メンバーシップ雇用(※1)の慣習が強い日本では、賃金の上昇をある程度抑え、雇用を優先しようとする企業の姿勢が強い。それに引きずられ、ジョブ型雇用(※2)に分類されるパートタイマーの時間給もさほど上がらない。例えば、都市部の介護施設(特に特養など)において、職員の採用難により居室の一部を閉鎖しているというが、これに至っては理解に苦しむ。
現在パートタイム介護職員の時間給は、800円~1000円程度である。フルタイム介護職員は一定時間に労働するのではなく、夜間休日勤務も命ぜられること、また、早朝の勤務もあり、パートタイム介護職員とは仕事の内容が異なるが、フルタイム介護職員の給与を時間に換算すると(2000時間の年間労働に対する年俸額は、通常介護職員で250万円~350万円)1250円から1750円程度となる。同一労働同一賃金を促す政府の働きかけの要点は、パート労働(いわゆる非正規労働)と、フルタイム労働(いわゆる正規労働)との賃金の差をなくすることである(これに対して、諸外国では、同一労働同一賃金は、性別、人種間の差別を禁止するもので日本とは意味が異なる)。
しかし、同一労働同一賃金の原則に沿って、パート勤務の時間給を1200円以上に引き上げ、介護職員を採用しようとする事業所は少ない。その言い分は、介護報酬が上がらないからということだ。たしかに、一般企業であれば、製品やサービスの値上げをして人件費の上昇を吸収することが出来るが、介護保険では、報酬単価が決められていて、値上げが自由に出来ないので、賃上げが出来ない理由にはなる。しかし、キャノングローバル戦略研究所松山幸弘氏の集計によると、収益が低いと言われる社会福祉法人でも、一般企業並みに3.5~3.8%程度の利益確保はなされているので、すべての介護事業者は、せめてパート時間給職員の時間給1200円程度の賃上げは捻出できるのではないだろうか。そして、非営利法人は利益をあえて出す必要がないことを考えると、営利法人よりも賃上げは容易かもしれない。一つの法人が先行して賃上げを行えば、そこに人材が集中するので、人材を求める法人はそれに追随することによって、介護職員全体の時間給上昇につながる良いサイクルが出来るはずである。それが出来ない法人は、賃上げを行うことが出来る法人に事業を移管すべきだろう。この原則は介護事業者に限らない。一般企業においても、人手不足感が強いなら、賃上げを行い、他社に先駆けて人材を獲得すべきだろうが、その動きは少ない。
スウェーデンでは、手厚い社会保障の割に経済成長が高い原因の一つとして、生産性の低い企業に対して市場から退出することを促す政策がある。企業を守るのでなく、市民を守るのだ。国民の幸福感を増加させる最も良い方法は、経済的に生活が楽になることだ。底辺の給与に甘んじている、パートタイム職員(時間給職員)の賃上げを促し、それを起爆剤にして、企業と労働者の付加価値の分配を是正することが景気上昇を国民が実感する方法であるし、それが、日本全体の幸福にもつながるはずである。これは、政府の言うように、パート労働者がフルタイム労働者に必ずしも移行する必要がないことも示している。
しかし、先に述べたように企業側(介護施設)が、賃上げをするくらいなら売上を落としても良いとの消極的な態度であると、競争原理は働かない。その場合、国が取ることのできる唯一の方法として、最低賃金の引き上げが考えられる。
現在多くの企業がパート職員の賃金を最低賃金のあたりに張り付かせている。最低賃金は全国の加重平均で昨年901円(本年度わずかに上がって902円)だが、これは東京や神奈川の賃金によって加重平均が引き上げられているので、多くの県で未だに700円台から800円台の最低賃金が多い。賃金の改定には国が関与しないほうが健全であるが、同一労働同一賃金の法則が理解され、実行される見込みは少ない(政府の熱意が足りない)現状では、唯一最低賃金だけが、国が介入出来るものである(違反の場合50万円以下の罰則付き)。今年度はコロナ禍による景気減退との理由で、最低賃金の引き上げがほとんど見送られたが、来年以降、速やかに加重平均で1000円以上を目指し、さらには1200円程度を中期の目標にすることによって、国民の生活、経済への好影響が生まれるのである。
(※1)メンバーシップ雇用;人を採用し、採用した人に仕事を割り当てるやりかた。新卒一括採用をとる日本の企業がとっている方式。
(※2)ジョブ型雇用;ある仕事に人が割り当てられる雇用形態。欧米の多くの企業が採用している。雇用される場合は、最初から仕事の内容が分かっている。
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