やり直しが効きにくい社会では、リスク回避傾向が強くなる。日本の終身雇用制度はその代表格だ。一旦レールから外れるとやり直しが効きにくいので、皆がレールを外れないように行動する。結果的に、日本人全体がリスクを取らない行動を行うようになる。不祥事のニュースが大きく報道され、再発防止策が検討されるなど、近年日本人の間に広まっているリスク回避傾向が、どの程度広まっているのか?どの様に社会生活に影響を与えているのか?そして、今後どうなるのか?について考えてみよう。
World Values Survey Wave 6は、2010年から2014年にかけて各国で行われた調査結果が「世界価値観調査」として示されている。日本を含む主要国約60カ国についての調査である。その中で、リスクに関連した調査項目の一つに、次のような項目がある。「エキサイティングな人生を送るために、冒険とリスクを取ることは重要だ!」この様に訴える人に、あなたはどの程度似ているかどうか?(非常に似ている⇒全く似ていないまで6段階、似ているはリスクを取る傾向)。図1は、その結果を主要国(日本、ドイツ、中国、スウェーデン、アメリカ、インド、ナイジェリア)で示している。
図1
World Values Survey Wave 6 より筆者作成 ( )内は調査数
日本人が「非常に似ている」つまり、「リスクを取る人」が少なく、「似ていない」つまり、「リスクを取らない人が多い」傾向が見られる。もっと見やすくするために、「非常に似ている」から、「少しは似ている」までを「リスクを取る」傾向、「似ていない」、「全く似ていない」を「リスクを回避する」傾向としてまとめると、以下の図2のようになる。
図2
World Values Survey Wave 6 より筆者作成 ( )内は調査数
明らかに、日本人はこの7カ国のなかで、最もリスクを取らない国民のようだ。ドイツもリスクを敬遠する傾向があるが、日本ほどではない。逆に、スウェーデン、アメリカ以下はナイジェリア、インドまで、積極的にリスクをとる人が、取らない人よりも多い。
しかし、もともと日本人はリスク回避傾向が強かったわけではない。戦国時代の下剋上は、リスクを取り上昇志向を示す最たるものだ。江戸期では安定した社会かもしれないが、明治になると下級武士であったグループが、指導者層に上がるなど、再びリスクを取る傾向が高まる。リスク回避傾向は、日本人に特有な性質ではなく、一定の社会的慣習が生み出したものである。
現在のような、リスクを取らない社会の構造的要因は、色々なものが考えられるが、人口の高齢化と人口減少は、要因である可能性が高い。高齢者がリスクを嫌うことは、普通であり、その高齢者が増えてくるとリスクを避ける傾向が国全体に強くなる。新規起業は少なくなるだろうし、普段の行動でも危険なことは避けるようになるだろう。高齢者は、安定、分別、保守性が特徴だ。アメリカ流に言えばリスクを取らない社会の原因は「It’s the aged society, stupid(社会の高齢化だよ、愚か者め)」となるだろう。
図3は、1950年から2020年までの国別の平均年齢(中央値)である。日本は1950年には、平均年齢がなんと22.3才と若い社会だったのだ。その後急速に上昇したが、1985年でも、まだ、35才だった。国民の平均年齢は、国が貧しいときには若く、豊かになるとともに高くなる。例えば、アフリカのナイジェリアでは、未だに平均年齢15才の若者社会だ。インドも28才である。どちらも若い国であり、リスクも取りやすい。日本は1950年⇒2020年で驚くほど急速に平均年齢が上昇し、今では48才、ドイツと並び最も平均年齢が高く、高齢の国となっている。ちなみに、アメリカ、中国は38才だ(つまり1985年の日本とほぼ同じ)。
図3
United Nations ; Department of Economic and Social Affairs Population Dynamics 2019
2020年以降、日本は図4のように、更に平均年齢は上昇し、2050年には53.4才となる(2020以降は予測)。平均年齢がこの様に高いと、新しいことを試みようとする気分は少なくなるだろう。
図4
国立社会保障・人口問題研究所;日本の平均年齢の推移(2020年以降は予測値)
平均年齢の上昇は、高齢者の増加とともに、若者の人口減少が大きな要因となるが、日本と同様の平均年齢であるドイツは、8000万人程度の人口を維持している。図5のように、今後の人口減少は日本に対してはるかに少ない。この理由は、移民の大量流入であると言われる。
図5
United Nations the World Population Prospects 2019より筆者作成
リスクを取らない社会では、多くの人が平均的な行動をとる。多くの人が同じ様な既存の慣習に沿った行動を行うと、行動変化が少なくなる。進化論で述べられているように、多様な性質が発現すると、その中での適者生存が生じる。つまり、一様でなく、多様な行動を多くの人が取れば、より良い行動が選ばれ、新しい様式が生まれるのだ。
日本の極端な高齢化と人口減少は、その対策(移民政策)を取らなければ、今後日本がさらにリスクを回避する社会に移っていくことを示唆している。
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