「失われた〇〇年」が言われ始めてから、2000年代、新自由主義の花盛りの時代では、「規制緩和」が流行して、あたかも「規制緩和」をすれば、日本の数々の問題が解決するような論調が広まっていた。マスメディアは、規制は常に悪いことであり、規制を取り払うことによって自由な経済が生まれ、再び経済成長が訪れると書き立てていた。1980年代のレーガン・サッチャー革命の影響も大きい。このような風潮に反対していた人もいたが、その言論は迫力に欠けていた。その後日本は、規制緩和を行ったのだろうか?行わなかったのだろうか?
政府が行う事業を民営化することが規制緩和であるとすれば、国鉄⇒JRや電電公社⇒NTTなどはその範疇に入るかも知れない。しかし、狭義の規制緩和を見ると、新自由主義論者が言うように、あまり進んでいないことも確かである。その結果、現在に至っても、一部の人は相変わらず規制緩和を唱えている。現在では、規制緩和は、規制改革と名前を変えて、新しい内閣の重要課題と位置づけられている。しかし、もはや規制緩和であろうと規制改革であろうと、これらは経済を上向かせる切り札にはなりえない。なぜなら規制は、社会慣習をもとに作られ、社会慣習に深く根付いているからだ。我々に課された課題は、規制が映している社会慣習を変えるべきかどうかなのである。多くの場合、社会慣習は一般大衆の嗜好を反映している。従って、規制緩和(規制改革)は社会の変化とともに行わざるを得ないので、金融など一部の分野を除くと、経済の問題と言うより、社会問題に近い。
現代において規制緩和(規制改革)の対象となる代表的事業は、タクシー業界に対するウーバーや、旅館宿泊業に対するエアビーアンドビーなどである。ご存じの方も多いだろうが、ウーバーとは、アメリカ合衆国の企業であるウーバー・テクノロジーズが運営する、自動車配車ウェブサイトおよび配車アプリである。ウーバーは、特徴として、一般的なタクシーの配車に加え、一般人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ仕組みを構築している点で新しい(ウィキペディアより)。つまり、日本で言うかつての「白タク」よりも、対象範囲を広く取り、IT技術を駆使している。ウーバーが普及しないのは、一般の人が知らない人の車に乗るよりも、認可を受けたタクシー会社のタクシーを望んでいるからだろう(あるいは現状の規制で良いと思っているからだろう)。従って、規制は人々の好みを反映したものとなっているのだ。
エアビーアンドビーは、宿泊施設・民宿を貸し出す人向けのウェブサイトである。世界192カ国の33,000の都市で80万以上の宿を提供している。休暇の宿泊を目的とした、スペースを借りているユーザー(ゲスト)と、借りたい物件を持つユーザー(ホスト)を接続するオンライン市場である(ウィキペディア)。日本では、宿泊を行う場合、旅館業法によって免許が必要となる。旅館業法は都道府県知事の認可であるため、簡易宿所営業を含め旅館業を経営しようとする者は、都道府県知事などの許可を受ける必要がある。要するに、今までの民宿を含めた宿泊所は一定の許可が必要だった。エアビーアンドビーによる宿泊の一般化を受けて、日本政府が行ったのは、一般の人が他人を泊める場合をカバーする新たな旅館業法である。つまり規制範囲が広まったのだ。この現象は、日本政府の考えというよりも、ウーバーと同様の理屈で、どうせ泊まるなら許可を受けた施設のほうが良いとの日本人の考えだろう。結局のところ、日本人は日本社会の習慣を維持するために誰でも泊めることを拒否したのだ。
規制は当局の権力を守るためや、特定の事業者の利益のためにあるではなく、現代では社会慣習を変えないための規制である意味のほうが大きい。規制緩和(規制改革)を叫ぶ人は、日本の社会慣習を変えることを目的としなければならない。近年日本での社会的傾向は、保守的であり、安全を守ることを前提として、リスクを伴う行動は敬遠される場合が多い。また、多様性を求めず、多数派の人たち(障害者や外国人などを除く人たち)の利害のみを優先する慣習になっている。普遍的な価値が優先されるのか、既存の価値あるいは権利が守られるのかが問題となる。規制緩和(規制改革)は経済とは別に、社会的慣習をどのように認識するかに左右される。ただし、保守的傾向や、同調圧力(他人と違う選択をしないようにすること)が強いことは、必ずしも悪いことだけではない。平和な、調和的社会を保つ利点もある。
これらの点をまとめて言えば、日本の規制は、①安全を最優先し新たなものにチャレンジしない気風、②大多数の人の意向を尊重し、少数の人の切実な問題を無視する傾向、によって生まれているので、規制緩和(規制改革)は、この様な社会のあり方を変えるべきかどうかが問われている。
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