今回、放浪はお休みして日本滞在中の筆者。
東京に戻ってきて、コロナ感染よりも熱中症の方が、さらにはコロナ差別の方が恐ろしいと感じる今日この頃。
8月末の突然の安倍さんの辞任というニュースにはびっくりしました。その結果自民党の総裁選挙が行われ約8年ぶりに日本のリーダーが変更になり、時を同じくして新野党が誕生する。そして11月3日にはアメリカ大統領選挙が行われる・・・。自国の新しいリーダーを選ぶ、その国民の責任は重いものです・・・。
さて、社会変容やビジネスを考える上でのキーワードは、短期的にはCOVID−19、中期的には気候温暖化対応、長期的には人口動態だと思っています。これらのメガトレンドに加えて、地政学的なイベント、人種問題、大統領選挙などが政治的にも、企業判断にも、そして個人の行動にも影響を与えています。
今回は、コロナ禍における経済や金融現象について個人の見解を述べたいと思います。
コロナの影響で2020年の前半は世界的に貯蓄率が上昇。
日本人の貯蓄率って高いと思っていました。事実、2000年までは日本の貯蓄率は世界的にも高い方でしたね。しかし、経済の停滞、給与が増えない中、貯蓄率は減少していきました。貯蓄率の減少に関しては人口動態で説明されることも多いですが、10年程度の時間軸で見ると貯金を取り崩す高齢者の割合が増加したことだけで説明するのは難しいですね。やはり日本経済の停滞と平均給与の伸びの鈍化による可処分所得の減少の方が、説得力は高いかなと思います。
そんな貯蓄率が急激に上昇しました。日本だけでなく、米国もユーロ圏も。これはコロナ禍において消費が増えない中、政府からの給付によって所得移転が起きたことに起因しているようです。さて、この積み上がった貯蓄は、これから何処にいくのでしょうか?
ニューヨークではマンハッタンを脱出して、郊外の一軒家を買う動きが加速しています。
日本でも東京や首都圏の人口流出が起こっているとか。
コロナで苦境に喘ぐのは個人だけではなく、多くの企業も影響は甚大です。特に人の移動を人為的に抑制したため、航空業界、ホテル、観光、飲食などは甚大な影響を受けています。世界的に各国の中央銀行は政府と連携しながら、企業の資金繰りを支援するための様々な策を講じています。今回はリーマンショック時より政府や中央銀行の動きは迅速でした。流動性を確保し、信用供与にも積極的です。
この結果、世の中から「金利」が消滅しつつあります。多くの国で刷られたお金はどこに向かうのでしょうか? リスク資産の代表である株式市場は俗に言われる「実体経済」からは乖離しているように思えます。米国は有名な新興企業が多く上場するNASDAQだけでなく、インデックス投資の代表指数であるS&P500もコロナ前の高値を更新。日本の株価も堅調ですね。株価は将来の鏡と言われていますが、少なくとのコロナ以前のValuation手法ではなかなか正当化できないレベルにきています。しかし、これがニューノーマルなのか?今後の動向に注視していきたいと思います。
また7月はマンハッタンの賃料が10%超下落していると報告がありました。統計的にもオフィスマーケットでは需要が減少しており、空室率も上昇しています。リモートワークのさらなる進展で一極集中型の都市開発、コマーシャル不動産のあり方も変化するのでしょう。
足元の企業業績の悪化、将来に対する不安の増大・・・でも株価もREITも総じて堅調。やはり、マーケットに溢れ出したMoneyはその行き先を探し続けているのかと思います。コロナによる影響は直接的な経済影響に加えて、それに対応するための政策によっても大きな影響が出ています。
グローバルな保険市場は保険料率のサイクルなるものが存在します。世界的に事故があれば保険金の支払いが増大し、将来の保険リスクを吸収するだけの資本が足りなくなり、需給の関係で保険料率は上昇します。逆に事故が少なく保険会社に利益が出れば、その利益を追いかけて資本が流入し、需給バランスが崩れ保険料が下がる仕組みになっています。
過去40年で前年比でも10%以上の保険料アップが起きた時期(ハード化)は今回を含めて3回ですが、ハード化が起こる前には大きな自然災害等で保険会社の収益が悪化しています。今回も過去数年間に起こった自然災害の影響からハード化が起こっているようです。一方でここ10年余りは資本市場からの「お金」の流入が続いており、グローバルな保険マーケットでは「ソフト化=保険料率の下落」圧力が強まっていました。その流れに変化が生じたのはここ2、3年。世界的な自然災害の増大により保険金の支払いが増えています。
その結果、マーケットのソフト化からハード化への転換がみられたのが昨年のこと。そんな環境下でのコロナ騒動です。コロナにより多くのイベントがキャンセルになったり延期になったり。東京オリンピック、パラリンピックもそうですね。それらの損失をカバーする保険では多くの保険金支払いが起きています。また、企業の倒産リスクをカバーする保険、事業継続リスクを補償する保険などでも保険金の支払いが発生しています。日本の保険会社と比較して、ギリギリの資本で事業を行うことで高いROEを実現していた多くのグローバルな保険会社にとってコロナは上記のような保険金支払いだけでなく、資産運用にもマイナスの影響を与えました。結果として、多くの保険会社は資本増強を強いられる一方、保険マーケットでは「ハード化=保険料率の上昇」が加速しています。
日本の保険マーケット、特に個人マーケットでは保険料算出の仕組みが異なるため急激な保険料の上昇は起きませんが、日本の保険会社が支払う再保険料は種目によっては40−50%も上昇しています。
一方で、コロナの影響で人や物の動きが止まった国や地域では「事故」の減少も顕著です。特に自動車保険に関しては世界的に事故率が低下しています。一時的には保険会社にフォローの風が吹いていたようですが、7月以降は世界的に事故率が上昇、やはり経済活動、物流再開により事故が増えています。
皆さん、自動車を運転する際にはお気をつけください。
所得格差を表すジニ係数によると、米国ではコロナ以前から格差の拡大が確認されています。2019年の上位1%が占める所得の平均は47万ドルを超えており2018年と比較しても6%強増えています。他の所得レベルと比較してもその上昇額、上昇率とも抜きん出ています。また2020年上半期の失業率をみても平均賃金の低い産業ほど失業率の上昇がみられます。
そのような環境下で、上記のようなコロナによる貯蓄率上昇、リスクアセット上昇、保険マーケットへの影響を考えた時、ますます経済格差は広がりそうです。
一方で各国はそれぞれの異なった歴史や価値観を有していますが、コロナという人類共通の敵を前にして、拡大した格差の行く着く先に何が待っているのでしょうか?
民の力による格差解消、官による格差の是正・・・どちらかだけではうまくいかないのでしょうね。今回のコロナは人類全員に影響を及ぼしていますが、短期で見ると高齢者や基礎疾患を持った「弱者」を集中的に攻撃しているようです。そのことは、コロナ対策による受益者は人類全員ではあるものの、短期的にはある一定の弱者に集中していることを意味します。受益者負担の原則を無視すると日本の社会保障制度のように極めてバランスの悪いものになるのではないか?と心配しています。それが社会の断絶、分離を引き起こさないか?
インフルエンザ、交通事故、溺死による被害者の数と比較しても日本におけるコロナによる死者(犠牲者)は圧倒的に少ないという事実。そのような環境下で極めて強い同調圧力による一律10万円の給付金(実際には第一四半期の雇用者所得はほとんど減っていない)、一種の言論統制のような毎日毎日の感染者の数だけの報道(東京に帰ってきて朝テレビをつけるとほとんど同じような番組、お昼過ぎからは決まって東京都の新規感染者数の報道ばかり)。そして若い世代を中心にリーダーの言葉を真正面から受け止めなくなってはいないか?リーダーは信頼されなくなったらリーダーではなくなってしまいます。
お上文化の日本でありますが、もう少し個々人が自分自身で情報を収集し、分析し、判断して行動することが求められるのではないかと思っています。
私自身も東京での生活に少し疲れましたのでまた放浪の旅に出たいと思います。
皆さん、くれぐれもご自愛ください。
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