潜入レポ!介護の現場から 第7話「身体拘束‐前編‐」

そして、若林リーダーによる「頻回コールの方への一斉調査」が始まった。しかし、山田様の件は解決していない。
増野リーダーは認知症の勉強会の案内状を出したものの、山田様は本当に認知症なのかの疑問は解決されていない。
夜勤禁止を命じられた吉田職員は「自分には介護は向いていない」と言って、3日後に辞職した。

増野リーダーは勉強会を始めるところだったのに、と残念そうだ。

しかし、夜勤を禁止しただけでは解決しないし、認知症の勉強とは直接、関係ないかもしれない。

私は以前のように、仕事終わりに山田様の話を聞くことを続けよう。コールをする時の気持ちや困りごとを理解したい!

少なくとも山田様は「認知症で何もわからずにコールを押す人」ではない。

きっと夜間にベッドを蹴られるという怖い思いが、コールに繋がっていたに違いない。

ただ、他に怖い思いをされていないのか?困っていることはないのか?

ちゃんと山田様の話に向き合っていこうと心に決めた。

山田様のお部屋に行くと、「この前はありがとう。あれからベッドを蹴られることはなくなったわ」と言われるので、単刀直入に「他に困りごとは無いですか」と聞いてみた。

すると、「私ではないけれど困っている人がいるわ。そのことを考えると眠れなくて、ついコールしてしまうことがあるのよ」。そのことについて詳しく教えて下さい、とお願いすると、しばらく迷った末に「食事中に、トイレにね。トイレに行こうとする人がいるんだけれど、職員さんがね、食事中はトイレに行くものではない、と言って無理に座らせているような気がするの。時々、椅子ごとヒモで括られているのを見たわ」「そのことを考えると辛くて怖くて悲しくて眠れない時があるのよ」

さらに「トイレに行きたい時には食事を楽しめないし、縛るなんてびっくりしてしまって」と言ったまま、うつむいた。

またまた驚きの事実?が出てきた。昼食の時には見かけたことはないので朝食か夕飯時だろう。これは、いきなりカンファレンスで聞いたり、リーダーに確認したりもできないな。今のリーダーは調査と勉強会に必死だ。どうやって真実をつかむか!やっぱり夜勤をしないと分からないことが多いのか。夜勤をしてみたくて仕方がないが、夫が文句を言うだろうな。でも今なら吉田職員が辞めて夜勤ができる人が足りないはずだから、入り込む絶好のチャンスだ。よし!

何とか夫を説得できた。その翌日、渡辺施設長に月に2回くらいの夜勤をさせて頂きたい旨を聞いてみた。すると、即了承。「助かったわ、吉田さんが急に辞めてしまって困っていたの」と、早速来週の火曜日が初夜勤に決まった。最初は若林リーダーの指導を受けることになった。
山田様には、夜勤をすることになったこと、トイレを抑制されている方がどんな状況なのか確認してみること、について報告をした。

山田様は「安心したわ、今日は眠れそう」と笑顔で答えられた。

「潜入レポ!介護の現場から」全体像

*介護施設にパート職員として潜入した池田出水。そこで見聞きしたことから現場の問題を表現していく。職員の様子・入居者や家族の様子・ケアの状況・往診医や時には受診付き添いなどでの病院の様子などレポートは多岐にわたる。

*登場人物
介護の現場体験者:池田出水
施設責任者(施設長):渡辺
パートの先輩:大村
常勤ヘルパー(リーダー):若林

常勤職員
往診医
203号入居者
202号入居者:山田
202号入居者家族
虐待疑惑職員:吉田
共感してくれる職員(もう一人のリーダー):増野

ペンネーム池田 出水
「これからの日本には介護サービス業界こそが必要!これぞ社会の根幹!」と考え、それを支えるべくこの業界に飛び込む。
昨今の介護サービスの現状を憂う大和撫子。
「これからの日本には介護サービス業界こそが必要!これぞ社会の根幹!」と考え、それを支えるべくこの業界に飛び込む。
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