少子高齢化と人口減少に悩み、「失われた30年」を経て「ジャパン・アズ・No.1」と称えられた経済の活力を失った日本にとり、外国人労働者の受入れは非常に重要なテーマになっている。東日本大震災の影響で減少した中長期在留外国人は、2012年から再び上昇に転じて伸び続け、2019年末には293万人を記録した。
一方で、どのような分野にどの程度(規模)の外国人労働者を受入れるかについては課題山積だ。重要テーマだからこそ、受入れには戦略性が求められるが、なし崩し的に増加する外国人に対し、日本側の体勢は十分とは言えない。対応が後手に回る中、新型コロナによる入国制限は、単調に増加してきた外国人受入れに踊り場を作ったが、むしろ戦略的な受容に転じる好機ととらえるべきである。
ところで筆者は、あえて「移民」という言葉を「永住的外国人」を意味するものとして、限定的に用いている。
理由はふたつある。
皆さんは、友人がタイに5年ほど赴任すると聞いて、「ああ、〇〇君一家はタイの移民になるのだね。」と思われるだろうか。日本語の「移民」は、永住、あるいは帰化というニュアンスが強い。移民と訳される言葉の国際的な定義は統一されておらず、短いものは半年や1年以上外国に滞在することを意味する。これは流動性の高い欧米の感覚に近い。
けれども、ここは日本であり、日本人の語感に即した使い方をすべきだろう。その上、現在の外国人数の増加をけん引するのは、技能実習生を含め、主に就労目的で来日する人か留学生であって、彼らが永住に至る割合は、政府の姿勢もあってかなり低い。
一方で「移民大国・日本」という言葉を目にすれば、外国人に侵食されるように感じる人もいるだろう。日本は歴史的に多くの外国人を短期的に受容(インクルード)した経験がない。印象で使う言葉が無用な心配を生み、本格的な外国人受入れの障害になることを懸念する。
もうひとつの理由は、インターネット・デジタル時代には、国境線が曖昧になると考えるからである。新型コロナが加速した働き方改革のひとつに、リモートワークがある。東京にオフィスがあっても、職種によっては地方都市にいて仕事ができることを強く印象付けた。ZoomなどのWeb会議システムを当たり前のように操る人もこの1年で飛躍的に増加した。
逆を言えば、来日せずに日本企業で働く外国人が増えたとしても、何ら不思議はない。日本と外国人労働者との関わり方も、大きく変化し始めた。来日しない「外国人の労働者」は「移民」はもとより、「外国人労働者」という概念からも乖離する。
ひとくちに外国人といっても、相当な幅がある。高度な専門性を有する人、企業のホワイトカラー、現場で働く非熟練労働者。いずれもニュースなどではひと括りに外国人労働者と呼ばれる。「外国人界隈」でよく知られたフレーズに、「我々は労働力を呼んだ。だが、やってきたのは人間だった。」というスイスの作家マックス・フリッシュの言葉がある。
当然だが、「外国人」という人はいない。一人ひとりが母国をもち、名前をもった人間である。
ここから少し、現場非熟練労働者の課題に光を当てたい。
この分野の在留資格には、技能実習と特定技能のふたつが設定されている。技能実習は、日本の「技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り」「『人づくり』に協力する」ことを目的に掲げる。
しかし「実習」は建前にすぎず、事実上は労働者の受皿になってきた。これに対し2019年に創設された特定技能は、外国人を「労働者」と捉える。リードしたのは官房長官時代の菅総理と言われる。
現場非熟練労働の分野の問題はふたつ。技能の「実習」という建前ゆえに不幸を生む温床になっていること。技能実習と特定技能のふたつが類似の領域に並存している点である。
EDASでは「外国人の裁かれる法廷」を傍聴しに行くことがある。入管法違反で被告人となった外国人に対し、検察官が、技能実習制度は実習であって就労ではない、それを知らずに来たのかと詰問する様子は見るに堪えない。多くの実習生は出稼ぎに来ている。それを「実習」と言い募るのはわれわれ日本側だ。
ふたつの在留資格の並存問題は、社会的コストにある。外国人労働者を安価な労働力と捉える向きもあるが、これは正しくない。最低賃金以下で働かせるのは違法であり許容されないが、問題にしたいのは制度自体が「ミルク補給」の構図である点だ。
外国人雇用には制度運用のために公的機関が作られ、見えづらい社会的コストが発生する。これは日本人の雇用の場合には存在しない。
ざっくり言えば、技能実習や特定技能は、日本人の労働力を確保できなくなった産業分野の業界団体が政府に陳情して業種別に設定される。本来は外国人労働者を必要とする雇用主が全て負担すべきものを、税金(と実習生本人の借金)で支える構図といえる。誤解を恐れずに言えば、全てを雇用主が背負うとビジネスが成り立たないため、外部経済化することで辻褄を合わせている。
しかも、低賃金の若年日本人労働者の払底に悩む産業の場合、成長投資とは言い難い。衰退産業の延命であるとすれば、納得感は少ない。労働集約型衰退産業の再生にはDXなどによるイノベーション以外の活路は無いはずだが、外国人労働者を充てこむだけでは、多少の延命効果しかないだろう。そして本質的な復活や変革からは遠ざかってしまう。
技能実習は制度疲労を起こしている。
建前ゆえに、構造的に多くの不幸な外国人労働者を生んでいるが、実習実施機関(雇用主)や監理団体の全てが悪質というわけではなく、より良い制度運用に努力を重ねてきた関係者も少なくない。技能実習のノウハウは特定技能に活かさねばならない。
先に述べた根本的なふたつの問題を解決するためには、外国人を労働者と認めた上で成立させた特定技能への一本化を図るべきで、そのためには政治的なリーダーシップが不可欠だ。
今から10年以上前、「移民1,000万人計画」がもて囃されたことがある。1,000万という規模感は、よくも悪くも大きな関心を呼んだが、結局しりすぼみに終わった。実現性に乏しい打ち上げ花火のような数字は、結果的に外国人受入のブレーキになったと感じる。
移民が建国した米国やオーストラリア、歴史的に版図の大きな書き換えを繰り返してきた欧州と日本を同列に論じることは難しい。文化や国民性に裏打ちされた日本らしい外国人受入れの未来戦略とシナリオを描きつつ、政治のリードと、国民レベルでのファクトやエビデンスの共有と共感形成を目指さねばならない。
293万人が総人口に占める割合は、たかだか2.3%程度に過ぎない。「隣の外国人」の数は、日本が経験したことのない規模には違いないけれど、外国人比率がもっと高い国はいくらでもある。
外国人多数受入れ時代のキャッチフレーズは「多文化共生」だが、これは「外国人界隈」の話でしかない。私たちは視野を広げねばならない。多様性の尊重(受容)を「ダイバーシティ&インクルージョン」と言うが、外国人を今の何倍も受入れたいと望むならば、相応の準備と覚悟が不可欠である。女性をはじめ、障がい者・LGBTqなど全てのマイノリティに対する感性を高めなければならない。なぜなら、共生能力の本質とは、インクルーシブな社会へと自らを変えることに他ならないからである。
最後に、外国人受入れは日本人目線のニーズから語られることがほとんどだが、最も重要なのは、いかにして「選ばれる日本」になるかである点を強調したい。そのためには、外国人側に視点を切り替える必要がある。外国人労働者は世界中で争奪戦になっているのだから。
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