してくれる職員(もう一人のリーダー):増野

ペンネーム池田 出水
「これからの日本には介護サービス業界こそが必要!これぞ社会の根幹!」と考え、それを支えるべくこの業界に飛び込む。
昨今の介護サービスの現状を憂う大和撫子。
「これからの日本には介護サービス業界こそが必要!これぞ社会の根幹!」と考え、それを支えるべくこの業界に飛び込む。
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