コロナ禍で被害を被った個人を対象とした場合、国が支援すべきは、憲法にも書かれているとおりの「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」ことを保障することだ。例えば、収入が月100万円の人が50万円になっても、保障の対象とはならないが、一定の収入以下になると「健康で文化的な最低限度の生活」を営むことが出来なくなり、国に支援を求める「権利」がある。問題は、その金額がどの程度か、あるいは、家族の状態でどのように変わるのかということである。
しかし、これらの問題は、コロナ禍に伴って顕在化したが、高齢、障害、失業等によって通常でも同じ様な問題が発生する。一般的に貧困問題を解決しようとする場合、2通りの方法を考える必要がある。一つは市場社会で貧困を発生させないこと、二つ目は市場社会で発生した貧困に対して、社会保障を用いて解決することだ。この場合、深刻な問題は、フルタイムに近い時間の仕事をしている(生計を維持するために仕事をしている)にも関わらず「健康で文化的な最低限度の生活」を送ることが出来ない、いわゆる「ワーキングプア」であり、その中でも特に、一人の収入で複数の家族を養っている場合が相当する、ひとり親家庭である。この場合、「最低賃金」が大きな問題となる。
「健康で文化的な最低限度の生活」を送ることが出来ない水準を決めるのは難しいが、一般的に認められているのは、「相対的貧困率」での基準や、生活保護基準(所得の下位10%程度とも考えられている)が相当する。「相対的貧困率」とは、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得-例えばひとり親、子供二人の場合は、3の平方根で1.7となる)が、同じように所帯ごとの収入(可処分所得)の「中央値」の半分に満たない世帯の割合である。相対的貧困率は日本では15%程度である。
出典:厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査」より作成
フルタイムに近い労働をしているにも関わらず生じている貧困状態を想定してみよう。ひとり親所帯で2人の子供を抱えている場合、相対的貧困線は211万円程度(平均月176,000円程度)だ。現在日本での最低賃金は加重平均で901円程度なので、社会保障に頼らない場合(手当がない場合)最低賃金で週に40時間働くと、1ヶ月に155,000円程度にしかならない(更にこれから社会保険料を引かれる)。相対的貧困線以上の生活を送るためには、最低賃金の場合、週に46時間程度の労働が必要となる。
反対に考えると、週に40時間の労働で月176,000円を稼ぐためには、時給が1,023円必要となるのだ。社会保険を加えると、これ以上、おそらく1,100円以上の時間給が必要となるだろう。この賃金が最低賃金を考える上での一応の基準となる。
コロナ対策の重要項目の一つとして、バイデン政権は就任時に、連邦レベルの最低賃金を時給15ドル(約1,575円)に引き上げると発表している。ちなみにアメリカ連邦政府の最低賃金は2009年以来、時給7.25ドル(約761円)だった。ドイツも2020年のコロナ禍で、現状の9.35(1,187円)ユーロから、2021年1月1日時点で9.50ユーロ(1,207円)2022年7月1日時点で10.45ユーロ(1,327円)、12%の引き上げを決めている。
日本においては、コロナ禍では最低賃金の引き上げなど「もってのほか」であるとの見解が一般的であるし、実際2020年度は最低賃金の引き上げは事実上見送られた。企業を守ることが一般労働者を守ることより優先されたのだ。そして、コロナからの回復は消費の復活にあり、消費は一般市民が担うとの考えも乏しかった。
日本の経済低迷の原因について、賃金が上がらないことが大きな要因であると言われている。一律にすべての国民に対する給付でなく、最低生活を送っている人たちに対して、倫理的により満足できる方法が、最低賃金の引き上げであることを理解しなければならないし、日本経済にとっても消費の向上に寄与するものであることを理解する必要がある。
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