パラダイムシフトが求められる学校教育-「令和の日本型学校教育」を読み解く

「個別最適な学び」に本格的に着手

1月26日に「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」という答申が中央教育審議会から出ました。みなさんは、お読みになりましたか?100ページ近い分量で、かなり大変ですが、重要なことがたくさん盛り込まれています。

この答申のキーワードのひとつは「個別最適な学び」です。
どういう意味なのか、わかりづらいですよね?

わたしなりにざっくり解釈するなら、本答申の画期的なところのひとつは、児童生徒がみんな同じような内容を、同じペースで、同じ場所(教室)で学んでいた普段の授業について、そういう方法ばかりではなく、もっと個に応じたものにしていこう、多様化していこうとしている点です。

もちろん、いまの新学習指導要領でも似たことは書かれていますので、本答申がこれまでと180度ちがっているというわけではありません。さまざまな修飾語で「お化粧」はしていますが、本質的な理念や方向性には大きな変更はない、と捉えたほうがよいとわたしは思います。

とはいえ、今般のコロナ禍での子どもたちの学びがどうなっているか直視したとき、個別最適な学びにしていくことに本格的にエンジンをかけていく必要があると思います。この答申では「ICT活用を当たり前にする」とも書いています。答申を受けた教育委員会や学校が本気で動きだそうとしているかどうかは、わかりませんが・・・。

プロダクトアウトな教育を変えられるか?

ビジネスの世界でも古くから言われていることとして、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という区別があります。プロダクトアウトとは、企業がよい商品(サービス)にちがいないと思って送り出すことで、つくり手の論理を優先させます。一方、マーケットインあるいはカスタマーインとは、顧客のニーズや欲求を踏まえて、商品(サービス)をつくっていくことです。朝専用の缶コーヒーは、忙しいビジネスマンらのニーズを捉えた、マーケットインの典型例とされています。
ただし、どちらも一長一短ですし、両者は融合的なところもあります。

さて、国際的にも日本の義務教育の質、教師の指導力などは高く評価されているそうですが、これまでは教師の役割は、教科書等に載っている世の中の知見を、つまり良質なものを、なるべくわかりやすく効果的に児童生徒に伝える、デリバリーするというものに重点が置かれていました。プロダクトアウトに近い発想です。

しかし、実際には、教師がよいと思った指導方法や学習方法、あるいは進度でも、児童生徒の能力や特性は多様ですから、合う子もいれば、合わない子も出てきます。あるいは、教科書の内容、さらには教師の知っていることなど越えた発展的な探究をしていく子もいていいわけですよね。一人一台端末と高速インターネットがあれば、容易に世界中の知見や人とアクセスできるようになるわけですし。

一人ひとりちがう子をちがった方法で励ましたり、支援したりするのが教師の役割として大きくなりつつあります。これはマーケットイン、カスタマーインに近い発想だと思います。

以上の説明はわたしなりの理解で、中教審の答申でそう明確に述べているわけではありません。ですが、こう解釈したほうがわかりやすいのではないかと思います。つまり、従来の教育観や授業の見方を全否定するものではないけれども、相当考え方を変えていく必要があるのです。

問題は、かなり多くの学校の先生方、そして教育行政、さらにはわたしたち保護者等の基本的な考え方、教育観などが従来のままで、モデルチェンジ、パラダイムシフトしようとしていないことです。

たとえば、休校中に大量の一律の宿題プリントをほぼ家庭に丸投げだったことなどは、まったくカスタマーイン、子どもたちを起点とした発想ではありませでしたね。GIGAスクールで端末(タブレットやノートPC)が整備されつつありますが、子どもたちに「あれはするな、これはするな」と禁止ばかりな学校も、個々の子どもの個性や好奇心を伸ばす可能性を自ら潰していっているようなものです。

一人ひとりちがう子どもたちに、学校は、どのような教育・学習の場になろうとしているのか。たんに教科書に載っていることや先生がよいと思ったことを伝達するだけでなく、その子の好奇心等が伸びる学びが充実していくのか、問われていると思います。

教育研究家、合同会社ライフ&ワーク代表妹尾 昌俊
徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年から独立。
全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。
中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。
ヤフーニュースオーサー、教育新聞特任解説委員。
主な著書に『教師崩壊』、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法―卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』、『変わる学校、変わらない学校』など多数。5人の子育て中。
徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年から独立。
全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。
中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。
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主な著書に『教師崩壊』、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法―卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』、『変わる学校、変わらない学校』など多数。5人の子育て中。
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