国民が税を負担する場合、国防と警察機能に対しては、その内容の是非はともかく、ほぼ全員が了承する。これに対して、再分配を目的とする社会福祉分野は、賛否の分かれるところである。この様な事態に対して、保険機能に類似した再分配方式がある。一定の拠出金に応じて、給付が行われる方法だ。保険機能に類似した社会保障は、現在日本で、年金、医療、介護に使われている。
年金保険の場合、拠出金の金額は所得に応じて比例的であり(累進的ではない)、給付はおおむね普遍的に行われる点が特徴だ。例えば、年収1億円の人で、資産が10億円ある人に対しても、年金は給付され、年金保険の拠出額は、給与の18.3%で比例的になっているし上限も設定されている(上限は65万円の標準報酬月額を設定―自己負担は最高が59,000円余)。つまり、一定の水準になると、収入や資産にあまり関係なく、保険料が決められ、一定の給付が行われる方式だ。給付は一律に近い方式で行われるので、線引きの必要はない。この様な社会福祉の方式は「普遍主義的」と呼ばれる。医療保険も介護保険も所得に応じて多少の違いはあるが、高所得者と低所得者との間に差異は少ない。子ども手当や、授業料の交付も「普遍主義」的である。新型コロナウイルスに対する国民に対する一律10万円の給付金も「普遍主義」的考えに基づくし、最近話題になるベーシックインカム(BI)も同様だ。
一方で社会福祉的な税の使い方で有名なのは、17世紀初めのイギリスでのエリザベス救貧法である。これは、裕福な人が貧しい人に対して「施し」を行うものである。人類の歴史が始まった直後から、この様な営みは、国家が介入しない場合(民間で行われる場合)、あるいは、国家が積極的に介入する場合双方にあった。また、宗教はいずれも、この様な「施し」を勧めている。現在では、「施し」は否定され、受ける側の「権利」に変わっている。この様な援助を必要とする人のみを対象として給付を行うことを、「選別主義的」と言う。現代の選別主義の代表は、生活保護に象徴されるだろう。
社会保険に代表される普遍主義的政策は、国民の理解を得やすい。しかし、普遍的に給付を行えば、本来給付を対象としている人たちよりも、より多くの中所得者層が利益を得る場合が多いのである(その為に政治的に理解を得やすい)。その結果として、予算規模が大きくなり、社会福祉が不要な人にも給付が行き渡ることになる。例えば、子ども手当を普遍主義的に行う場合は、一定額をすべての所帯に給付する。その結果、膨大な給付額となるし、予算を抑えると所帯あたりの給付額が低くなる。給付は多ければよいというわけではない。多ければ、税金が高くなるか、国の赤字が大きくなる。一方、選別主義的に給付を行う場合、一定の所得で線を引き、それ以下の場合を給付対象とすると、多くの所帯が給付の対象から外れるために、さほど賛成が得られなくなる。そして線引きの周辺にいる人の不満が高まる。しかし、予算に関しては、全体の一部に給付するため、それなりに少なくて済むことになるのである。そして、本当に必要な人に十分な給付が届くのである。
この様な普遍主義と選別主義の特徴がある中で、日本の場合はどの様な方法がとれるだろうか。普遍主義的な方法を取る場合は、消費税あるいは所得税の大幅な増税が必要になる。選別主義的な方法であれば、消費税あるいは所得税の増税は少なく、その代わりに、給付対象も限定される。この様な議論の際、必ず悪乗りする人たちがいて、「第三の道」があると言うが、この選択の場合、「第三の道」はない。
日本の財政は逼迫している。普遍的に給付を行う余地が少ないことも確かである。しかし、選択を行うことに慣れていない国民に対して、選択を強いることが出来るかどうか、これは政府が巧妙に行うことでなく、国民が自分自身で選択すべきことになるのである。一定の給付を普遍主義的に行う場合は、膨大な資金が必要となるか、あるいは、一人あたりの金額が少なくなることは当然だ。日本の財政状態を考えると、社会保障給付は選別的に行い、本当に困っている人に、必要な額が届くことが望ましい。しかし、日本では、このような選別を行うことが難しい。
選別主義的な社会保障方式は、国民の所得や資産を把握し、給付の境界においての段差が強くならないようにする必要がある。その階層的なシステムは課税において経験済みなので、残るは国民の所得、資産が速やかに、リアルタイムで表示できるかどうかにかかっている。限られた財源を最も効率的に使うためには、選択主義的方法を前面に出し、ITの全面的な採用が必要となる。政府はこの様な段取りを国民に説明し、ヒステリックなマスコミの異論にも十分な説明を行い、財政危機と社会福祉の充実の双方を追い求める必要がある。デジタル政府が必要なのは、まさしくこの分野なのである。
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