菅内閣は、最低賃金を全国加重平均で1000円程度に引き上げる考えを持っていると言われる。それに対して、日本商工会議所など中小企業3団体は4月14日、新型コロナウイルス禍で経営環境が悪化しているとして、2021年度は最低賃金の現行水準を維持するよう求める要望書を取りまとめた。もともと最低賃金を引き上げると、値上げをしない限り短期的には企業の利益が減少することは「当然」である。問題は、低賃金でないと事業が継続できない状態を放置するかどうかなのである。いわば、発展途上国式の安い労働力を頼みにして企業経営をするかどうかなのだ。最低賃金が諸外国よりも際立って低いのは(図1)、はたして利益の分配の問題だろうか、あるいは、利益自体が低下していることによるのだろうか。利益(付加価値)を資本側が取るのか、労働側が取るのか、その比率を示すのが「労働分配率」である(図2)。
図1
OECD資料より
図2
日本総研資料より
日本企業の労働分配率は、2000年頃の70%をピークに、一時期のリーマンショックの時期を除けば(利益が急に減少した場合には、給与が高くならなくても、相対的に分配率が高まる)、持続的に低下して、現在は60%程度となり、20年間に10%低下している。つまり、労働者への配分が少なくなっているのである。もちろん、この傾向は全産業に共通しているわけではない。しかし、労働者の賃金が利益に対して相対的に低く抑えられていることは確かだろう。
労働政策研究・研修機構による調査では、全労働者の13.4%(2014年集計)は、最低賃金近くの給与(最低賃金から15%以内)に甘んじているようだ。短時間労働者(パートタイマー)では、その比率が高くなり、なんと39.2%が最低賃金を15%上回る範囲の水準に留まっている。つまり、政府が定める最低賃金の水準が市場の賃金の決定要素として大きな比重を持っていることがわかる。現在の最低賃金は、2020年時点で、全国加重平均902円であるが、前年度から1円上がっただけである。現行の最低賃金から見た15%以内給与者、つまり、1037円以内の時給者は、時給で賃金を支給されている労働者の多くを占めている。
最低賃金は、生産性と大きな関係がある。生産性が上がれば、最低賃金を引き上げることが出来るが、日本では生産性の低迷が続いている。従って、最低賃金を引き上げることが出来ないという。と言うよりも、日本全体では人口減が続いて、移民の受け入れも積極的ではない現状では、売上の上昇が見込めず、自然の賃金上昇は見込めないのではないか。
個別の企業からの要求と、日本全体での必要性は、異なることも、同じこともある。賃金については、安倍内閣の官製賃金引き上げに見るように、ミクロの欲求とマクロの必要性との間に違いが生じる可能性もある。
最低賃金をどうするかについては、その周辺の給与を得ている労働者がいないときには、問題にはならない。例えば、最低賃金の全国平均が500円であるとすれば、それを、700円にあげても誰も問題にはしない。なぜなら、現在500円の賃金で働いている人は、ほぼいないからだ。問題になる理由は、最低賃金の周辺に多くの労働者が密集しているためである。なぜ密集しているのか?それは、賃金を上げたくない経営者にとって、最低賃金が賃金を決める基準として、都合よく出来ているからだ。しかし最近では、労働者数自体が少なくなって人手不足が蔓延している。人手不足を解消するためにはどうすればよいのか?個別の企業にとって唯一の解決策は、給与を上げることだ。最低賃金から離れれば離れるほど人手は集まってくる。経営者はそうすると利益が減るのでやりたがらない。
結果的に、派遣社員を使うようになる。自前で雇うと給与体系を整えなければならない(新人の給与を100円上げると、すべての労働者の給与の引き上げが必要となる)ので、一人のために他の職員の給与を引き上げる事は出来ないという。派遣社員であれば、自前の給与体系には傷がつかないのだ。しかし、派遣社員は派遣元での最低賃金や給与水準がベースとなり、それに派遣会社の経費や利益を上乗せするので、当然自前で雇うよりも労務費は2倍程度かさんでくる。人手不足が強い事業所は、派遣社員が多いので、労務費もかさむのである。こうなると、なんのために最低賃金付近の賃金を維持しているのは分からなくなる。
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