コロナ禍で感じた二つの偏見

2019年12月に中国武漢市で発生後、今年に入ってパンデミック化した新型コロナウイルス(COVID-19)は、世界ではいまだに増え続けている状況で、「世界的」という意味だけでなく、その「規模」においても過去のパンデミックと肩を並べつつあるようです。日本では、幸い6月から7月にかけていったん収束(残念ながら「終息」ではありません)したかに思えていました。それで油断したわけではないのでしょうが、コロナ対策の主たる責任者が経済再生大臣ということにも象徴されるように、早々に感染対策優先から経済対策優先に舵が切られたようで、7月に入ってからはそうした動きに呼応するようにCOVID-19感染者も再び増加に転じ、確たる科学的根拠もないままに「第2波」と言う方々も出てきて、日本の夏の風物詩である「お盆」が消え去ることになりました。“Go to travel”ならぬ“Go to trouble”だったと評価される時が来るかもしれません。

それはさておき、今年の3月から6月の感染拡大の時には、「第1波」として得体の知れないウイルスということもあってか、政府は第2類としての指定感染症と位置づけ、一部では第1類に準ずるような規制を設けて抑制に努めたことは、皆さんもよく知るところでしょう。そして、ここにも書きましたが、人間の本性が露呈した風評被害や誹謗中傷、差別の問題までが発生してきました(※1)が、どうやらかの地で多発する人種差別と同様に、その根は深く、言葉での説諭だけでは解決できない問題のようではあります。

さて、こうした流れの中で、今年7月下旬頃からの「第2波」といわれる状況において、大きく二つの動きがあるように思えてきています。それらは、政府という国を司るレベルでの指示が不適切というか、統一性を欠いた全く国政と言えないレベルのものであったが故の事態と言えなくはないのですが(※2)、やはり、人間の本性に根差したものであり、そのために、「新しい生活形式」ならぬある種の「新しい常識」として動き始めているような気がして恐怖を覚えています。

大きな二つの動きの一つ目は、医療機関(というか医師)による発熱者への差別です。有体に言えば、診療拒否であり、時には医師の紹介があっても断る施設も出始めています。こうなると、コロナ感染者であるのか普通の疾患での発熱者であるのかもわからないままとなり、これから秋、冬となって季節性インフルエンザの流行期に入ると、さらにこの問題が顕在化してくる懸念がもたれます。

そして、もう一つの問題は、意外でしたが(と言うと「医師の驕り」とお叱りを受けそうですが)患者による医師や医療機関への偏見です。先日の土曜日、午後の待機当番でコールがあり、発熱した患者さんを診る機会がありました。当院は救急指定病院ではなくお断りすることもできたのですが、看護師さんが電話対応で問診した時点で、いわゆる接触などのCOVID-19感染リスクは(あくまでこれまでの、基準上)低いと考えられ、また、当院内科のかかりつけの患者さんということもあって診察することにしました。診察室に入ってきた患者さんにはマスクは勿論フェースガードが装着されており、看護師さんの配慮を感じたわけですが、話を聞いているうちに背筋が寒くなる想いをしたのです。

その患者さんは、すでに4日前の水曜日頃から37℃後半の発熱があったようで、その頃には喉が痛く、つばを飲むのも痛かったそうですが、味覚は普通であったと言います。勿論、心配な接触関係は改めて聞いてもなかったわけですが、その後も微熱が続くため、会社の同僚に相談したとところ、「今は、どこの医者も『発熱者お断り』と紙を貼っているから診てもらえんぞ」と言われたというのです。そのため、この(少しばかり天然がかった気のいい)人物は、土曜日までじっと我慢していたのだそうですが、さすがに日曜日を控えて心配になり、保健所に電話したところ(いつものパターンで)「かかりつけ医に行きなさい」と言われたので当院に来たとのことでした。

私は思わず、「少なくともこの地域では、そんな貼り紙をしている開業医さんのことを聞いたことはないし、うちだってこうしてあなたを診させてもらっているじゃないですか」と言ってしまいましたが、一度実際に他の開業医さんの入り口の扉を見に行かねばならないのでしょうか。「そりゃあ、会社の人に担がれたんじゃないですか?」、「それも大きな意味での風評被害ですね」ということになった次第です。この患者さんは、採血ではCRPが軽度上昇しているだけで、聴診や胸部レントゲン検査でも異常はなく、咽頭が赤く腫れ、白苔も付着していることから咽頭炎として薬を処方して帰っていただきました。

少し前のテレビで、都会の呼吸器内科で開業されている先生が、「疑わしいのでPCR 検査を受けるように勧めたところ、『陽性に出たらどうしてくれる』、『私が自宅待機になるのは勿論、家族も休まなければならなくなるし、ひどいと私も家族も仕事をクビになる』と言われて検査できませんでした」と言っておられましたが、日本の中で、人間の本性に根差した何かが作用して、事態が大きく変わりつつあるようです(※3)。実際、感染が治癒したにも関わらず、職場を追われただけでなく転居を余儀なくされた話は、私が知るだけでも一つや二つでは済まなくなってきています。

今回の経験から、テレビでいくら「差別や偏見をやめ、医療者にもっと敬意を払いましょう」と繰り返したところで、いくつもあるCMと同様に聞き流されているに違いなく、ことは、COVID-19が感染症第5類に格下げされ、季節性のインフルエンザと同様に扱われるようになるまではなくならないのだろう、いや、むしろ社会常識化して酷くなっていくだろうと思わざるを得ないことになりました。


この文章は、8月下旬に先の患者さんの診察を終えてから書き始めていますが、同じことを、「第3波」が来た時にも「もっと過激なってきている」と書き加えることになりそうな気がしています。なんとも、(自分がそうなのかもしれませんが)日本も、そして日本人もレベルの低いことになってしまっているようです。

最終的に、やはり「国」レベルの見解や指導のなさが、こうした混乱を引き起こしていると思いますが、皆さんはどうお考えなのでしょうか。柳に風とやり過ごせれば良いのでしょうが、仕事柄、問題が暴風雨なみに押し寄せてくるので知らん顔もできずに困っています。


(※1)日本赤十字社によると、ウイルスによってもたらされる感染症として「第1の感染症(生物学的感染症)」;元より、ウイルスによって引き起こされる「疾病」そのもの、「第2の感染症(心理的感染症)」;見えないこと、治療法が確立されていないことで強い「不安や恐れ」を感じます、「第3の感染症(社会的感染症)」;不安や恐怖が「嫌悪・差別・偏見」を生み出します、の三つがあると指摘しています。医療者だけでなく一般の方々も、こうした非常事態では、良い悪いではなく、こうした「感染症」が起こることが当たり前で、遅かれ早かれ「感染症が拡大する」ということを真摯に受け止めるべきではないでしょうか。

(※2)8月28日に、安倍総理が退陣を表明されました。今年の長崎での原爆慰霊祭でのスピーチをテレビで見ていましたが、歩いておられる時にスーツがぶかぶかでお痩せになったと感じていましたので、「やはり持病の悪化があったのだ」と確信しました。そもそも潰瘍性大腸炎の再燃(報道では再発と言っていますが、マスコミの不勉強さがでていますね)、悪化の一因にストレスがあることから、総理在任中は大変であったろうとご想像申し上げるしかありません。ただ、コロナ禍もそれなりのストレスになったことは確かでしょうが、総理在任日数に拘られたからとは思いませんが、個人的には国政の停滞を招くことになった責任はあったのではないかと愚考しています。今後は、ゆっくりと療養され、寛解されることを祈念しています。

(※3)未確認情報ですが、医師会の理事の中には、「PCR検査をすると、無症状者にも陽性者が出て隔離をしなければならず、医療をひっ迫させることになるので、国はPCR検査を控える方向で考えているようだ」との発言がありました。保健所などの動きや世間の動きをみていると、そうなのかもしれないと妙に説得力のある話ではあります。

医療法人 寺田病院 院長板野 聡
1979年大阪医科大学を卒業後、同年4月に岡山大学第一外科に入局。
専門は、消化器外科、消化器内視鏡。地域に根差した医療を目指しています。
現在の寺田病院には、1987年から勤務し、2007年から現職。
著書に、「星になった少女」(文芸社)、「伊達の警察医日記」(文芸社)、「看取り請負人 死なせ屋ゴンがゆく」(ルネッサンス・アイ社)。
資格は、日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医、日本消化器内視鏡学会指導医、がん治療認定医、三重県警察医、ほか。
1979年大阪医科大学を卒業後、同年4月に岡山大学第一外科に入局。
専門は、消化器外科、消化器内視鏡。地域に根差した医療を目指しています。
現在の寺田病院には、1987年から勤務し、2007年から現職。
著書に、「星になった少女」(文芸社)、「伊達の警察医日記」(文芸社)、「看取り請負人 死なせ屋ゴンがゆく」(ルネッサンス・アイ社)。
資格は、日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医、日本消化器内視鏡学会指導医、がん治療認定医、三重県警察医、ほか。
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