2000年、福祉サービスが措置制度から契約制度に変更された際、介護保険制度とともに成年後見人制度もスタートしました。成年後見人制度は、認知症や障害などで、判断能力が十分でない人の代わりに財産や権利を守る制度です。
介護保険制度の利用者数の伸びに比べ、成年後見人制度の利用数の伸びは小さく、2021年現在、約23万人です。厚生労働省は、本人の判断能力が不十分だと推計される人数について、認知症有病率から2020年は約600万人と推計、他、知的障害者や精神障害者も含むと考えた場合、現在、成年後見人制度を利用している人はほんの一部の人と考えられます。
「成年後見関係事件の概況」によると、2000年の制度開始時、全体の90%以上において、親族が後見人として選任されていましたが、2021年は第三者後見人が全体の80%に迫る状況です。一部の家族後見人の横領が明るみにでたこともあり、家族の専任よりも第三者後見を専任する傾向が強まりました。「最高裁判所事務総局家庭局実情調査」によると、第三者(専門職)の選任が多くなるにつれ、不正は、2014年の831件、被害総額は56億円超をピークに、2020年は186件、8億円弱までに改善はされています。
また、利用が進まない理由としては、旧来の「禁治産」「準禁治産」の制度からくるイメージにより、成年後見人制度利用が忌諱されていたこと、医師の診断や様々な調査を受けなくてはならないことへの心理的抵抗感もありました。
後見人の業務は大きく分けて2つあります。「財産管理」と「身上監護」です。日本の成年後見人制度は財産管理偏重であり、意思決定支援より代行決定に軸足が置かれていましたが、2014年の障害者権利条約に批准以降、身上監護に比重を置くこと、意思決定支援を適切に行うことを、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」に明記し、仕切り直されました。財産管理(※1)は判断力が衰えた人に代わり、預貯金の管理、不動産などの管理を行います。身上監護では、入院や入所の手続き、年金や介護保険の申請の本人代行、福祉サービスの適切なケアが行われているかの確認を行います。複雑な事務手続き、本人の意思決定を遂行するためのさまざまな機関とのやり取りから、地域生活を送るための親しみやすい業務などと多岐にわたっています。
親族や第三者後見の専門職として、弁護士、行政書士、社会福祉士らが後見人の中心ですが、将来の需要を見据え、また、地域生活の親しみやすい業務も踏まえ、ボランティア(無報酬)で活動する(※2)市民後見人が設定されました。2011年に老人福祉法32条の2が創設され、行政の義務として、市町村が市民に研修を行い、市民後見人として活動しています。市町村が関係することで、公的支援としての枠組みをもつことになったと考えることができます。
実際の市民後見人の業務について、親族や専門職である第三者との違いがあるのでしょうか。
いくつかの報告において、親族後見人や専門職後見人とは異なり、市民後見人独自の特性を活かし、一生活者(市民)、一地域住民として、持っている情報を使い、適切な社会資源に繋げる活動をしていることが報告されています。その一方、専門職後見人と同じ活動をしていることも報告されています。市民後見人の活動において、最も期待されているのは、生活者の視点からの活動であり、生活に寄り添い、細やかなニーズを掬いあげ、表明された意思決定の遂行支援ではないでしょうか。市民後見人の活動は、市町村が相談機関の整備などのバックアップを行っており、市民後見人の適切な支援活動に期待が寄せられています。
利用の申立人についての最近の動向は、「成年後見関係事件の概況」によると、市区町村長申立て、つまり、身寄りのない人、経済的に困窮している人の申し立てが増加しています。今後、親族のいない、経済的困窮状態にある高齢単身世帯等、また、単身者、非正規雇用労働経験者であり、経済的に困窮状態となる可能性のある方が高齢化していくと予想されます。
市民参加の市民後見人制度は、多様な機関や専門機関の協同体制を整えながら、将来、後見を視野に入れる人を見据え、体制を作っている段階です。現在は上記に述べたように、無報酬で活動される人も多いものの、成年後見人の報酬に関する考え(※3)も正当な対価を考える過程にあるといえます。また、専門職、市民後見人、親族と、その業務の位置づけについてまだ議論が必要ではありますが、市民後見人は、後見を受け入れる人の生活を支え、暮らしやすくすることを支援するにふさわしい社会生活者の資源であると考えます。課題は多くありますが、成年後見制度は、安心して生活を送るため、権利の行使のための大事な制度であり、必要な人誰にでも届く制度になるべきです。
(※1)日常的な金銭等の管理は、日常生活自立支援事業で実施、日常的な金銭管理を超えた支援(不動産売買等)は成年後見人制度の財産管理で実施。
(※2)無報酬ではあるが、後見の事務を行うために必要な費用(交通費や通信費などの実費)は、請求できる。
(※3)2019年、制度の利用促進をはかるための専門家会議にて、最高裁は「後見人に支払う報酬について、後見に関連する業務に応じた報酬にできないか」という新たな考え方を示した。市民後見人の報酬は、法令上の規定は民法しかなく、各地で対応は異なる。民法は後見人の報酬に関し、家裁が利用者の財産から報酬を後見人に与えることができると定めている。
参考
裁判所 成年後見関係事件の概況
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/kouken/index.html
裁判所 後見人等による不正事例(平成23年から令和2年まで)
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/koukenninhuseijirei/index.html
厚生労働省 後見人制度利用促進
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000202622.html
厚生労働省 市民後見関連情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/shiminkouken/index.html
日本弁護士連合会 裁判員裁判制度
https://www.nichibenren.or.jp/ja/citizen_judge/index.html
市民後見人養成講座 第1巻〔第3版〕 成年後見制度の位置づけと権利擁護
市民後見人養成講座 第2巻〔第3版〕 市民後見人の基礎知識
市民後見人養成講座 第3巻〔第3版〕 市民後見人の実務
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