SDGs達成には「金融サービス」は不可欠

コロナ禍をきっかけに、SDGs(持続可能な開発目標)がTVや新聞でも取上げられる機会が増え、我々にとって身近な言葉となりつつある。しかしながら、貧困、飢餓、ジェンダー平等、環境保護など17の目標は周知されつつあるが、目標に紐づく169のターゲットを知る機会は少ない。一読すれば気付くが、169のターゲットには目標では一切触れられていない「金融サービス」という言葉が6ヵ所に登場する。さらに「金融サービス」の1つである「送金」を加えると、目標1「貧困をなくそう」、目標2「飢餓をゼロに」、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標8「働きがいも経済成長も」、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標10「人や国の不平等をなくそう」という6つの目標に「金融サービス」に関連するターゲットが含まれている。つまり、2030年にSDGsを達成するためには、「金融サービス」は不可欠であり、隠されたキーワードである。

「金融サービス」が関連するターゲット

実際、世界各国の15才以上の銀行口座等保有率を見ると、50%に満たない国は多い。我々にとって身近な東南アジア諸国でも、インドネシア48.8%、フィリピン34.5%、ベトナム30.1%、ミャンマー25.9%、カンボジア21.6%と非常に低い数値である。(2017、世界銀行。以下同様)また、南米やアフリカ諸国も同様の国は多く、途上国にとっては「金融サービス」は身近な存在ではなく、「金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)」の実現にはまだまだ時間を要する。

日本でも、2019年の大規模なポイント還元キャンペーンをきっかけに、若い世代を中心に○○ペイなどのスマホアプリによる「金融サービス」が認知されたが、途上国では、日本での普及以前から、銀行口座ではなく、異業種が提供するスマホアプリが、一般消費者の「金融サービス」を担っている。例えば、インドネシアではライドシェア(バイク便)のGrab、GoJekが提供するOVO、Go Pay、フィリピンでは通信会社の提要するG Cash、カンボジアでは通信会社のWing、ネパールでは国際送金会社が提供するIME Payなどが、日常生活には欠かせない存在となっている。

今後、日本の一部の銀行では口座維持手数料や通帳発行手数料が徴収されることが予定されているが、これらの手数料は海外では当たり前のものである。途上国ではこれらの手数料を払う余裕はなく、銀行口座を保有できなかったが、無料で利用できるスマホアプリの登場により、一般消費者も、「金融サービス」を利用できるようになっている。そして、スマホアプリによる「金融サービス」の普及とともに、途上国の生活は一変した。たとえば、日本では電気代、水道代等の料金支払いは銀行口座での自動引落しが一般的だが、途上国では、毎月、それぞれの事務所や料金徴収代行業者を直接訪問して現金で支払う必要があった。それを、スマホアプリで支払うことで、移動のための時間、体力、そしてコストを削減できているのである。


現在、日本は、銀行口座維持手数料等を徴収する、銀行店舗やATMを削減するなど「金融サービス」の変革期にあるが、サービス提供者の都合だけではなく、利用者の利便性に配慮することが必要であり、これもSDGsの重要な活動の1つである。SDGsの取組みはリサイクル、リユースなど環境問題の話題が先行するが、隠されたキーワードである「金融サービス」を忘れてしまっては、SDGsの達成は不可能である。「誰一人取り残さない」というSDGsの理念を失うことなく、新しい時代の「金融サービス」が実現することを期待する。

富士通株式会社 第三ファイナンス事業本部 シニアマネージャー安留 義孝
1968年、横須賀市生まれ。明治大学商学部卒。
メガバンク系シンクタンクを経て、2001年、富士通(株)入社。現在、世界の金融、小売の調査研究、および決済領域を中心にコンサルティング業務に従事。 「月刊消費者信用」の長期連載に加え、「月刊金融ジャーナル」などへの寄稿多数。
代表著書は「キャッシュレス進化論」(きんざい)、「テレワークでも成果を上げる仕事術」(マイナビ出版)。渡航国は現在45ヶ国。
1968年、横須賀市生まれ。明治大学商学部卒。
メガバンク系シンクタンクを経て、2001年、富士通(株)入社。現在、世界の金融、小売の調査研究、および決済領域を中心にコンサルティング業務に従事。 「月刊消費者信用」の長期連載に加え、「月刊金融ジャーナル」などへの寄稿多数。
代表著書は「キャッシュレス進化論」(きんざい)、「テレワークでも成果を上げる仕事術」(マイナビ出版)。渡航国は現在45ヶ国。
  • 社会福祉法人敬友会 理事長、医学博士 橋本 俊明の記事一覧
  • ゲストライターの記事一覧
  • インタビューの記事一覧

Recently Popular最近よく読まれている記事

もっと記事を見る

Writer ライター