幻覚は一般に感覚器官の機能低下に伴って起こると言われる。高齢になり視力が衰えると幻視が生まれる。シャルル・ボネ症候群がその例である。シャルル・ボネ症候群とは、高齢者が視力低下を来した時によく起こる症状であり、幻視を特徴とする。後天的に年齢とともに視力が著しく低下した高齢者(65歳以上)では、シャルル・ボネ症候群の有病率は10%から40%-平均20%程度と報告されている。同様に聴覚が低下した際には、幻聴が起こりやすく、耳鳴りも起こりやすい。これらは我々が外部の環境を認識する時に、感覚器官が外部の存在を直接映し出すのでなく、脳が作り出す像や音に頼っていることを表している。
視覚を例に取ると、普通の考えでは、外界からまず刺激が目に到達し、その刺激は脳に達する。脳ではその刺激に応じて像を作り上げるという、「カメラ」のようなシステムが想定されていた。しかし、どうもそうではないらしい。脳は感覚刺激に対して、あらかじめ外部の刺激に対するその答えを経験的に、あるいは本能的に用意している。外部からの刺激から、すべてのデータがそろわなくても、像を結ぶための一定の答えを出すことが出来る。その為に、刺激が少ないとき「よく見えない」と感じる場合もあれば、刺激に応じて、予め脳の中に蓄えていた像を取り出し、外部の僅かな刺激を補完して像を作り出す場合もある。それが、シャルル・ボネ症候群であり、幻覚、あるいは見間違えとなる。
また、人間は書き方が千差万別の手書き文字に対して、一定の意味のある文字として読み取ることが出来る。このように、何かを見た場合に、予測したものと同一視する事も出来る。例えば、視覚が障害される薄暗い場所で、帽子とコートを掛けているものを人間だと見間違うことや、注視できない視野の片隅に、幻覚が生じることはそんなにまれなことではない。脳の機能が少し低下した場合、あるいは情報が不十分な場合、この様な推測を持った判断が有用となる。この機能は同時に錯覚も出現させる。
修行中の僧が仏や神を見たこと、これは幻覚の一種であろうが、修行中の身体が疲労し、意識が多少障害されている時に、視覚刺激に対して脳が望んでいる像を作り上げたことも想像される。
この様な「条件付き確率」的な予測を「ベイズ予測」あるいは、「ベイズの定理」と呼んでいる。「ベイズ予測」は、事前に持っている予測確率に対して、何らかの現象(情報)が加わった時に、確率の変更が生じる現象を指している。また、その逆に情報に対して事前予測を立てることも含む。視覚に対して脳からの出力線維の方が入力線維より多いことなどは、ベイズ的予測が実際に働いている証拠となる。
このことは、今までの常識とされていた、外部からの感覚器官を通しての情報入力によって感覚が成立することをある程度否定するものだ。多くの場合、脳は事前に外部の環境に対する認識をすでに持っていて、単純な情報から、ベイズ予測に従って、一定のさもホントらしい像を作り上げる。いわば思い込みを乱発するに等しいのだ。
例えば、認知機能が多少障害された高齢者が、細長い棒を見た時に、それは「箸」である、それは「櫛」である、それは「扇子」であると思うことは、一定の視覚刺激によって予め蓄えられていた像が出現し、さもそれらしき像に加工され、確信を深めていき、その用途を想定する過程となる。これは、視覚機能の低下したとき、そして、認知機能の低下したとき、どちらでも出現する。
この様な、脳の「ベイズ予測」機能を理解すると、他者あるいは障害者の見間違いや、認識の違いを了解する事が出来るのだ。見たものが認識されるのでなく、目の前に見えること、あるいは認識することは、脳が作り出すものであることを理解することが必要だ。
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