雇い止めになった人の相談に乗り職探しに協力していたハローワーク職員が、翌月には自身が雇い止めになり、職探しをする側に回ったという信じがたい現象が起こっている(非正規公務員のリアル;上林陽治)。公務員において、非正規職員、それも、有期雇用の職員が増加していることが原因だ。なぜこのようなことが起こっているのだろう?
非正規職員の増加は、公務員に限らず、多くの企業で起こっている。全職員のうち非正規職員の割合は、1989年の約20%が、2019年には約40%と上昇している。この現象に対しては、困ったことだとの否定的な意見が大半だ。その理由は、大きく2つある。まず一つ目は、正規職員に比べ、非正規職員の待遇が明らかに悪いことについてである。多くは賃金の問題だ。同一労働同一賃金の原則が、2020年4月から実施されているにもかかわらず、正規職員と非正規職員との差異は、解消に向かいそうにない。政府はあまり差異の解消に真剣ではないように思われる。
しかし、今回は、二つ目の問題点、日本の雇用構造に根ざす問題を取り上げる。会社や組織のメンバーシップ性から起こる非正規職員と正規職員との問題だ。一般に日本では、正規職員は、大学を卒業した後、新卒一括採用のもとで、企業や事業所に就職し、一つの組織内で職種をローテーションして、社内でのキャリアを積み上げていく制度となっている。組織内で昇進する(給与が上がる)ためには、このシステムに乗らなければならない。この場合、専門性が必要な業務は、ローテーションする正規職員にはなかなか身につかない。特に公務員では、一つの職場での任期が3年程度と非常に短い。正規職員は、専門性よりも全員ジェネラリストを目指しているようだ。正規職員は専門性が乏しいので、専門性が必要とされる部門には、ローテーションのない固定的なジョブ型の職員が必要になる。このことは、仕事の内容と組織の制度がミスマッチしていることを示している。つまり、一つの組織でのジェネラリストとしてのキャリアでなく、職務上の組織横断的に通用するキャリアが必要な場合が増えているのだ。組織横断的で専門性を必要とするジョブ型雇用は、結果的に非正規労働となる。この場合、同一労働同一賃金の原則で言えば、専門的な仕事は、その仕事に固定された非正規職員の方が、能力が上となり、時給での比較から言えば、ローテーションのある正規職員よりも非正規職員のほうが、時給が高いことが合理的給与体系となるだろう。正規職員がローテーションを行い、ジェネラリストの能力を持つだろうとの想定のもとに、給与が高いことは不合理で、幹部職員になって初めて給与が高くなるべきだ。それは、正規職員だからでなく、幹部社員であるからの理由しかないのである。
このように、ジョブ型雇用形態は、一つの組織内で通用するのでなく、企業横断的にその業種の専門家として通用する(図1)。従って、能力が高くなると、転職を繰り返しながら、キャリアを上げていく。それに対して(図2)メンバーシップ的に一つの組織に入り、その中で異なる職種に移動を繰り返し(例えば営業から企画、さらには人事など)キャリアを上げていく方法を日本では一般的に採用している。冒頭のハローワークの正規職員は、厚生労働省所属の国家公務員である。従って、日本の役所の慣習に従って、3年程度で多くの職種のローテーションを繰り返す。専門性は身につかないので、非正規職員を採用し、相談業務に固定して、専門性を身に着けさせたほうが良い。この傾向は、一般企業も同じである。従って、非正規職員を採用することになる。
図1
図2
会社や事業体がかつてのような余裕を失っている状態でも、同じようなメンバーシップ型雇用を行い、仕事を会社や事業体の習慣に沿ってローテーションさせ、なおかつ、勤務場所や勤務時間を雇用主の都合のみを理由に変更する権限を持つことは、労働環境を悪化させるものである。また、ジョブ型雇用が、同じ会社内で能力によって評価する制度と勘違いし、本来の役割を持つことがないのも問題だ。非正規雇用の増加の一因として、低賃金での雇用が出来るからとの理由が大きいが、日本従来のメンバーシップ型雇用制度が増加の原因となっていることも認識する必要がある。多くの職種で、しかも専門性を必要とする分野は、ジョブ型雇用が適している。従って、ジョブ型雇用を前提とした公平な人事制度が必要となるのだ。
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