笠岡諸島は岡山県の南西端、瀬戸内海の中心に位置しており大小31の島々からなっています。その内の高島、白石島、北木島、真鍋島、大飛島、小飛島、六島の7島が有人島で、住民登録上の島民数は約750人から100人足らずですが、実際に居住する島民数はその数字を大きく下回っています。市は学校規模適正化計画を策定し、島嶼部のすべての小中学校は子どもの減少に伴い、今後数年間で休校や廃校となることになっています。望ましい教育環境、適正な規模を維持するための学校統廃合や小中一貫教育へという社会の流れは避けられない現実ですが、取り残された地域がどのように生き残っていくかを同時に考えなければなりません。
私が活動する大飛島は、高齢化率80%後半、居住人口30名弱という限界集落です。平成15年に中学校が廃校となり、平成23年に小学校が休校となりました。この時点から島で子どもを育む環境がなくなり、若い世代の家族が島に居住することが極めて困難な地域となってしまいました。
子どもが居ないという地域における精神的損失は計り知れないものがあります。例えば、学校行事は地域住民の楽しみであり、地域の子ども達のためにというモチベーションが、地域住民同士の団結、協働に繋がることは少なくありません。また、近所の子どもの成長も楽しみのひとつであり、子どもの話題が地域に潤いを与えてきたということは言うまでもありません。
地域から子どもの声が聞こえなくなるという寂しさは、地域の活力を低下させ地域が衰退する大きな要因になっているといえます。また、公共や民間のサービスが行き届かない離島においては、マンパワーを失うことは島の存続に関わる重大な問題です。
よその家の荷物を運ぶことも、脱輪した車両を救出することも、他の地区の草刈りをすることもすべて地域を守る島民同士の互助、共助の精神が支えているのです。
私は、前職の私立高校職員時代から通信制課程の生徒を連れて飛島を訪れていました。離島という非日常での海洋アクティビティを楽しむだけではなく、地域の行事や草刈等の作業にも参加させていただき、子ども達が成長できる環境や島民との人間関係を構築してきました。子どもたちに自然豊かな環境でのびのびと過ごしてもらいたいという活動から、やがて飛島という地域が子ども達にとって家庭や学校以外の第3の居場所となっていきました。地域に対する愛着が醸成され地域の課題が自分事になることで、子どもたちが主体的に考え行動することになるのです。
子どもを育むということはとても時間を要することですが、このような活動を継続することこそが地域の持続可能な未来に繋がっていくのだと信じています。
「教育による持続可能な地域振興」とは、外部若者との関係人口を定着させ、深化させることによる若者の主体性によって成り、それこそが、限界集落の生活や文化を支える人財を育む長期的な地域振興なのです。
私が私立高校を退職し、地域おこし協力隊として飛島に移住してからも通信制課程の卒業生達の活動は続きました。彼らは在学中と同じように島の行事や作業に参加し、その秋には「飛島ガーディアンプロジェクト」という任意団体を設立してくれました。ガーディアンプロジェクトのコンセプトは、飛島にずっと関わり続け島民の生活や伝統文化に寄り添うということでした。何かをしてあげる。何かを支える。というスタンスではなく、「寄り添う」というスタンスです。島民が困っていることを困っているだけ手伝わせていただくという寄り添い方は自然と島民に溶け込んでいきました。そして、逆に島民がガーディアンの若者達に伝統文化や日常の生活を教えてくれるという状況も生まれてきます。
若者が存在するという支援は、日常の生活において適正な効果をもたらします。島民が出来ることを奪わず、出来ないことに寄り添うことで時間とともに役割が増えていきます。その過程にはたくさんのコミュニケーションが生まれ、信頼関係も構築されていきます。外部の若者の存在により持続可能な地域の基盤が出来ていくことに新しい地域振興の在り方が見えてきます。
飛島のような限界集落においては、今までのような新しいモノを作り出し、観光客を増やすという地域振興ではなく、今あるものを大切に守り続けていく人財を育むという地域振興が最も必要であると認識しています。
来春から、廃校となった旧飛島小中学校を拠点とする「フリースクール・育海」HUGKUMIを開校します。生まれ育った土地ではない地域とのご縁が若者の育ちを豊かなものとし、地域で次世代の若者を育む新しい教育システムによって限界集落の離島に小さな明かりを灯していきます。
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